第4話 次のターゲットはミラノ?

「朝か…」


 結局カミュアは自分の部屋に戻らず、アーリーンのベッドを独占していた。だからアーリーンはカミュアから離れた場所で目覚めることになる。


「くっそ~。身体がバキバキする」

「アーリーンどうしたの?」


 すがすがしい朝を迎えたカミュアが不思議な顔をしてアーリーンを覗き込む。だからアーリーンはため息をつく。せっかくのチャンスを物にできなかった自分に腹を立てて。


「……。もういい。急がないと遅刻するぞ」


 ま~こんな感じで二人きりの初めての夜はすぎ、朝がやってきたのだ。


 二人はそれぞれの教室に向かう。もちろん、アーリーンの部屋から出てきたカミュアを、男子寮の生徒がまぶしそうに見つめているのは言うまでもない。


「じゃ、気をつけろよ。敵は側にいるかもしれないんだからな」

「アーリーンもね」

「あぁ」


 ミッシェルが用意してくれたリングの力は偉大だった。アーリーンはどさくさに紛れて、カミュアの頭をポンポンと叩いてみる。触れ合った箇所に衝撃はない。カミュアもなんだか嬉しそうだ。


 アーリーンが教室に入ると、女子生徒は遠くからアーリーンを眺め「きゃー。かっこいぃ~」などと話している。


 その中で教室の後ろの席にぽつんと座っている生徒がいた。誰とも話をせずひっそりと頬杖をついて外を眺めている少女。

 ライトと楽しそうに話しをしていた子に間違いない。でもどこか印象が違って寂しげな表情をしていた。


「ねぇ~君。たしか…ミラノさんだっけ?」

「えっ?」


 ミラノは自分が話しかけられるとは思っていなかったので、何で話しかけてきたの? っという顔でアーリーンを見つめる。まわりの女子たちはアーリーンが特定の子に話しかけたことに驚きと嫉妬の目線をミラノに投げかけていた。


 ミラノは可愛らしい顔をしていた。奇麗ではないが眼鏡をはずしたらもっと彼女の魅力が出るのにな~とアーリーンは思った。カミュアとはまた違う可愛らしさだ。


「えっと、私になにか…?」

「あ、話しかけちゃって迷惑だったかな?」

「いえ…。でも私なんかに話しかけない方がいいと思いますよ」

「なんで?」


 ミラノが周りを見渡す。周りにいる生徒たちの目が冷たく感じるのは気のせいなのだろうか…。


「いえ…」

 

 ミラノは寂しそうに俯いてしまった。


「あのさ~。放課後学校を案内してくれない? 俺と~そう妹のカミュアも一緒に。頼まれてくれるかな?」


 アーリーンは大人の雰囲気でやさしくミラノにお願いをしてみる。どうせカミュアはジェイクとつるむだろうから、4人で行動するのもいいだろう、と思ったのだ。


 ミラノは少し迷いながらも、頷いた。


「じゃ、後で」


 アーリーンは思い直した様にミラノに話しかける。ミラノの心を少しでもほぐしたかったから。


「あ、そうそう。妹がさ~、甘いものに目がないんだよ。もし美味しいスイーツのお店とか知ってたら、後で教えて♪」


 アーリーンは特別な笑顔とウィンクをミラノに贈る。カイトやミッシェルがやっているみたいに、無駄に恰好つけてみる。

 ミラノがクスっと笑った。あれ? 何で笑われるんだろう…。アーリーンは納得いかなかったけれど、だまって席につくことにした。


* * *


 長くて退屈でよくわからない授業が終わり、やっと放課後がやってきた。アーリーンの周りには何人かの女の子が集まってきて、美味しいケーキを食べにいかない~? などアーリーンを誘ってくる。

 でもアーリーンにはミラノとの約束があるから、適当にあしらってカミュアを迎えに1年生のクラスに向かった。


 何の縛りもなければ、人間の女の子と遊び倒すことも悪魔族のステップアップとしてはプラスになりそうなものだが、アーリーンはカミュア一筋なのだ(今のところは)。


 アーリーンが歩けば、女子生徒が立ち止まり挨拶をする。そして「目があっちゃった~」とかきゃーきゃー言ってるのが聞こえる。アーリーンのモテ期到来。ミッシェルの助言は大当たりだった。黙っていれば、人間が勝手に寄ってくる。ある意味パラダイス!


「アーリーン~♪」

「よっ」


 カミュアがアーリーンの姿を見つけ、教室から飛び出してきた。そしてアーリーンに抱き着きギュッと抱きしめる。いつもライトにするように、文字通りカミュアが飛び込んできたのだ。


「カミュア!? ど、どうしたんだ?」

「アーリーン。会いたかったよ~」

「って、さっきまで一緒だったじゃん。どうした、どうした?」


 アーリーンはカミュアの肩を掴み顔を覗き込んでみる。カミュアは半べそ状態だ。


「カミュアさんは、授業にぜんぜんついていけてなくて…。心細かったみたいですよ」

「えっ?」


 ジェイクがカミュアの鞄を片手に教室から出てきた。カミュアが大人しく授業を受けられるとは思えない。それで助を求めたかったのか。アーリーンは納得する。


「僕…授業でなくちゃだめかな…? 宿題も沢山でたんだよ。きっとあの先生が悪魔なんだよ」

「おいおい…。ジェイク、そんなに宿題あるのか!?」

「ま~普通ですね。ちょっとカミュアさんの授業の件は、僕がなんとかしてみます」


 ジェイクはカミュアの鞄をアーリーンに押し付け帰ろうとする。当のカミュアはアーリーンにべったりくっついて離れそうにない。ジェイクが何とかしてくれるってよ、とカミュアに言ってみるが相当凹んでいるらしい。


「ジェイク!?」

「はい。なんでしょう」

「いろいろ助かるんだけどさ。その前にちょっと時間くれない? カミュアもそろそろ離れてくれ。歩きづらい」


 カミュアは渋々自分の鞄を背負う。ジェイクは早く部屋に戻ってパソコンに向かいたいのだろう。


「何をするのですか?」

「昨日話したミラノに構内を案内してもらおうと思って。なんだか気になるんだよ。ジェイクの目からも確認して欲しいんだ」

「何をです?」

「ミラノは何か知ってるんじゃないかって」


 ジェイクはミラノについて思い出してみる。2年生で確か…先日両親が亡くなったとか言ってた気がする。そう言えば、天使族の誰かと話してた気もする。その時はミラノの両親の願いを天使が伝えにきたんだろう~程度に思っていたけど…。


「今から行くのですか?」

「鞄を置いたら2年生の教室で会うことになってる。俺はこいつを連れてくから、ジェイクも来てくれ」

「わかりました」


 カミュアは二人のやり取りを聞きながら、しっかりとアーリーンのマントを掴んで離さない。こんな凹みっぷりを解消できるのは、ライトのスイーツしかない。部屋に戻ったらライトがいるだろう。少しは機嫌がよくなってくれるといいんだが。


「いくぞ。カミュア! 後でな。ジェイク!」


 ジェイクは小さく頷いて自分の部屋に戻って行った。


* * *


 時刻は夕方。

 カミュアとアーリーンはミラノに会うため、2年生の教室に向かっていた。


「ライトはもう来てたのか?」

「うぅん~。まだみたい。でも荷物が運ばれていたから、今夜は帰ってくると思うんだよね」

「そか」


 ライトにはかなわないのかな…。

 アーリーンは何かつまらなそうにポケットに手を突っ込みながら歩き始めた。


 校舎は静かだった。ほとんどの生徒は部活か寮に戻っている時間だ。そういえば部活の勧誘もいろいろされていたけど、カミュアは何か選んだのだろうか。


「アーリーンさん、カミュアさん。お待たせしました」

「ジェイク~!」


 ジェイクが一般寮の方から走って来た。


「揃ったな。じゃ行くか。うん? どうした?」

「アーリーンさん。ミラノさんと、これから会うって言ってましたよね?」

「あぁ。そうだよ」

「ミラノさんのこと、さっき名前を聞いてちょっと気になっちゃって…」


「何かあるの~? ミラノって、ライトと密会してた子だよね?」


 間違いではないけど、言い方ってものがあるだろう? アーリーンは苦笑いするしかなかった。ジェイクが何か誤解しているようだけど、面白いからほっておくことにする。


「ライトさん…。そんな趣味があったんですか…」

「いや…ま。そこは置いておいてくれ。何が気になってるんだ?」


 ジェイクがタブレットを開きアーリーンに見せる。アーリーン達はとりあえずベンチに座りジェイクの資料を眺めることにした。


「ミラノさん、先日ご両親を交通事故で亡くしているんです」


 カミュアが身を乗り出してタブレットを覗くから、アーリーンの肩はカミュアのぬくもりをダイレクトに感じる。今はそれどころではないのだから、アーリーンもツッコミはいれないことに決めた。


「それだけじゃなくて今回の被害者たちを分析すると、ミラノさんには共通点がたくさんあるんです」

「まさか?」

「そうです。次に狙われる犠牲者はミラノさんかもしれない」

「ジェイク! 次の犠牲者が出る予想日ってだせてるのか?」


 ジェイクはアーリーンからタブレットをうけとり鞄にしまいながら、悲しそうに首を振る。


「ごめんなさい。今月か来月か…。事件が起きるのは不定期なんです。もしかしたらまだ僕が見つけられていない何かがあるのかもしれないけど」

「そうするとだよ? 共通点の中に、被害者とかかわりのある共通人物がさがせる探せるんじゃないか?」


 ジェイクはまた首を振る。


「ここは学園内ですからね。教師は全員の被害者に接点がありますし…。今、彼女たちの交流関係をアプリに登録しているので、今夜くらいに僕のキャリーが回答を出してくれるかもしれません」

「キャリーって?」

「あ、僕のパソコンです」


 ジェイクはベンチを立ち上がり、ぽかんとしているアーリーンとカミュアに先を促す。


「今夜、詳しく説明しますね」


 というかパソコンに名前を付けてるのか。ジェイクって不思議な奴だな。と改めてアーリーンは思っていた。


 共通点、そして被害者だれもが接点を持つ存在。人間界に降臨した悪魔は教師の中にいるかもしれない。そしてその悪魔を降臨したのは誰だ!?

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