第3話 モーニングはフレンチトーストで

 アーリーンは一睡も出来ず朝を迎えた。目を閉じるとライトとカミュアの、想像してはいけない映像が頭の中をぐるぐるめぐって…朝なのにどっと疲れていた。


『アーリーンもこっちの世界においでよ〜あはははは〜♪ る~んる〜ん♪』


 最後には、カミュアが呑気な顔でアーリーンの周りをぐるぐるスキップしながら回っている映像が映し出されていた。


「はぁ…。どうしちゃったんだよ。俺…」


『おはよー。ライトがモーニング作ってくれたよ〜。早く上がって来なよー(カミュア★)』


 早速スマホを使いこなしているカミュアからのお誘いが来た。ライトの作るご飯は純粋に美味しい。これは行くしかないだろう。アーリーンは気を取り直し制服に着替える。この制服は魔法では作り出せない。だから指パッチンですぐ変身できるアーリーンも着替えに時間がかかるのだ。


 上着を脱いだアーリーンのたくましい背中に、devilの刻印が刻まれていた。鏡越しにも見える位置に。


 アーリーンはそっとその刻印に指を添わす。悪魔族は生まれた時に悪魔族の証として焼印を押す習慣がある。古い式たりだから全員がこの刻印を持っているとは限らない。でもアーリーンにはその悪魔の証がしっかりと刻まれていた。

 この刻印が意味するところは正直わからない。この刻印があるから天使族と反発し、神の光を恐れなければならないのかもしれない。アーリーンにとっては不要の産物だ。


『今いく(アーリーン🙏)』送信


 フワッとマントを羽織ってアーリーンはエレベーターへ向かう。颯爽さっそうとしたその姿は悪魔族の名にふさわしい姿だった。


* * *


「おはよ〜アーリーン!  待ってたよ〜」

「あぁ〜おはよう」

「食べよう♪」


 ハイテンションのカミュアとローテンションのアーリーン。今日は対照的だ。


「アーリーン様おはようございます。お口に合いませんか? 食欲がなさそうでいらっしゃいますね。コーヒーか何かをご用意いたしましょうか」

「あぁ。コーヒーを」


 ライトも遅くまで起きていたはずなのに、いつもと同じ落ち着きのある爽やかな笑顔がキラキラしている。


「食べないの? アーリーン。そっちも僕が食べてもいいのかな?」

「どうぞ」


 ライトの朝ご飯はフレンチトーストだった。メープルシロップをたっぷりかけて生クリームが添えられている。それを嬉しそうにアーリーンの分まで頬張るカミュア。とても幸せそうに、美味しそうに食べている。

 アーリーンはライトが用意してくれたコーヒーを飲みながら、眩しそうにカミュアを見つめていた。今朝、あの刻印に触れたせいなのか、ただ寝れてないせいなのか理由はわからないが、カミュアと楽しい時間を過ごしていていいのだろうか? とアーリーンは真剣に考えていた。


「今日のアーリーン、なんか変だな。お腹痛いの?」

「いつもと一緒じゃないか〜?」

「それ、作り笑いじゃん? ね、ライト。ライトもそう思うでしょ?」


 ライトはキッチンスペースから戻ってきて、アーリーンのおでこに手を当てる。


「熱はなさそうですね」

「やめろよ。寝不足なだけだよ。誰かさんのおかげでね」

「うん?」


 カミュアはキョトンと首をかしげる。本当に悲しくなるくらい可愛い。


「僕? 昨日先に寝ちゃったから? ごめんね。アーリーン。僕は、アーリーンを怒らせるつもりはなかったんだよ」


 カミュアは珍しく食べる手を止めてアーリーンを心配そうに見つめている。なんでそんなに優しくなれるんだよ。アーリーンの心がチクッと疼いた。


 アーリーンのほんのちょっとの異変に気づいたライトは、アーリーンから手を離し、こう続けた。


「アーリーン様。ここでは天使族も悪魔族もありません。何を志すかが大事ですよ。自分を見つめ直す時間もきっとアーリーン様の力になるでしょう。そうゆう色々な経験が人を大きく成長させるのです」


 ライトはアーリーンの頭をぽんぽんと叩く。いつもカミュアにしているように。

 まるで父親にでも諭された様な不思議な気持ちが体に広がっていくのをアーリーンは感じていた。ライトにはお見通しなのか? ライトって何者なんだ?


「ライト〜。パパみたいだな」

「パパ…。(涙)ミッシェル様と一緒にしないでいただけると、私は嬉しいのですが」


 ライトが珍しく落ち込んでる。そろそろ授業が始まりますよ。とライトはカミュアとアーリーンを送り出そうとしている。拗ねたのか?


「早く行かないと、ミッシェル様に怒られますよ。スマホをお忘れないように」

 

 ライトのアドバイスは的確だ。そしてライトの煎れるコーヒーは最高だった。


「行ってきま〜す♪」

「行ってきます」


 カミュアとアーリーンは特別ルームに向かった。

 一人残されたライトは、食器を片付け自分のために煎れたコーヒーを片手に、窓際の全面ガラス張りの窓から地上を眺めていた。


―― ルーナ様、ご計画少しお早めに実行に移された方が良さそうです。カミュア様よりも先にアーリーン様がお気づきになられる日もそう遠くないかと…。


 ライトはガラス越しに見える蟻の様な人間界を見つめながらそう呟いていた。

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