第7話 ミラノの死
ドンドンドンドン、ドンドンドンドン。
―― うるさいな…。
「アーリン!? アーリン、起きてる~?」
カミュアの声が遠くから聞こえる。あれ? 朝なのか?
ドンドンドンドン、ドンドンドンドン。
「開いてるよ」
「アーリーン!」
部屋の扉が勢いよく開き、カミュアが飛び込んできた。昨夜ミッシェルが言っていた言葉が頭の中でリピートされる。
『俺が奴の立場なら、必ずカミュアを狙う。悪魔の血をひく天使なんてそうはいないからね。これ以上ないターゲットだろ?』
「あ~カミュアか。どうした? 今日は祝日だろ?」
寝ぼけた顔でベッドから起き上がり、アーリーンは頭を掻いている。そこへ血相をかえて飛び込んできたのがカミュアだった。
「アーリーン、落ち着いて聞いて!」
「どうした?」
カミュアがアーリーンの肩をがっしり掴み真剣な眼差しでこう続けた。
「ミラノが…。ミラノが…」
「ミラノがどうした? あ~話を聞きに行こうって話してたよな。もう行くのか?」
「そうじゃない。死んだんだ」
アーリーンはカミュアが何を言っているのか、寝ぼけた頭ではすぐに理解できなかった。死んだ? 昨日話したばかりだというのに…?
「嘘だろ? 悪い冗談はやめてくれ」
「嘘じゃない! 今、朝の礼拝に出向いた学生が発見したって…。礼拝堂は大騒ぎになってる」
女子寮は礼拝堂に面した方角に存在している。だからカミュアの耳にもミラノの一件が聞こえてきたのだろう。
「何故!?」
「分からない。でも…」
「行ってみよう。ジェイクは?」
アーリーンは、脱ぎ捨てた制服を拾い上げ着替え始めた。背中の刻印がカミュアの目にふれないように注意をしながら。裸やパンツを見られるのは気にならないらしい。
カミュアは
「今ライトが知らせるために図書室に向かってる」
「そうか。じゃ、現地で会えるな」
「うん。早く行こう!」
そう
* * *
セント・クリスティーヌ校内にある礼拝堂は立派なものだった。中世ヨローパを彷彿させる大聖堂のような創りで、中央正面にイエス・キリスト像がある。そしてそれを囲むようにアーチ型の高い天井には天窓が仕込まれており、そこから入る日差しが神秘的な光となって礼拝堂を照らすのだ。
さらにこの礼拝堂が素晴らしいとされるのは、彩り豊かなステンドグラスの壁面だ。神秘的なステンドグラスにはキリストの生涯がデザインされている。建築物としてもとても素晴らしいものだと言えよう。
「アーリーン? 中に入れるか?」
「たぶん…」
礼拝堂付近は野次馬の生徒、状況を確認し生徒を自室に誘導する教師とでごった返していた。
アーリーンはミッシェルから手渡されたウェルキンソン家のお守りを肌身離さず持っていた。きっとこのお守りが守ってくれるはず。ミッシェルを信じれば、ということではあるが。
「アーリーン! あそこにアリスがいるよ」
カミュアの指差す方向に、ここにいる誰よりも綺麗な姿で涙している生徒がいた。その側には見たことのない、背の高い男が立っている。
アリスと同じように人形のように綺麗な顔をしていた。肌は白くカイトのように後ろで短い髪を束ね、清潔的というより潔癖ナルシストという言葉が似合う男だった。
「アリスの側にいるのは誰だ?」
「あの人は、美術部の顧問をしているマイク先生ですね」
「えっ? ジェイク?」
いつから側にいたのかわからないが、ジェイクがタブレット端末を持ってカミュアの横に立っていた。
「遅くなりました。うちのキャリーの機嫌が悪くて、ミッシェル先生と話をしていたので…。ごめんなさい」
「パパは何て?」
「ライトさんが、後は見てくださるとのこで」
「なんだよ。結局最後はライト頼みかよ」
まぁまぁ…とジェイクはアーリーンをなだめながら自分の眼鏡を指で直す。
「じゃ~ジェイクも今来たってことは…ミラノの発見当時の話とかは、わからないんだな?」
アーリーンは礼拝堂の回りを見渡す。その時特別クラスのコミュニティに連絡が入った。
『入り口に行け。中に入れる』
ミッシェルからの伝言だった。まぁ~この学校に転入できたくらいだから、何か太いパイプでもあるのだろう。
「行くぞ」
ミッシェルが生徒たちの集団に入った時、事態が変わった。
「アーリーン様! カミュア様」
「キャーこっち向いた~」
集まった生徒たちに気づかれたのだ。あっという間にアーリーンたちは生徒に囲まれてしまった。
「いや。えっと…通してくれないか?」
その騒動に気づいたアリスと男がこちらを見る。気づかれた。
アーリーンの背中が強烈に痛み出す。マイクの冷たい目が、アーリーンを
「ほら~2年生以外は、みんな自分の部屋に戻るように。2年生は臨時にホームルームをやるから、教室に行くように」
慣れたようにマイクはそう叫ぶ。アリスの腰にそっと手を添えて、アリスにも部屋に戻るように耳元で伝えているようだ。
ミラノの幼馴染みとして、後程話を聞かれるのかも知れない。
「カミュア、ジェイク。ライトのところに行け。ライトから離れるな。危険を感じたら、図書室に行って、ミッシェル先生を呼び出すんだ」
「アーリーン?」
カミュアの声が震えている。
「大丈夫だ。ミッシェル先生に、アーリーンの背中が痛むって伝えたらわかる」
アーリーンは、カミュアの心配そうな顔にそっと手を添えてみる。大丈夫と自分に言い聞かせるために。
「俺は教室に行く。また夜に会おう。ジェイク、アリスとマイクに気を付けろよ」
「アーリーン? どうゆうこと? 僕にわかるように説明してよ」
カミュアの言葉をよそに、ジェイクは小さく頷きカミュアの手を引っ張り、寮に向かう。
「行きましょう。カミュアさん」
「アーリーン!」
アーリーンは、カミュアたちに背を向け教室へ向かった。
マイクの氷のような瞳がアーリーンの背中を追っている。
―― 見つけた。あの方の正統な器。
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