第9話 作戦会議

「みんな揃ったな」


 ここは悪魔族専用の図書室。今日起きてしまったミラノの死を受けて、ミッシェルをはじめカミュア、アーリーン、ジェイク、そしてライトが秘密の扉を通って集まっていた。カイトは残念ながらリモートで参加だ。


「残念ながら…8番目の犠牲者が出てしまった。ライト? 確かお前も面識があったんだよな。大丈夫か?」

「はい。ミラノ様のご冥福を心よりお祈りしたいと思います」

「あ、ここでは止めてね。お祈りは人間界でお願いします」


 ミッシェルは慌ててライトを制する。ここは悪魔族専用の図書室だからね。神への祈りは本たちが暴動を起こしかねない。


 さて、ここからが本番と言わんばかりにミッシェルは気を取り直して話はじめた。


「まずは、ミラノの死について…。カイト状況を説明してくれるか?」

『あぁ』


 カイトの顔がジェイクのパソコンの画面に大きく映し出される。画面上でもイケメンはイケメンだ。


『今日、礼拝堂に様子を見に行ったんだ。そこにはミラノの遺体が飾られてた。まさに飾られていた、という言葉が合っていると思う。それほどミラノの遺体は奇麗だった』


 カイトは真剣な顔でミラノの死の状態について細かに語った。まるで映像が見えるかのような分かりやすい説明だった。さすが第1級天使族。

 ミッシェルはカイトの説明を腕を組みながら考え込むように聞いていた。


『君たちも分かってると思うんだけど…。ミラノの魂はどこにも見当たらなかった。別な場所で殺されて礼拝堂に安置されたとしても、普通魂の痕跡は残るものだし、僕たちが魂の受入をジャッジしているからね。見落とすことはないはずなんだ』

「そうか…。ミラノの魂は存在していなかったか。ありがとうカイト」


 ミッシェルは図書室の中を考え込みながらゆっくりと歩き回る。そしてアーリーンに意見を求めた。

 えっ? 俺? っていう顔でアーリーンは目をパチクリさせている。


「アーリーン。今日感じたことをみんなに話してくれ」


 アーリーンはミッシェルが用意したクラッシックソファーに、カミュアと座っていた。

 横を見ると、カミュアが大人しく膝をかかえて座っている。前日ミラノに会って話をしたようだし…気落ちしているのもうなずける。アーリーンですら、悲しみを背負っているのだから。


「俺たちは今、この学園の誰かが呼び出しちゃいけない悪魔を呼び出してしまったことによって、一連の悲劇が起きていると考えてるよね。そこまではみんなOK?」


 図書室にいる全員が頷く。カミュアも顔を上げてアーリーンの目を真剣に見つめていた。


「俺は、その呼び出してしまった誰かっていうのが、3年生のアリスだと思ってる。そして、呼び出した悪魔は…」


 アーリーンは声に詰まる。理由は背中の刻印が反応したから。ただそれだけなのだ。それ以上でもなければそれ以下でもない。


「どうしたのアーリーン?」


 カミュアが心配そうな顔でアーリーンを見ている。ミッシェルはアーリーンに小さく頷いている。話せってことだ。


「あ、ごめん。これは…その…根拠もなにもないんだけど、呼び出された悪魔は…、マイク先生なんじゃないかと思う」

「マイク先生って、アリスと今日いた人だよね?人形の様にキレイでちょっと冷たい感じの…」

「確かにアリスも人形の様にキレイだけど、あいつも人形のように整った顔をしてたな」


 カミュアとアーリーンは礼拝堂の前の出来事を思い出し、ブルっと身震いをする。


「ジェイク。マイクという教師について分かることを教えてくれないか?」

「はい。ミッシェル先生」


 ジェイクはタブレット端末を操作して、マイクについてモニターに情報を映す。モニターに映しておけば、カイトも見れるはずだ。


「マイク先生は美術の教師で、美術部の顧問です。3年前この学校に赴任されたという記録がありました。名前は、マイク・レビトン。この学校に来る前はフランスの美大で臨時講師など担当されていたみたいです」

「マイク先生は、何でこの学校に来たの~? そうゆう情報もわかったりするの?」


 カミュアが珍しくまともな質問をする。明日はきっと雨がふるだろう…。なんてアーリーンは思っていた。


「ちょっと待ってくださいね」


 ジェイクはタブレットを器用に操作する。あった。と言ってモニターに情報をスワイプして表示させる。そこにはこう書かれていた。


「どうやら、前任者の先生が急病で倒れたことによる臨時公募からの臨時採用。そのまま本日に至るって感じですね」

「怪しいな」


 そう口を挟んだのはミッシェルだった。


「はい。事件が起き始めたのも3年前からです。アーリーンさんの読みはあながち間違いではないかと」


 ミッシェルが大きく頷く。


「アリスとの関係は? わかるかジェイク?」

「はい。先ほど調べておきました」


 再びジェイクがモニターに資料をスワイプする。


「アリスさん…。1年生の春に大病を患ってますね。入学してからすぐのことのようです。ほら…ここに休学と」

「ホントだ。お前これどこから入手したんだ?」

「それは…企業秘密です」


 ジェイクはアーリーンの質問をうまくかわしながら話を続けた。


「6月に学園に戻って来たという記録はありますが、4月5月の記録が休学なのでありません。ですがミラノさんのSNSにアリスさんとの2ショットとコメントを発見しました」


 ジェイクは再び画面を表示させる。


「これは既に削除されてしまっていましたので、画面キャプチャ―になります。ここに写っている左側の帽子をかぶっている方がアリスさん。右側がミラノさんですね」

「全然違う人だ…」


 カミュアが驚くのも無理はない。画面に映っているアリスは、肌はボロボロ…髪の毛も縮れてしまっているのか、ニット帽を深々とかぶり病院のベッドの上で点滴に繋がれていた。

 今のアリスとは別人のようだ。今のアリスは誰もが羨む美貌、人形の様に整った魅力的な美人顔をしている。

 いまの医療は素晴らしい。休学していた2か月間で整形手術を施していたのかもしれないが、悪魔の力を借りたとしたら。辻褄が合う。


「そういえば…。僕、アリスに誘われた」

「えぇっ?」


 図書室にいる全員が驚いた。カミュアへ視線が集中する。ライトももちろん驚きを隠せない。普段感情を表にださないライトさえ驚くということは相当な話なのだ。


「カミュア! 断ったんだよな?」

「何て言われたのですか?」


 アーリーンもジェイクも前のめりでカミュアに詰め寄る。


「あ…二人とも落ち着いてよ。ミラノのお別れ会っていうのをやるんだって。だから一緒に参加しない? って言われただけだよ。アーリーンも一緒にって言ってた」

「俺は何も聞いてないし…。それ…怪しいな」

「怪しいですね」


 カミュアはキョトンとしている。人をたまには疑え!と言いたい。


「カミュアさま。ここはお断りしておいた方がよろしいのでは?」


 初めてライトが口を開いた。相当心配しているのが分かる。


「あ、まだ参加するともしないともお返事はしてないんだ」

「それでは早速お断りのご連絡をいたしましょう」


 ミッシェルが、カミュアとライトのやり取りを手で制した。ちょっと待てという合図だ。


「お別れ会ってどこでやる予定なんだ?」

「うーん。ミラノがいた礼拝堂だって言ってたけど」

『礼拝堂?』


 声を上げたのはカイトだった。


「どうした? カイト?」

『あ…。あそこは邪悪な気が多かったし、悪魔の痕跡をはっきり見たかったから…』

「見たっかったから?」

『あ…。うん。浄化した』


 カイトは申し訳なさそうに言う。浄化された礼拝堂は神聖な場所として悪魔は入れない。ということはアーリーンは一歩たりとも入れないということだ。


「それって、俺は入れないってこと? ミッシェル先生?」

「どうかな~。カイトは腕がいいからな」


 ミッシェルは考え込む。今度はみんなの視線がミッシェルに注がれた。


「ま、大丈夫でしょ。お守りあるしね」

「えっ?」


 ちょっと待て? 大丈夫だという保障はあるのでしょうか? アーリーンの心配は完全に無視されたようだ。


「カミュアとアーリーンはアリスの誘いに乗ってくれ。おそらくマイクという奴は礼拝堂には一歩たりとも入れないだろう。だからこのお別れ会で何かが起きるとは考えにくい。奴らの次の手を見せてもらおうじゃないか」


 ミッシェルは良い案を思いついたという爽やかな顔をしている。


「俺たちを囮にするってことっすか?」

「まさか!? 大丈夫。こちらも次の手を考えるよ」


 カミュアを見ると、カミュアもミッシェルと同じようにワクワクした顔をし始めている。やっぱり親子だ…。


「ジェイク。念の為キャリーにこれまでの犠牲者と関係のあった人物のピックアップをすすめてくれ。ミラノの分もインプットして」

「マイク先生で確定じゃないのですか?」

「念の為だよ」


「了解いたしました」


「ライトだけちょっと残ってくれ。あとは解散!また明日ここで会おう。待ってるからね」


 ライトとミッシェルを残し、みな自室へ戻って行った。もちろんカミュアは一人が怖いという理由でアーリーンの部屋でライトを待つことにしたのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る