第5章 ミッシェルの覚悟 ~ご褒美プリン~
第1話 プロローグ
今日の特別クラスの雰囲気はとても重かった。カミュアがめちゃくちゃ大人しいということも理由の1つなのだが、指導者3名が教壇で圧をかけているからかもしれない。
それをぶっ壊すのは、やっぱりこの男だった。
「おはよー! これから特別課外授業のことを話すよー。人間界での新たなミッションだ。ほら~みんな元気だして♪」
ミッシェルの声がやけに明るく教室に響く。
「今回は! ジャジャーン。人間界の学校に潜入だよ。どうやら生徒の誰かが悪魔を降臨させちゃった感じがするんだよね。なので君たちには人間の皮を被った悪魔を特定してもらいたい。わかったら報告して。それが課題のゴールだ。タイムリミットは1ヶ月」
天使と悪魔の判別の仕方は学んでるはずだから、楽勝だよね? とミッシェルはニコニコ顔で言う。こうゆう時のミッシェルは絶対何か企んでる。と誰もが思っていた。
「え〜っと。
「はい」
「俺とララで集中トレーニングを君に行う予定だ。なんて言ったって、悪魔族の方が嘘はうまいからね。人間界や地獄にも足を運ぶことも〜今考えてるから。頑張ってね」
「さて、人間界の学校に潜入ということは、カミュアもアーリーンも転校生として入学してもらうことになるから、そのつもりで」
ミッシェルは人間界について概要を話し始めた。カミュアも真面目顔で話を聞いている。
「今回二人は
カミュアもアーリーンも真剣な顔で頷く。人間との交流を積極的に行える課題なんて今までに経験したことがない。
「そしてカミュアとアーリーンにはそれぞれ〜、種族間の垣根を今回は取っ払うことにするね。太陽が登ってから沈むまでの間は、お互い中立エリアのような状態で人間界でも生活できるようになるよ。後でお守りを渡すから、決して無くさないように」
アーリーンの顔がほころぶ。人間界でカミュアに触れることができる日がくるなんて夢のようだ。相当ニヤけた顔をしていたのだろう。それを素早く察したミッシェルがアーリーンに釘を指す。
「アーリーン。ニヤけてないで最後まで話を聞けよ。カミュアに触れられるからと言って、変な気を起こさないこと。太陽が沈めば効果はなくなりあの痛みを経験することになるからね」
人間界でカミュアの腕を掴んだ時、強烈な痛みと皮膚が溶けていく感覚を味わったことをアーリーンは思い出し身震いする。決してカミュアに
「そしてカミュア! お前も面白半分にアーリーンを挑発しないこと。わかったね。お前たちはあくまでも
「はい!」
カミュアは元気な声で返事をする。絶対何か企んでる。そうとしか思えない笑顔だった。ミッシェルの眉間にも皺が寄っている。危険な匂いを感じ取っているに違いない。
「これがそのお守り。二人お揃いのリングだ。ウェルキンソン家の印が刻まれている。これを肌み離さず持っていること」
カミュアとアーリーンに大きなリングが支給された。アーリーンは右手の人差し指に。カミュアはネックレスのペンダント トップとして、それぞれ身につけることにした。
装着した瞬間からポワーンと目に見えない光に包まれた気がした。これで人間界でもカミュアとアーリーンは触れ合うことができるようになったようだ。実感は全くない。カミュアとアーリーンは自分の身体をパンパン叩きながら、不審感丸出しの目でお互いを見つめていた。
「まぁまぁ〜。人間界に行ったらわかるよ」
「そんなもんすか?」
「そんなもんです」
カイトも大きく頷いている。
「そうだな〜後は、お前たちのスマホにステラと同じような機能を搭載しておいたからね。ストーンとそのスマホが、お前たちの命綱だ。無くすなよ」
アーリーンはスマホを覗き込んでみる。確かに何やらアップデート中だ。
「それじゃ〜カイト。出発の準備を頼む。そしてララ。
「わかった」
「
「言い忘れちゃった〜。学校は全寮制だからそれぞれ部屋が用意されてるから。あ、それと〜アーリーンはちょっと残って」
「なんすか?」
カイトたちと一緒に教室を出ようとしていたアーリーンをミッシェルは呼び止めた。もちろんカミュアも足を止め振り返る。
「カミュアは先に準備を進めておいで。女の子なんだから、それなりに身なりとかいつも以上に気にして欲しいからね」
「僕に…? まさか…?」
「そう、そのまさかだよ。人間界ではJKはスカートを着用する。これ基本だからね」
「えっ…?」
カミュアが一瞬固まる。嫌だぁ〜〜〜〜〜っ。と駄々をこねるカミュアをカイトが半ば担ぎ上げ、教室を後にしたのだった。気の毒にな…とアーリーンは心の中でカミュアに同情をしていた。
ミッシェルは疲れが溜まったような顔で二人を見送る。
「で? 先生?」
「あ、そうだ。そうだ。これをお前に渡しておく」
「なんすか?」
ミッシェルは自分が身につけていたネックレスを外し、アーリーンに手渡す。それは円の中に月が描かれた直径10cmほどのアクセサリーだった。
「これって…」
「ウェルキンソン家で代々受け継がれているお守りみたいなものだな。聖なる光に包まれそうになったとしても、これがお前を守るだろう」
「先生…」
ミッシェルは真剣な眼差しでアーリーンの首にネックレスを装着する。チェーンが少し長めなので、シャツなどからは見えないだろう。
「結構、やばいミッションなんですか?」
「いや。ほら〜カミュアが急に覚醒したりしたら、やばいでしょ?」
ミッシェルは軽くそう言いながらアーリーンから離れる。
「先生は、嘘が下手ですね」
「あ、わかっちゃう? でも大丈夫だ。俺たちがついてる。カミュアを頼むな」
ミッシェルが急に真面目な顔をするから、アーリーンも真面目に答える。
「はい。任せてください」
アーリーンは守られる立場から、守る立場に進化した気分がした。カミュアを守る、守れるのは自分だけしかいない。と思った。
「あ〜それと。アーリーンはあんまり人間と話をしないこと」
「えっ? なんで?」
「お前は口を開かなければ、最高にいい男だからな」
「なんすか? それ」
「黙っていた方が、人間が寄ってくるってことだよ」
なんだか誉められたのか、けなされてるのか判断が難しいことを言われた気がするが…。気のせいだろうか。
「じゃ〜行ってきます」
「あぁ。アーリーン…。死ぬなよ」
「なんすか? それ」
アーリーンはカミュアたちに合流するために、中立エリアに向う。ミッシェルは優しい眼差しでアーリーンを見送った。
人間界に降臨した悪魔との戦いの日はすぐそこまで来ている。
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