第4章 Have a break? 〜大人のフィナンシェ〜

第1話 プロローグ

 シュル…。シュッ。


 絹が擦れるような音がかすかに聞こえる。ここは高層マンションの最上階の一室。ほとんど何もないこの部屋は、生活感というものがまるで感じられない。黒とグレーを基調にしたおしゃれな部屋は、持ち主のセンスの良さがうかがえる。


 アイランドキッチンから広いダイニングルーム、ベッドルームまでが一つの部屋の様な作りになっている。ベッドルームにはクイーンサイズのベッドと趣味の良いアート、そして観葉植物が置かれていた。そのそばにある壁は全面ガラス張りでできており、天気の良い夜はベッドに寝そべって夜空を楽しむことができる。まるで空に浮かんでいるような感覚がたまらない。ここは持ち主のお気に入りの場所の一つでもある。

 今そこには持ち主以外の来客が…。


「ねぇ…」

「うん?」


 腕枕をされていたその女性は体を傾け、この部屋の主人あるじの顔を覗き込んだ。

 大きな自慢の胸が男の鍛え上げられた胸板に重なる。マシュマロの様な胸はさらに膨みを増し、胸の谷間を男に見せつけている。


 部屋の主人あるじは、大きな綺麗な手で女の髪をそっと撫でる。男性にしては長くてしなやかな指先だ。

 

 月明かりのおかげで女の顔がよく見える。期待するような潤んだ瞳、ほてった体。そして艶やかな唇。どれをとっても、男の欲求を満たすのに相応ふさわしいモノだった。


 女はゆっくりと、隣で横になっている部屋の主人あるじの耳元から首筋へ、そして柔らかい腕の筋肉にかけてそっと手を這わす。構って欲しい時の合図だ。


「ララ…」


 部屋の主人あるじはララの腕を掴み、瞬く間にララの身体をベッドに押し付け体勢を変える。


「あのガキどもに触発されたのか?」

「さぁ〜。どうかしら?」


 確かめてみる?というララの挑発的な言葉に、部屋の主人あるじは応える様に唇を重ねる。そして首筋から鎖骨へ、ララの身体の線を確かめるように唇を移動させる。

 身体の相性と言うものが本当にあるなら、ララとの相性は最高だった。先ほどまで激しい時間を過ごしていたはずなのに、身体はすでにララを求めていた。


「ァ…ァン」


 ララの口から熱い吐息が漏れる。


 部屋の主人あるじとのこの時間は、この上なく極上のひと時をララに与える。特に今日はカミュアの作った媚薬のせいか、身体が熱くなりコントロールがきかない。


 焦らすだけ焦らされたララの身体は限界を迎えそうになり、大きく身体をのけぞらす。部屋の主人あるじはその光景を楽しむ様に、もっとララの全身が見えるようにシーツを跳ね除けた。


「ハァ…ゥン…」


 ララが絶頂を迎える瞬間、部屋の主人あるじはララの背中に強く手のひらを当て呪文を唱えた。呪文に反応し手のひらから光の球が生まれ、ララの背中を焼き始める。


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァっ」


 ララの身体が痛みに耐えられず、ベッドから逃げ出す様にのけぞる。だが部屋の主人あるじは許さない。ゆっくりと力強く光をララの背中に埋め込むように呪文を唱え続けている。

 ジュージューと皮膚が焼かれる音と匂いが部屋に充満する。


「イヤァァァァっ」

「ララ…。耐えろ。いいぞ。ララ」


 光の球がララの身体に押し込まれる形で吸い込まれていくと、ララの声は完全に聞こえなくなり浅い息遣いのみが部屋に響く。

 事が終わると部屋の主人あるじはそっとララをうつ伏せに横たわらせ、ララの乱れた髪をやさしく撫でる。


 先ほど触れていた箇所は焼けただれ、どこかで見たことのある印が刻まれていた。そう…、龍をあしらったdevilの刻印が、ララの背中にくっきりと現れたのだ。


 部屋の主人あるじはその刻印を確かめるとシャワールームへ向かった。熱いシャワーを浴びていると先ほどの興奮が蘇ってくる。男の背中にある黒くて大きな翼を広げ、男は歓喜に震えていた。


「ララ…。あいつらを監視せよ。そして報告を怠るな。お前は俺のしもべとなれ」


 男がそう呟くと、ララのが暗闇で赤く光った。

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