第6話 カミュアを守れ!
「先生~? ミッシェル先生?」
アーリーンは自室から繋がっている図書室へと足を運んだ。なぜならミッシェルから呼び出されたからだ。
『どうだい? 体調は回復した? 図書室で待ってるよん♪』
―― はいはい。相変わらず軽いよな~。
アーリーンは一人で悪魔専用図書室の扉をくぐる。
昨日入室した時は、本棚の書物が騒がしかったのに今日はとても綺麗にあるべき場所に収まっている。しかもすごく大人しく、本に命が吹き込まれているとは誰も思わないだろう。これもミッシェルに恐れ(?)を抱いている本たちの忖度なのか…。
「お、来たか。どうだ~体調は?」
アーリーンが入ってくると、奥の方から間の抜けた大きな声が聞こえてきた。
声のする方を見てみると、ミッシェルが図書室のデスクに腰をかけ、分厚い本を読んでいた。
「こっちに来てるなら、カミュアも呼んであげればいいのに。相変わらず何を考えてるかわかりづらいですね~。俺に何か用っすか?」
「ま…。そう言うな。カミュアの話は的が得られなくてね。お前から直接話を聞いた方が早いかと」
ミッシェルは指を鳴らし、今まで読んでいた本を本棚にしまう。本も素直にあるべき場所に向かってミッシェルの手から飛び出していった。
「他にも何か?」
「あぁ。お前もうすうす分かっていると思うけど、予想以上に強力な悪魔がこの学園に降臨されている。どの
いつになくまともな口調で話すミッシェルの言葉に、アーリーンは夕方に起きた出来事を思い返す。アリスにまとわりつく悪魔の意識はかなり強烈だった。あのアリスであのレベルだとしたら、大元はどれだけパワーがあるか…。考えただけでも恐ろしい。
「先生…。俺…そいつに関わってる生徒に会った気がする」
「うん? どうしてそう思う?」
「それは…」
アーリーンはあの刻印のことも含めてミッシェルに話た方がいいか真剣に悩んだ。ミッシェルなら、なにかこのことについてわかるかもしれない。この背中の刻印がアリスに何故反応したかも。
でもなぜかこの背中の印について誰にも知られたくなかった。なぜかはわからないけど。
「何か気になることでもあるのか?」
ミッシェルの優しい声と共に、すごい圧とパワーを感じてアーリーンの肌はピリピリしている。これが悪魔族第一級の資格を持つ者の力だ。
ミッシェルはこの図書室の中で、力を抑えることが難しくなっているのかもしれない。だって、明かにいつもと雰囲気が違うのだ。
それなのに、アーリーンの背中の刻印は反応しない。アリスの時に感じた痛みは、きっと何か他の力が働いたのだろう。
「どうした?」
「いや…。今日…アリスという学園の生徒会長に会ったんです。ライトがこの前会っていた少女の幼馴染とか」
「ふむ」
ミッシェルはパチンと指を鳴らし、アーリーンのためにソファーを用意した。ふかふかなアンティーク風のソファーだった。どこから湧いてきたのか謎だ。
どうぞ。とソファーをアーリーンに勧め、ミッシェルは話の続きを促す。
アーリーンはソファーに座り、祈るように手を組みながら前屈みで話し始めた。あの時の身体の内から湧き出てくるような
「カミュアから聞いてると思うんだけど、その少女からとてつもないパワーを感じたっていうか…。悪意のカスがこびり付いていたっていうか、
「そうか…。痺れたか。で、ストーンは反応したか?」
「いや。いつもみたいな反応は全くなかったと思うんだけど」
気を失ってしまったのだからはっきりと覚えていない。という言葉は飲み込んだ。
「そうか…」
ミッシェルはじっと何か考え込んでいるようだった。
そしてミッシェルはアリスのことミラノのこと、そしてカミュアについてもいろいろ質問をしてきた。だからアーリーンは覚えている範囲でミッシェルにしっかりと報告をする。その都度ミッシェルは頷き、いろいろ頭の中で考えているようだった。
「他には何か伝えておくことはないか?」
「ないと思うけど…」
アーリーンは結局背中の刻印についてミッシェルに話さなかった。ミッシェルは眉間に皺を寄せアーリーンをじーっとみている。でも話したくないこともあるのだ。
「そうか、ありがとう。よくわかったよ」
ミッシェルは机から体を起こし、アーリーンの隣にどかっと座り腕を後ろに回し、長い足を組む。
「ま〜、今日のことで奴にお前たちの存在がわかっちゃったかもね〜。さて、どうするかな〜」
いつもの軽いミッシェルだ。この状態を楽しんでいるかのようにも見える。
「どうするって? 先生、何が起きてるんっすか?」
「そうだね〜。これは推測なんだけど、アリスって子が何か望みを叶えるために悪魔を降臨したってことだと思うんだよね。その時に間違って、召喚してはいけない
アーリーンは少しミシェルから距離を取り、ミッシェルに顔を向けて座り直す。ミッシェルとの距離が近いと、何をされるか分かったものではない。
「それでアリスから、悪意のカスを感じたのか」
「う〜ん。多分ね。で今は召喚しちゃった悪魔に女の子たちを献上し続けなくちゃならなくなってるんだろうな〜。かわいそうに」
「自分でストップすりゃーいいのに」
「う〜ん。それができない状態を作り上げられちゃってるんだろうねー。もしかしたらアリス自身の命と引き換えに終わらせる契約なのかもしれないしね」
「そんな。エゲツナイ」
「何言っちゃってるの。それが悪魔でしょ(笑)」
ミッシェルも人間との契約の際に命を奪うこともするのだろうか…。アーリーンの心がチクッと疼く。見習い悪魔のくせに情けないと言われそうだが、フェアーじゃないと思ってしまう自分がいる。
「ま、そうなんっすけどね」
「次に奴が取るアクションとして考えられるのは…」
ミッシェルはさらに踏ん反り返り、指を立てながら自信満々に語り始める。
「1つ目、奴はお前たちに目をつけて最後の犠牲者をお前たちにするために行動を加速させる。2つめ、ま〜これはないと思うけど…諦めて逃げ出す。かな」
「最後の犠牲者?」
「あぁ、すでに7名犠牲になってるだろ? おそらくあと2名が犠牲になると…俺は踏んでる。9という数字がポイントだな」
「じゃぁ、ミラノと…」
「カミュアか…」
アーリーンは思わずソファーから立ち上がり、ミッシェルの踏ん反り返った顔を凝視する。カミュアが悪魔の生贄にされるなんて考えたくもない。
「そんな馬鹿な話ってあります? カミュアは見習いといえ天使ですよ。しかも先生の…」
「だからだよ。だから悪魔への生贄として最高の贈り物になるだろ?」
「そんな…」
先生の読みは外れてる! と言いアーリーンはミッシェルの前を行ったり来たり落ち着かない。
「目が回る…。落ち着け」
「これが落ち着いていられますか!? カミュアだけでも戻してください」
「俺が何も対策を打たずにここにいると思うか?」
「…?」
ミッシェルは計画性があるとは到底思えない。カミュアを見れば良くわかる。アーリーンは疑いの目でじーっとミッシェルの顔を見た。
ミッシェルはそんなアーリーンの気持ちはお構いなしに話し続ける。空気が読めないというのはこうゆう時とても便利だ。
「お前ね〜。ま〜…信じてくれなくてもいいよ。俺のプランはこうだ! お前たちには最初の予定通り、悪魔が誰に扮しているのかを見極めてもらいつつだな〜。お前にはあと2つ頼みたいことがある」
アーリーンはカミュアを餌にすることに対して、ミッシェルにかなり腹を立てていた。だからぶっきら棒な聞き方をする。
「何すか?」
お、目が
「そんなに怒んないでよ。1つ目ね、カミュアを守って欲しいということなんだよ。俺が奴の立場なら、必ずカミュアを狙う。悪魔の血をひく天使なんてそうはいないからね。これ以上ないターゲットだろ?」
「だから…どうやって守っていけばいいんっすか?」
「大丈夫さ〜。お前ならできる。ていうかお前しかできないことだよっ!」
「相変わらず〜軽いっすね」
頼まれなかったとしてもアーリーンには覚悟ができていた。人間の私利私欲の心の隙間に付け入る悪魔が許せない。自分も悪魔族なのに…、変な話なのはわかっている、でもそう思えて仕方がないのだ。
「2つ目はね。これ大事だからよく聞いてね。奴を封印するための罠を仕込んでいこうと思う。魔法陣を可能性のあるところに用意しておく。相手が誰なのかわかったら、奴をそこに追い詰めて欲しいんだ」
「俺、魔法陣なんて書いたことないっすよ?」
教科書で見たことはあるが、自分で設置したことはまだない。
「それは、ライトに頼むよ」
「えっ? ライトに?」
「そう…。俺たちが人間界に姿を現し、力を使ったら真っ先にトラップが奴に見つかっちゃうでしょ? こう見えて俺は有名人だからね」
話はこれでおしまい! と言わんばかりにミッシェルは立ち上がりアーリーンに背を向ける。
「じゃ、くれぐれも気をつけるんだよ。魔法陣ができあがったら連絡するね。それと…君の背中の印が疼き始めたら、奴は君の側にいるってことだから」
「えっ?」
じゃっ! と言い、ミッシェルは爽やかに図書室から消えた。
―― な、何なんだ? 知ってたのかよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます