第4話 指導者あらわる

「おっはよーございます〜♪」


 カミュアの元気いっぱいの声が教室に響き渡る。カミュアの存在は特別クラスにとって大きいのかもしれない。って、かっこよく言ってみたけど…。まだこのクラスにはカミュアとアーリーンを入れて3名しか生徒がいない。


 昨日初めて会った麗羅レイラは、既に教室の中央の席に座っていた。教員が立つ位置に一番近い席だ。何気にやる気満々なのかもしれない。


「おはよう」


 麗羅レイラは静かに挨拶し、また読みかけの本に目線を戻した。なんともおごそかな空気をまとっていらっしゃる。今日の麗羅レイラは長い髪を白のリボンで結んでいた。女神や天使とはまた違った雰囲気が麗羅レイラにはある。


「ごほん。ゴッホン」

「うん? どうした、カミュア? 風邪か?」

「また見てるよ。もうすぐパパが来る時間だからやばいって!」


 カミュアは完全に誤解している。アーリーンを見つめる目が好奇心でキラキラしているから、この手の話に鈍臭いアーリーンだってだいたいカミュアが何を想像しているか手にとるようにわかる。

 小さな子犬がご主人様から餌を貰えるのをひたすら待っているようなその目。本当にヤバイ。昨夜のライトの意味深な発言を引きずっているアーリーンは、朝から理性がぶっ飛びそうだ。


 バチッ、バチーン。大きな音が2回響き渡った。


「痛っっ」かける 2


「授業を始めるよ〜。仲良くするのはいいけど真面目にやろうね。真面目に。ほらほら〜。麗羅レイラも呆れてるぞ」

「いえ、呆れるも何も…。私には関係ありませんから」


 麗羅レイラから冷たい風が吹いている。カミュアは、アーリーン早速フラれたのか…。と余計な言葉を吐き出し、麗羅レイラの隣の席に座った。

 同期同士仲良くしようや〜。アーリーンの心の声が聞こえてくるような気がする。


「さて、昨日予告した通り、今日は君たちの指導者を紹介するよ〜」

「ミッシェル先生!」

「何だい? カミュア君」

「指導者ってなんですか〜?」


 カミュアがピシッとした姿勢で右手をまっすぐ挙げ指導者について質問を始めた。確かに昨年の特別クラスにはなかったシステムなので、何を指導してくれるのかアーリーンも気になっていた。


「Good Pointだね★ 指導者っていうのは、文字通り指導をする人のことだよ。人間の心は複雑だからね。これから課題やらなんやらで直接人間と触れ合うことも多くなる。その時、どう行動していくのがBestなのか判断を求められることがあるだろ? それをサポートし、君たちの身の安全を確保するのが指導者の役目だな」

「安全?」


 カミュアがキョトンと顎に指を添えて首を傾げている。身の安全が必要になるほどの課題があるっていうことなのか? アーリーンは昨年のことを考えてみる。どれもこれもゆる〜い課題ばっかりだった気がするのは気のせいなのだろうか。


「そう安全だ。この前カミュアとアーリーンは先輩天使と悪魔に遭遇したよね? そこで何があった?」


 カミュアとアーリーンは強烈な聖の光と、邪悪に満ちた闇を体感したことを思い出して身震いした。


「危うくアーリーンは命を落とすところだったよね?」

「うぐぐぐ…」

「そうゆう状況に陥らないように、自分達で何とかできるようになるまでは、指導者をつけることにしたんだ。ありがたく思ってよね〜。人員確保するの大変なんだからさー」


 ミッシェルはドヤ顔でカミュアとアーリーンを見つめている。反論の余地なし。


 もう一人の生徒の麗羅レイラは相変わらず、我関われかんせずを貫き通している。


「じゃぁ〜紹介するよー。まずはカミュアから」

「う、うん」


 ゴクンっと唾を飲み込み緊張気味のカミュア。心なしか声が震えている。ミッシェルが芝居がかって紹介するから、緊張するのも致し方ない。


「天使族代表!カイトぉ〜〜〜〜っ!」


 ミッシェルの掛け声と共に爽やかな風が吹き抜けた。そして何かを包みこむように風が舞い、無数の羽が風に合わせて舞ったかと思うと、そこに一人の男が現れた。その男、上下黒に銀縁のラインの入ったマントを羽織っている。銀縁のラインということは、ミッシェルと同じレベルの役職を持つ天使族だ。

 銀髪を後ろで結び、無駄に爽やかなイケメン。ライトとは違った大人の男の色気がそこにある。


「あーーーーーーーーーーーーっ!こ、こ、この前の!」


 カミュアは思わず指をさし、大声をだして指導者カイトを迎入れた。迎入れたというよりは、親の仇に出会ったようなそんな驚き方、と言った方が正しいかもしれない。


「こんにちわ。カミュア。また会ったね♪」

「カミュア。指を指さない」

「だって、マリアの魂を奪って、アーリーンを消し去ろうとした奴だよ!!」


 極悪人だと言わんばかりの言いっぷりだ。

 いや…。消し去ろうとした訳でもないし、マリアの魂は奪われた訳でもない。とアーリーンはカミュアの言葉を訂正しようと思ったが、ここは大人しく黙認しておくことにした。


 カイトはそんなカミュアをニコニコして見ている。今回も、カミュアの反応を楽しんでいるようだ。


「で、そっちが…この前死にかけちゃった悪魔見習いの〜…。えっと?」

「アーリーンです」

「アーリーンね。ヨロシク♪」


 カイトは腕組みをしながら生徒一人一人の顔と名前を覚えるように、教室の中をゆっくりと移動していく。そして麗羅レイラの前で何か考える様に声をかけた。


「君は、初めましてだよね」

「はい。麗羅レイラと申します。よろしくお願いいたします」

「そうか〜。君が麗羅レイラか。いい目をしているね」


 ちょっと待て〜〜〜。俺には死にかけちゃったとか言っちゃって、カミュアや麗羅レイラにはカッコつけてるんじゃないぞーーー。とアーリーンはムスッと腕組みをする。


「そこ! アーリーンもカミュアも。子どもみたいに不貞腐れるのはやめなさい。カイトは皆が憧れる天使最上級のメンツの1人なんだぞ。会いたくても会えない人がたくさんいるんだから、光栄に思いなさいな」


 ちゃんとご挨拶するんだ。と言わんばかりに、ミッシェルはアーリーンとカミュアの頭を抑えつけ、無理やりお辞儀をさせる。


「まぁまぁ、僕は全然気にしないよ。これから仲良くなっていけばいいんだし」


「ミッシェル先生。生徒へのその行為、パワハラになります」


 シーーーーン。そんな音があれば響いていたに違いない。


「ハイハイ。次はアーリーンね」


 ごくっ。今度はアーリーンが唾をのみ込む番だ。カイトが現れたということは、あの恐怖の悪魔が指導者として現れる可能性もある…。そう思うだけで、背筋が凍る思いがした。


「いくよぉ~。悪魔族代表! ララ・クリスティ~~~ン」


 小さな黒い煙が立ち上ぼり、ボンッという音と共に人影が現れた。


 煙のせいでアーリーンはむせ返る。


「ゴホッ。ゴホッ」

「もー! ミッシェルがもたもたするから、煙の量間違えちゃったじゃない」

「悪かったね~。遅くなってすまない。アーリーン紹介しよう。君の指導者だよー」


「は~い♪ はじめまして。ララで~す♪」

「ア、アーリーンです」


 ララも上下黒の腰までの長さのマントを羽織っていた。縁取りの色はピンクゴールド。

 ゴールド、シルバー、ピンクゴールド、ブルーグレイ、ライトグリーン、ライトイエロー…と、階級によって色が違うので、ミッシェルやカイトの階級の一つ下ということになる。


 煙が拡散され、ララの全貌がアーリーンにも見えてきた。

 ララは黒のニーハイブーツにプリーツのミニスカート。はち切れんばかりの胸をかろうじて隠す黒のサテンシャツ。胸の谷間を思う存分見せつけている。

 無造作に伸ばしている髪は深みのあるピンクで、ララの魅力を最大限に引き出している。大人の色っぽさがムンムン香ってくる、綺麗な顔立ちの女性だった。


「やっべっ。おっぱいデカっ」

「あら、正直な坊やね♪」

「ララ。やめとけ、アーリーンはまだ若い。手を出すなよ」


 カイトが二人のやり取りに割ってはいる。

 カミュアもさっきからララの胸に釘付けだ。どうやら自分の胸の大きさと比べているようだ。完全なる敗北。


「で、最後に~、麗羅レイラの指導者は~。俺ね」

「えーーーーーっ(驚)」

「マジっ?(驚)」


 今日一番の驚きだ。


 こんな軽い悪魔が、麗羅レイラを指導できるのだろうか? アーリーンはミッシェルとの付き合いの中で感じた率直な感想を抱いた。

 まぁ悪魔族は基本、軽くて能天気な方が生き残れる。


「よろしくお願い致します」


 麗羅レイラは丁寧にミッシェルにお辞儀をした。麗羅レイラにとっては、驚くことでも何でもなかったようだ。


「パパが指導者でいいのかな」

「だな。でもあれでシルバークラスだからな。すごいんじゃないか?」


「ミッシェル? 今日のこれからの予定は?」


 カイトが机に腰掛け質問をする。その横にララが腰かける。ここではこの二人もこの距離でいられるのだ。美男美女のカップルに見える。ある意味神々しい。


「これから指導者の我らが姿を変える。それを見抜くトレーニングをやるよ♪ 人間界で天使と悪魔にバッティングした時にこの力は必要だからね」


 しーーーーん。


「この正装、着替えてくるってことぉ~?」

「僕はいいよ。面白いじゃない」


「はい決まりね。1時間休憩にしまーす」


 ミッシェルはメチャクチャ張り切りながら、カイトとララを連れて教室を出ていった。


「楽しそうだな。カミュア」

「うん。ゲームみたいじゃん! それよりさ。アーリーン、麗羅レイラ~。ライトのスイーツ、食べに行こぉ~♪」


 今回は麗羅レイラも頷き、一緒に中立エリアのダイニングルームへ向かうのだった。

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