第2章 特別クラスのオリエンテーション 〜ふんわりシフォンケーキ〜

第1話 プロローグ

 マリアの一件があってから…、カミュアが落ち込んでいるんじゃないかと心配してみたものの、すっかりいつものカミュアが復活したようで、今日もこのダイニングでゆったりとくつろいでいる。


「アーリーン。ちょうど良いところに! もうすぐライトのワッフルが焼きあがる頃なんだ。一緒に食べよう!」

「お前〜本当に甘いものが好きなんだな」

「うん❤️ ライトのスイーツは、人を幸せにする魔法がかかってるんだよ」

「本当か?」


 今日も裸足にダボっとした短パン姿、これまたダボっとした白Tを無造作に羽織り、カミュアは嬉しそうにソファーにあぐらをかき、生足を存分に見せつけている。左の肩は丸見えだ。ちょっと下を向いたら胸なんて見えるんじゃないか? と期待させる服装だ。

 ピンクの髪をツインテールにして、いつも以上にワクワクしながら、ワッフルを待っている。子どもの様なあどけなさが、くーーーーっかわいい。


「わかんないけど、美味しいんだから良いんじゃない。で、アーリーンは何してたの?」

「まぁ、ここにくればカミュアに会えると思ったんだよ」

「僕になんか用?」


 アーリンは目のやり場に困るので、カミュアの隣に座った。これなら前を向いていれば、あんなことやこんなことを考えなくてすみそうだ。


 ここは中立エリア。天使も悪魔も一緒にいられる唯一の場所。それを試したいのか、カミュアがアーリーンの太ももにそっと手を載せる。


「ねぇ〜アーリーン。聞いてもいい〜?」

「なんだ?」


 下から覗き込むようにカミュアは顔を覗かせる。見ない、見ない。俺は決して誘惑に負けない、と言い聞かせるアーリーン。なんともいたわしい。


「あれ? ジューって溶けないんだね。これが中立エリアの力ってことなのか」

「おい、俺で試したのか? しかも今頃オリエンの資料を見直してたのか!?」

「うん」

「カミュア…。お願いだから手を離せ」

「溶けないんだから、良いじゃん」

「そう言う事はここではしないの。わかった?」

「はぁ〜い」


 本当はもっと触られていたい。いや違った…。触りたいのは山々だが、誰がどこで見ているかわからない中立エリア。カミュアのママにチクられたら大事おおごとになる。絶対になる。


 しかもここには、ライトがいる。


 今日で春休みが終わり、明日から本格的な授業が始まる。天使クラスはもっと子どもの頃から学園で学ぶ者が多く、悪魔クラスはもともと人数が少ないことから、カミュアもアーリーンも特別クラスに所属することになる。アーリーンは落第しているので2度目のスタートだ。


「特別クラスって、僕たちだけなのかな?」

「明日になればわかると思うけど、俺の最初の時は〜、俺を入れて5人だったな〜。天使が3、悪魔が2」

「ふ〜ん」

「ま、でも特別クラスって言ったって、最初の1年だけっぽいしな。天使クラスは人数も多いいから、それなりに数もあるんだろ?」

「うん。幼馴染とか普通クラスに通ってるよ。僕は多分半分悪魔族だからね。特別クラスに入れられたんだと思う」


 カミュアは少し寂しそうにそう答えた。アーリーンはカミュアの頭をゴシゴシ撫で回す。中立エリアであればできる技だ。


「痛タタタタっ。何すんだよ」

「悪魔族だって良いとこあんだぞ! 俺が可愛がってやるよ」

「ちょっと〜やめてよー」


 あぁ〜神様。この時間が長く続きますように。とアーリーンは本気で思ったかもしれない。カミュアの髪はサラサラで、ツインテールは無惨にも解けてしまった。


「もぉ〜」


 髪を整えながらカミュアは膨れ面をしている。アーリーンはカミュアのぷく〜とした頬を両手でぶひぃ〜と潰す。


「あははは」

「もうやめてよねー。僕の頭はおもちゃじゃないんだよ」

「ま、たまには良いじゃないか(たまにじゃないけど)」


 カミュアは髪を束ねるのを諦めたらしい。これはこれで大人っぽくて良いんじゃないかな?


「そう言えばさ〜ライトはどこで寝泊まりしてるんだ? 部屋は俺たち生徒の物だろ? 先生たちは自分達の部屋を人間界に借りてるはずだしさ〜」

「ライトの部屋? ライトは僕の部屋と一緒だよ」

「え? まぢか?」

「うん。何か問題がある?」

「い、いや。問題っていうか…。その…」


 大人の男と可愛すぎる無防備な女の子が一つ同じ屋根の下にいたら…。そ、それは誘惑が多すぎるし…、やることは一つ…だよな…。アーリーンの妄想が爆発する。


「アーリーン? 顔が赤いけどどうした?」


 尻尾をフリフリしながら、ライトの周りですりすりしているカミュアの姿が想像される。ライトは…。


 ゴ〜〜〜〜ン。アーリーンの目から火花が飛び散った。


「痛〜〜〜〜〜〜っっっっっっ。何すんだよ!」


 振り向くとライトがワッフルを持って、クールな顔で立っていた。いかにも何もなかったように。そしてカミュアも何事もなかったように、ライトの持つワッフルに目が奪われている。


「ライト〜〜〜っ。すんごく痛かったぞ。今殴ったよな? しかもグーでっ」

「アーリーン様。今すごくはしたないことを考えていませんでしたか?」

「うっ、、」


「ライト〜。それ食べたい〜。早く〜ぅ」


 カミュアの食欲の方がはしたないのではないか? とアーリーンは頭を抱えながら、自分が考えていたことを口にできるわけもなく、ただただ痛みに悶えている。


「私は、カミュア様の執事のような者です。変なお考えはお捨てになられた方がいい」

「いや…、俺は…」


 カミュアはライトの作ったワッフルを一口。今幸せの絶頂の様な顔をしている。アーリーンとライトの話には興味がなさそうだ。


 ライトはグィっとアーリーンに顔を近づける。男のしかも悪魔のアーリーンですらうっとりするような綺麗な顔立ちに、アーリーンはソファーの背もたれに退く。


「アーリーン様にはまだ早すぎますよ」

「えっ?」


 ライトは自信満々の笑みを見せ、紅茶をお持ちします。と言い立ち去っていった。すぐに戻ってくるだろうけど…。


 アーリーンはドキドキしていた。俺は最強だって思っていたこの1年はなんだったのだろうか…。この数日間で、カミュアの周りにいる大人たち、先輩天使と悪魔の迫力に圧倒されていることに気づく。


「や、やべー…。ドキドキしてる」

「アーリーンが悪いよ。ライトを怒らせたら、怖いからねー。気をつけな〜。人間だった頃のライトは、それは凄かったらしいよ。ママが言ってた」

「す、すごいって何が?」

「う〜ん。僕にはわからない」


 もぐもぐワッフルを食べながら、幸せいっぱいの顔のカミュアだった。今回もただただモヤモヤしっぱなしのアーリーン。深いため息をきながら、ライトの作ったワッフルをほうばる。


「う、うまい」


 さぁ、明日から特別クラスでお勉強のスタートです。

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