第2話 惚れ薬作ります!
「えー今日は…、新しい先生をお迎えして媚薬について学んでもらうよ〜」
生徒たちの前でドヤ顔でそう発言するのは、担任教師のミッシェルだった。その横で本日の先生として紹介されたのが、スティング・ブイヨン先生だ。
見た目はおじいちゃんで、
「初めまして。今ご紹介に預かりましたスティング・ブイヨンと申します。今日は一日かけて、媚薬についてお教えすることになっています」
スティングは長い
「媚薬とは、天使族の中ではキューピットを目指す若き学生達が、まず最初に学ぶものなんだよね。もちろん悪魔族も使うから、しっかり覚えるようにね。現役悪魔くんたちも、媚薬を購入して業務にあたる者もいるけど、自分で媚薬くらい作れないと、恥ずかしいよぉ〜」
この熱の入れよう、まさかルーナを落としたのも媚薬だったと告白するんじゃないだろうな〜。とアーリーンは思いながらこの演説(説明)を聞いていた。
後ろの席のカミュアは目をキラキラさせている。あの顔は、何か良からぬことを思いついた顔だ。危険な香りがぷんぷんする。
「ミッシェルがいるのはいいとして、なんでカイトやララまでここにいるんだ〜? おじいちゃん先生がいるんだからここ必要ないだろ?」
「うーんそうだね。でも、パパが言うには ”初級編の媚薬と言えども作り方を間違えると大変なことになるんだよ〜。だから指導者たちがちゃんと一人一人監視するね★ だからしっかりと初めての媚薬、作ってみてね♪" って言ってた。特に僕が何かやらかすんじゃないかって、すんごく心配してたけど」
カミュアはミッシェルのモノマネを交えて経緯を説明した。ミッシェルの心配もあながちわからなくもない。とんでもない媚薬を作り出すとしたら、この中でダントツ! カミュアが
そして…この二人、やっぱり親子だ。めちゃくちゃ似ていて怖い。
「ミッシェル先生、補足説明ありがとう。ではこれから媚薬についての歴史を話そう。皆の前には媚薬作りの道具を用意するから、机から少し離れてくだい」
おじいちゃん先生のスティングが華麗に指を鳴らすと、カミュア達の机の上に、ビーカーやフラスコ、バナーなど実験施設ばりの道具があっという間に用意された。
今時、魔女が使うような壺や釜などは不要のようだ。
「媚薬とは、人間同士が性的興奮を高める作用を求めて生まれし物です。人間はさまざまなものから試行錯誤して媚薬を作り出してきました。今もなお、一部の人間の間で媚薬は愛用されております。お分かりかな?」
ララが大きく頷く。ララは腕を組んでいるので、頷くたびに大きな胸がぷるんっとたわめく。
「その媚薬の中でも人間の手によって完成できていない。いや…できないと言った方が正しいですね…。それが今日これから皆さんにお伝えする "惚れ薬” でございます」
カミュアの方を振り返ると、スティングを見る目の輝きが確実に増している。カミュアにこんなオモチャを与えていいのだろうか…。不安だけが残る。
スティングは、完成品と言われる媚薬の入ったビンを生徒達に見せた。それは透き通った淡いピンク色をした液体で、ビンの中でキラキラ光を放っている。よく見るとラメ状の小さな粒がビンの中で泳いでいるようにも見える。
「これが媚薬の原液です。これを何百倍にも薄めたものをキューピット達は持ち歩いているのです。そして人間の心の中にある想いをしっかりと把握したのち、なかなか前に進めない者
スティングは、ビンを机の上に置きもう一度指を鳴らす。
パチンっ。
ピンクの液体が、カミュアたちの机の上のビーカーにほんのちょっと注がれた。匂いを嗅いでみると、無臭だった。媚薬のイメージだと、もっと甘ったるい香りがすると思っていたが違うようだ。
アーリーンは興味なさそうに、ビーカーから顔を離した。
カミュアはというと…机に顎を乗せ、注がれた液体を凝視している。
「すごく綺麗だ〜♪ 美味しいのかな〜??」
カミュアはキラキラするピンク色の原液に釘づけだ。アーリーンだって興味がないふりをしていたが、この美しい色に既に心惹かれている。
もしこの惚れ薬をカミュアに飲ませたら…。美味しいんじゃないか? 飲んでみろよ、と言ったらどうなるんだろう? という淡い妄想が頭をよぎる。
「いいですか。これは自分の為の媚薬ではないと言うことを忘れないように。これから皆さんに実践してもらうのは、この媚薬に触れた者の心に秘めた”愛する”と言う想いを表に出す、勇気やキッカケを与える媚薬です。それをこれから作っていきます」
「先生! もしこの媚薬に触れた人が多くの人に好意を抱いていたら、どうなるのですか?」
「カミュア君。いい質問ですね。今日作る媚薬に触れた者は、心の中に浮んだ一番の人に想いを伝えたくなる媚薬となるはず。誰に対して好意を抱くかまでをコントロールすることはできないのです。それをする方法もあるといえばあるんですが…。それは中級・上級のステップでキューピット職を目指す生徒にのみ教えていく内容となります」
カミュアはうんうんと頷いている。本当に理解しているかどうかは、いつも通り謎である。
「君がもしキューピットを目指すなら、その時はまた私のクラスでじっくり教えてあげましょう」
「はい!」
いい返事だね。とスティングも上機嫌で媚薬についての細かいことや注意点の説明を再開する。
カミュアはいつになく真剣だ。
ミッシェルは、生徒達が真剣に授業を聞いているかを確認するようにゆっくりと教室の中を歩いている。指導者って暇なのか? と思わずにはいられない。
ミッシェルが通り過ぎると、いつも甘いスパイシーな香りがした。それは大人なワイルドな香りで、危険な香りだ。カイトやライトの香りとも違う。なんとなく心がゾワゾワするようなそんな香りなのだ。
媚薬でどうにかしようとするのはフェアではないな。とアーリーンは頬杖をつきながら考えていた。
俺は正々堂々と! カミュアにチューするんだっ!
そんなアーリーンの気持ちを
「一通り説明は終わったので、これから実技に入りますね。レシピは君たちのスマホに送ったので、それを見てステップや量を間違えないように調合すること。うまく作ることができれば、私が媚薬を買い取りましょう」
ブルッ。
特別クラスのコミュニティにレシピが届いた。
このおじいちゃん。生徒に媚薬を作らせて安く仕入れ、高値で卒業生に売りつけるつもりじゃなかろうか。アーリーンはレシピを見ながらそんな疑惑をいだく。
「じゃー今から1時間で、レシピを見ながら作ってみましょう。指導員のみなさんもサポートしてあげてくださいね。調合を間違えると、このビル全体が吹っ飛ぶこともありますから。ヒヒヒ」
「スティング先生、そんな冗談はやめてください」
不気味に笑うスティングを
「あながち嘘じゃないかもね〜」
ララが不気味にカイトに微笑見かける。まさに悪魔の微笑みといったところだ。
アーリーンは渋々レシピを熟読し調合を開始する。このビルを吹っ飛ばす訳にはいかないからな。慎重に進めて損はない。隣をみると、
トカゲの尻尾 2g、竜の涙 500ml、神の世界に咲くパトリシアの花びら 5枚、悪魔の灰 0.4g などなど計量だけでも20種類以上ある。このような正確さを求められる作業は、カミュアやアーリーンには不向きだ。
「カミュア…。もう少しちゃんと…」
カイトも困り顔だ。カミュアの机の上は計量済みの材料があちこちに散乱しているので、どれがどれだかもはやわからなくなっている。
「あーぁ。カミュアちゃんやっぱり〜こうゆうの苦手そうだよね。アーリーンは大丈夫なの?」
ララが耳元で囁くように聞いてくる。腕を組んでいるので、胸の谷間が強調され目のやり場に困る。
大きな胸は嫌いじゃない。男に生まれた以上その大きくて柔らかそうな胸の中に顔を埋めたい!と思ったとしても仕方がないじゃないか。とアーリーンは自分を肯定する。
「ち、近いっす。ララさん」
「あら、ごめんなさい」
そんなやりとりがあって、アーリーンとララが教室にいる皆の注目を集めていたその時…。まさに事件は仕込まれていたのだ。カミュアの手によって。
カミュアは考えていた。
アーリーンは
どうしたら、そんなロジックが思いつくか謎ではあるが、カミュアは真剣にそんなことを考えていた。
―― このレシピが好意を引き出す媚薬なら、後は〜誰を好きになる!? がわかればいいんだよね。アーリーンのことだってわかるようにすればいいんでしょ?簡単なことだよね〜♪
先ほどスティングが説明した話は聞いてなかったのだろう。カミュアのワクワクは最高潮に達していた。
「えいっ」
カミュアは今朝アーリーンが鼻をかんだティッシュを丸めて、ビーカーの中に放り投げた。
アーリーンがポイッと投げ捨てたティッシュを、カミュアはこっそりゴミ箱から拾い上げていたのだ。
ビーカーの中の沸騰した液体にティッシュはみるみる溶けていき、液体はピンク色から青色に変色する。
指導者たちはスティングの完成した媚薬を見に戻っていた。まさにその瞬間だった。
「先生! できましたー!」
カミュアは出来上がった媚薬を手に持ち、
そして…。
自体は大事件へ繋がっていくのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます