第6話 緊急課題!真実の愛を探せ

 媚薬騒動の翌日、教室にはアーリーンの姿はなくミッシェルが教壇で腕を組んでカミュア達を待っていた。その横にはカイト。ララの姿はアーリーンと同じように見当たらない。


 カミュアと麗羅レイラが席につくのを確認して、ミッシェルが口を開いた。カミュアはめちゃくちゃ説教をされることを覚悟して、しゅんとしている。


「いきなりだけど、課題を発表しま~す!」


 課題? 始末書とかお仕置きとか、そんな話じゃないの? とカミュアは目を丸くしてミッシェルを見つめる。


「カミュアと麗羅レイラには、今から人間界に行ってもらうね。そこで真実の愛を人間から解放してくること。それが課題。そうだな~、少なくとも3人の”真実の愛"を引き出すこと。簡単だよね」

「えっ?」


 カミュアはミッシェルからのお題を聞いてきょとんとしている。もちろん麗羅レイラは無反応だ。なぜ自分もカミュアに付き合わなければならないのか? なんて気にしていないように見える。


「それと、課題をクリアするまでここに戻ってこれないからね」

「そ、そ、そんな…」

「これは、本当の人の心を知る良い機会だから。しっかり課題をやってくること。もちろんストーンが記録をしてくれるから、ズルはできないからね」


 ミッシェルは腕を組みながら嬉しそうに課題を発表した。

 課題を終わらせるまでライトの作る美味しいモノが食べられないじゃないかぁ~~~! パパは悪魔だっ、と思わずにはいられないカミュアがここにいる。まーミッシェルは本物の悪魔なのだから、カミュアの嘆きは嘆きにもならない。


「それと~今回は人間から君たちの姿が見えないように魔法をかけておくから、気を付けてよ。もちろん魔法はつかえない。このキューピッドの矢だけ、これだけ使えるからね」


 ミッシェルは麗羅レイラに道具を渡す。カミュアは不満顔だが、キューピッドの矢を乱用されては困る。またなにかやらかしたら、後始末も大変だ。


「カイトも一緒じゃないの?」

「そうだね~。今回の課題は生徒のみ。そしてお前と麗羅レイラで行ってもらう。もしなにか困ったことがあれば、スマホで連絡はとれるから、安心して♪」


 一通りの説明が終わった後、出かける準備が行われた。カミュアにはカイトが、麗羅レイラにはミッシェルが…、それぞれ指導者によって呪文がかけられた。これで人間には二人の姿は認識できなくなる。


「ほら、行っておいで」

「いってらっしゃい」


 ミッシェルとカイトに送られて、二人はしゃべるエレベーターに乗り込んだのだ。


* * *


 そして…今に至る。


麗羅レイラはすごいね~」

「何が?」


 二人は高いビルの屋上の淵に腰かけ、蟻の様に動く車や人を眺めていた。夕刻になり街はあわただしく動いている。

 二人の存在は誰も知らない。見えないのだから当たり前っちゃ~当たり前だ。


「だって、もう2人も課題クリアしてるでしょ? なぜあの人を選んだのか、僕にはまったくわからなかったよ」


 カミュアが麗羅レイラの手の中にあるストーンを眺めながら、そう呟く。麗羅レイラのストーンは透明感のある水晶の様なストーンだった。手の中に納まるほどのサイズで、夕日があたって色が変化しているように見える。


「私には簡単な課題だわ。人の心は手に取るようにわかるの」

「そうなんだね~。僕には全然わからないや」

「わからない方が幸せなこともあるわ」

「そう?」


 麗羅レイラはカミュアの顔をじーっとみつめる。何か心の中を覗かれているような不思議な気分にさせられ、カミュアはくすぐったさを感じていた。麗羅レイラの緑の瞳は神秘的な光をおびていて、今にも吸い込まれそうな深みがある。


「な、何?」

「ううん、あなたの心は澄んだ海の様に広くて奇麗なのね。悪く言えば単純? 嘘が一つもないって感じ?」

「それって、僕のこと…褒めてくれてるの?」

「そうかもね」


 麗羅レイラはカミュアから目をそらし、ふっと寂しい目で地上を眺める。


麗羅レイラは、天使族じゃ…ないんだよね? 悪魔族でもない」

「気になるの? どちらでもいいんじゃない?」

「そうだけど、ちょっと聞いてみたかったんだ。ごめん。言いたくなかったよね」


 カミュアは足をブラブラさせながら、夕日にそまったオレンジ色の空を眺める。悪気のないカミュアの言葉は、麗羅レイラの心に一滴の雫を落とした。それは麗羅レイラの心のドアを開けるには十分だった。


「私は、黄泉の国で生まれたの。だから天使でも悪魔でもないわ。分類するとすれば、魔族ってことになるのかしら?」

「魔族?」


 少し話すぎてしまったと後悔しつつ麗羅レイラはゆっくりと立ち上がり、さぁ行きましょう、とカミュアに手を差し伸べた。人間界でも天使族のカミュアは、麗羅レイラには触れられるようだ。


「私のことはどうでもいいので、早く課題を終わらせましょう。最後の1人は、あなたが選んで。正しい選択かどうかは私がサポートしてあげる」

「あ、ありがとう。助かるよ」


 カミュアは麗羅レイラの手を借りて立ち上がり、地べたに接触していたお尻をパンパンと叩きながら麗羅レイラに尋ねてみた。


麗羅レイラは、なんで学園で勉強するの? なにか目指したいところがあるのかな~って。僕はまだ全然将来のこととか考えてないから」

「そうね。早く一人前になって黄泉の国に来る住人をしっかりと裁きたい。カイト先生と同じような職に就きたいと思ってるの。なれるかわからないけど」

「すごいよ! 麗羅レイラっ。麗羅レイラならきっとなれるよ」


 カミュアのキラキラした瞳が麗羅レイラを勇気づける。偽りのない純粋な心。麗羅レイラは微笑んだ。今までに見たことのない素敵な笑みだった。


「ありがとう。カミュア」

「えっ? 僕…感謝されるようなこと言ったかな?」


 カミュアは首をかしげて麗羅レイラの顔を覗き込む。あどけないカミュアの笑顔に麗羅レイラも癒されるような気がする。麗羅レイラにとってはじめての感情だった。


「さて…。カミュア。どこで探す?」

「そうだね~。よくわからないから、あの白い大きな建物のあたりで探そうかな?」

「あそこ? あそこは……。いいわ行ってみましょう」


 あそこは病院だけど…、という言葉を飲み込んだ。最後の3人目はカミュアに任せると決めたのだから口を出すことは控えよう。そう麗羅レイラは思っていた。


 カミュアは元気よくビルの階段に向かって歩いて行く。慌てて麗羅レイラも後を追った。


 病院は今夕食時であわただしい。患者さんの家族もお見舞いに来ている時間だ。今なら課題に似合った人物と出会えるかもしれない。もし出会えなかったら、別な場所に移動することを提案しよう。そう思いながら麗羅レイラはカミュアの一歩後ろをついて歩く。


 今日で人間界に降り立って、1週間がたつ。特別クラスのコミュニティーにアーリーンからのメッセージは、今日もはいっていなかった。

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