第2話 人間界のスマホ支給します
特別クラス初日。特別クラスは天使族と悪魔族が一緒に学ぶ、まさに特別なクラスである。場所も中立エリアの一角に存在していて、カミュアとアーリーンが私物の様に使っているダイニングルームと地上へと続く不思議なエレベーターを挟んだ向いの位置に特別クラスは存在している。
中に入るためにはセキュリティーゲートを通らなければならない。セキュリティーゲートを通ると、天使族の医療チームのスタッフが傷ついた生徒たちを優しく
救護室を過ぎると観音開きの重厚な扉があり、その中に特別クラスは存在する。
セキュリティーゲートの仕組みはわからないが、救護室にも特別クラスにも縁のない生徒がゲートを
「ねぇ〜。アーリーン」
「うん?」
「僕たち2人しかいないけど、他にいないのかな?」
「さぁな。オリエンの資料を見ると…、どれどれ、俺たち以外は…。悪魔族が1名。出身が不明の生徒が1名。全員で4名のはず」
「不明、そんなことがあるのかな〜?」
「書き忘れたんじゃねーの?」
バチコーンっ。 教室内にいい音が響いた。
「痛てててっっ」
アーリーンが頭を抱えて悶えている。叩かれやすい体質なんだろうな。とカミュアは普通に納得した。どうやら出席簿の様な大きな紙状の物で叩かれたらしい。
「誰が書き忘れただと? お前は…2回目なんだから少しは学べ」
「パパ!(喜)」
「パパはやめなさい(汗)」
カミュアがパパと呼んだ人物。それは悪魔族のミッシェルだった。一応、アーリーンの担当教師でもある。知らない人が聞いたら、怪しい関係なのか!? と疑われても仕方がないくらい、ミッシェルは父親というよりはその辺の若者に見える。それだけ若々しいということだ。
今日は正装なのだろう。上下黒のコーディネートで身を包み、黒のマントを羽織っている。マントには特別クラスの制服と同じく、裾や襟元にシルバーのラインが入っていた。
ちなみに生徒の制服も同じく黒の上下に黒のマント。ただしラインの色は白。そしてマントの下はそれぞれの個性に合わせて好きなタイプを選べるようになっている。カミュアはもちろんスカートではなくパンツを選んだ。上着は襟にカラーのついたハイネックシャツで女性らしさはかけらもない。アーリーンは、カミュアがプリーツのミニスカート風の制服を着てくれることを期待していたので…、夢叶わずといったところだ。
アーリーンもカミュアと似た構成の服装で、唯一違うところは襟元がパーカー風になっていることくらいだ。
制服を着たアーリーンはとてもかっこいい。適度に日焼けした肌に鼻筋の通った凛とした顔立ち。背も高くバランスの取れた体格に、適度に鍛えあげた筋肉。脱いだらすごいんです風の細マッチョ。そして何と言っても蒼い瞳が印象的で、喋らなければ学園のTop3には入るイケメンのはずだ。寝癖風の髪も人間っぽくてかっこいい、と噂になっている(らしい)。
「喜べ。俺が!お前たちの担任となった」
「えっ(喜)」
「えっ(驚)」
「それから…、カミュア。学園内では先生と呼ぶように。いいね」
「う、うん」
まずはカミュアに忠告を入れてから、本題に入る。
「オリエンの資料にあった ”ジェイク・クリスローブ"は、諸事情で後から合流することになった。そしてもう一人…」
後ろの扉が開き一人の人物が入ってきた。
「紹介しよう〜。
「よろしくお願いいたします。
驚くのは服装だけではなかった。
「カミュアで〜す! で、こっちがアーリーン」
自己紹介にならない自己紹介が…終わった。
「これから、人間界について学んでもらうよ。アーリーンはすでに聞いている話だと思うから退屈だと思うけど、決して居眠りなんかしないようにね」
「あ〜い」
別に、2度目を強調してくれなくていいんだけどなー。とアーリーンは心の中で呟く。ま、ここは大人しくしていた方が身のためかもしれない。
「まずは、人間界では今までの魔法や呪詛はほぼ使えない。壁も通り抜けられないし、仲間や道具を召喚することもできない。もちろん、瞬間移動もNG。課題で道具が必要な時は、支給される仕組みになっているからね。これを忘れないように」
珍しくカミュアが大人しくメモを取っている。ま、わからなければ後でアーリーンが教えることになるだけなのだが。
「それと、入学のオリエンで各自ストーンを受け取っていると思うんだけど、卒業までずーっと必要なものになるので、
最初の説明が終わると、人間とは? という話が繰り返されていく。生まれてから死ぬまでの事、男と女、善と悪についても詰め込まれていくのだ。
一通り話終わった後にミッシェルは2つの大事なことを話すぞ、と言い生徒たちの顔を一通り眺める。
やっぱり心配なのはカミュアなのだろう。ミッシェルの目線がカミュアに注がれる。当の本人はすごく理解した。という顔でミッシェルに頷いた。カミュアがここまでの話をちゃんと理解できているかは…、謎である。
「はぁ…」
ミッシェルの深いため息が聞こえる。そりゃーそうだよね。気持ちはわかるよ先生。とアーリーンは心の底からミッシェルにエールを送った。ガンバ。
「ここから大事な話をする。1つは連絡方法について」
「これから人間界での課題もあるからね〜。力のほとんどを制御されている君たちにとっては命綱と言えるものを支給してあげよう」
パチッ。ミッシェルがカッコよく指を鳴らす。するとどこから湧いたのか、机の上にスマートフォンが用意された。ちょっと待て、前回はこんなものはなかったぞ。
「アーリーン。どうだい? 気に入ってくれたかな〜? 前回は用意してあげれなかったんだよね。でも必要だろ? だから今回は、用意してもらったんだ。俺に感謝しろ〜。人間界の最高傑作の1つだよ」
ミッシェルはアーリーンと肩を組みながら、スマホをいじる。
「結構面白いんだよね〜。人間界のニュースも見れるし。それと〜この特別クラスのコミュニティも作っておいたから、あとで触ってみてよ」
それぞれ生徒たちは初めて触るスマホに夢中だ。
「それと、大事なこと2つめを話すね」
みんなミッシェル注目する。
「明日! みなさんにはそれぞれ、指導員をつけまーす」
「何ぃ〜!?(驚)」
アーリーンは思わず声が出てしまった。カミュアの方を見ると…、ぽか〜んとした顔をしている。何が起きたのかわからないようだ。そして
「ビック サプライズでしょ?」
「聞いてねーし」
「そりゃそうだ。初めて言ったもん」
ミッシェルは楽しそうだ。
「明日それぞれ紹介するから、明日もちゃんと制服着てくるようにね。じゃ〜今日はこれでおしまい。また明日ね〜♪」
ミッシェルはパチンと指を鳴らし、風と共に教室から姿を消した。退屈だけど所々刺激的な授業が終わった。
「カミュア。
「そうだね! ライトに何か作ってもらおう」
「いいえ…。私は部屋に戻りますね。お声をかけていただき、ありがとう。ではまた明日」
「いつまで
「えっ?」
アーリーンは自分でも気づかないうちに
「別に僕はいいと思うよ。学園内の恋愛が禁止でもアーリーンが本気なら、黙っていてあげるよ」
「い、いや…。そうゆうわけじゃなくてさ」
悪魔族に、本気の愛なんて言葉は存在するのだろうか。アーリーンはカミュアの言葉に少し心がチクッとしたのを感じていた。
「ねぇ〜アーリーン。スマホって何?」
「えっ? そこからなのか?」
ディナーの後から眠くなるまで、アーリーンはカミュアにスマホの使い方を教えることになった。それはそれで楽しい時間ではなるが…。睡魔には勝てないのだ。
「そろそろ‥お開きにしないか? って…」
スースー。
「お、おい? 寝たのか?」
「う~んっ」
カミュアは、ソファーに横になりすやすや寝息を立てている。スマホにはまだゲームが起動されていた。どうやらカミュアは寝堕ちしたらしい。
アーリーンはカミュアの顔にかかった髪の毛をそっと耳にかける。カミュアはびくともしない。
鼻をつまんでみると、パカッと口を開いてスースー寝息を立てている。起きる気配は
ヤバい。このシチュエーションは…。
―― いかんいかん。
アーリーンはブンブンと頭をふる。完全に眠気は吹っ飛んでいる。こいつわざと俺に無防備な姿を見せつけてるんじゃないか? と疑いたくなる。
「おーい。ライトぉ~。助けてくれ~」
結局アーリーンはライトを呼び、カミュアは目覚めることなくライトにお姫様だっこをされ部屋に戻っていった。
「アーリーン様、良く我慢できましたね」
「まーな。ライトは平気なのかよ」
「はい。私は執事ですから。カミュア様が望まない限り、何も」
「ふ~ん。って、おい!」
ライトはアーリーンを見て自信満々の笑みを浮かべている。
「それって…、カミュアが望んだら…す、するってことだよな?」
「どうでしょう?」
ライトはしれっと澄ました顔で後片付けをしている。
カミュアはライトの作る飯で胃袋をしっかり捕まえられている。ライトには大人の魅力もある。完全なる敗北。
チーーーン。敗北の鐘の音が聞こえた。
「アーリーン様。そろそろお部屋に戻られては?」
「言われなくても…」
アーリーンは完全にふて腐れて、スマホを片手にエレベーターに向かう。
「アーリーン様」
「なんだよ」
「…いえ。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます