第5話 幸せな時間

「あ〜人間界って素晴らしいよね〜。僕ここに住みたいよ」

「お金がいくらあっても足りないな」


 夢見るカミュアの横で、アーリーンは超現実的なことを言う。


 シュークリームは潰れやすいんだから、慎重に扱ってよね!とカミュアに厳重注意を受けながら、アーリーンはカミュアの2倍以上の荷物を運ばされていた。

 男たるものこれくらいはねw 頑張っていただきましょう。


「ただいま〜」

「疲れた〜」


 二人が中立エリアに戻ってくるとライトが既に帰還していて、キッチンでティータイムの準備を始めていた。


「お帰りなさいませ。カミュア様、アーリーン様。人間界に行かれていたのですね。いかがでしたか?」

「めちゃくちゃ楽しかった〜。ねー♪」


 カミュアはアーリーンに同意を求める。当のアーリーンは、形を崩さないように慎重に運んできたスイーツを、テーブルに広げていた。楽しかったさ〜。でも今話しかけないでぇ〜と言わんばかりに二人にお尻を向けている。


「たくさん買われたのですね。冷蔵庫の整理をしないと」

「毎日食べる数決めておかないと、カミュアは全部食っちまうぞ」

「ですね」


 ライトとアーリーンが話している側から、カミュアはチョコレートのつまみ食いを始めていた。めちゃくちゃ真剣な顔でめちゃくちゃ幸せそうな顔をしている。


「ライト〜! 今日はお休みなんだしゆっくりして、みんなでこれ食べよう!」

「よろしいのですか?」

「もっちろ〜ん❤️」


「ありがとうございます。それでは紅茶の用意を。アーリーン様もあちらで座っていてください」

「お、おぉ」


 アーリーンは先ほど見かけたライトのことが気になっていたが、話しかけるタイミングを逃していた。気のせいかも知れないが、今日のライトはすっきりした顔をしている。まぁ〜ライトも男だしな。女の子が好きなんだろう。と自分を納得させソファーに座る。


「ねぇ〜ライトぉ〜」

「はい」

「ライトはパパ活してるの?」


 ライトの手が一瞬止まる。よくぞ聞いてくれた! とアーリーンは心の中でカミュアに拍手を送る。


「何だ? 誰がパパ活だって?」

「パパ〜♪」

「げっ(驚)ミッシェルっ」


 いつの間にか中立エリアに入ってきたミッシェルが、二人の会話に割り込む。


「いい匂いだな〜俺にも淹れてくれるか? ライト」

「かしこまりました」


「で?」


 ミッシェルは、カミュアの開けたチョコレートBoxから一粒、キラキラしたチョコレートを選び口に運ぶ。


「今日さー、カイトが教えてくれたスイーツ何ちゃらに行ってきたんだよ。そこでライトがいて〜、女の子と一緒だったの」


 かなり端折はしょっているが、おおむねあっているから、アーリーンは黙っていることにした。ミッシェルならカミュア語を理解できるだろう。


「おぉ〜ライト! お前もとうとう目覚めたか! 歓迎するぞ」


 おいおい…。子どもの前で何てことを。ミッシェルは両手を広げて歓迎ムードだ。あー友よ。的な音楽が聞こえそうだ。


「ミッシェル様。ご冗談はやめてください。私が人間界にいたのは、学生たちの話を聞く為で…。報告書は既にルーナ様にお渡し済みです」

「えっ? そうなの?」


 今度はアーリーンが驚く番だった。あれは絶対に女の子にお金を渡して、楽しい時間を過ごしていたに違いない。アーリーンは完全に疑いの目でライトを見ている。

 それを真似して、カミュアも面白半分でライトを見つめている。困ったものだ。


「カミュア様もアーリーン様もお人が悪い…。声をかけていただけたらよかったのに」

「いやー。楽しいところ邪魔するのもなー…って思って…」


 アーリーンは思い出した。ライトを怒らせると怖いということを。ライトの目が何気に三角になってる気がする。気のせいか?

 助けを求めてカミュアを見ると、どうやら今度はライト側に立つことに決めたらしい。アーリーンを軽蔑するような目で見ている。


 仲間に後ろから刺されるというのは、こうゆうことを言うのかもしれない。とアーリーンは実感する。今回も完全なる敗北。


「えっと…。ごめんなさい」

「わかっていただければ良いのです。さぁ、どうぞ」


 そう言い、ライトはみんなの前に紅茶を準備した。紅茶のいい香りがする。


「ルーナに頼まれていたのか。それでか〜。うむ。なるほど」

「はい。お役に立てたのであれば良いのですが」

「助かったよ。ライト。それでルーナの奴、学園に足を運んだってわけか」


「えっ? ママも来てるの?」

「いらしてはいたのですが、ご用事があるとかでお戻りになられました」

「そっか…。会いたかったな〜」


「パパがいるじゃないか!?」


 しょんぼりしたカミュアを元気付けようと、ミッシェルがオーバーアクションで両手を広げる。だがしかし……、カミュアの反応は薄い。


「パパとはさぁ~、ほぼ毎日会ってるからね。あ、ライトも一緒に食べようよ。ライトの分も買って来たんだから♪ こっちに座って❤️」


 カミュアはミッシェルにまるで興味が無いように、ライトが準備をしているシュークリームに釘付けだ。かわいそうなミッシェルよ。父と娘の関係ってこんなものなのかもしれない。


「カミュア様。どのシュークリームになされますか?」

「うーんとね〜。これとこれ❤️」


 ミッシェルは固まってる。流石にアーリーンも不憫ふびんに思う。同じ悪魔族として、天使族に振り回されていると言う立場は同じだ。だから、ちょっと気を効かせてみる。


「先生、お、俺は先生がスキですよ。元気出してください」

「っ!」


 ミッシェルの目に光が灯った。


「おぉ〜アーリーン。お前は何ていい奴なんだ〜」

「ち、ちょっと…。抱きつくのやめてください」


 アーリーンはミッシェルに抱きつかれ、身動きが取れない。ミッシェルの嘘泣きに付き合わせれる身にもなってほしいものだ。


 もちろん、カミュアはシュークリームに夢中でアーリーンの”助けろぉ〜!!” の心の叫びも完全に無視だ。


「カミュアぁ〜〜〜。なんとかしろ〜っ」


 こうして今日も中立エリアは平和に過ぎていった。


 ただ…ミッシェルの心は遠くにあった。ルーナとカイトからの情報と自分が調べたローズウォリック家の歴史、これらは類似するところがたくさんある。


 信じたくないが、モーリー・ローズウォリックは復活の時を待っている。その器の候補の1つは封印しているが、いつ奴の目に止まるかわからない。


 奴の刻印を付けられたララのことも気になる。


 今こそ動く時なのかもしれない。とミッシェルは思っていた。カミュアやアーリーン、そしてライトの幸せいっぱいな姿を見て改めて、世界の均衡を守ってみせる! と誓うのだった。

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