第3話 教会
中はとっても暖かく、シチューの良い匂いがする。
「良い匂いだな」
「人間界の食べ物はうまいからな~。カミュアも食べておくといいよ」
「とりあえず、入ろう。アーリーン入れそう?」
「モーマンタイ」
二人はゆっくりと扉を開け、中に入る。
教会の中は、カミュアが想像していたイメージとは違っていた。そこは20畳くらいの広さがあり、炊き出しのエリアと食事ができる机、そして古いピアノが置かれていた。協会というより会合するためのホールのような場所だ。
その中に15~6人の貧しき人が食事にありついていた。大人もいれば子どもいる。
炊き出しのところにはマリア像が手を広げて立っている。皆を歓迎しているようだ。マリア像の近くがぽわっと明かりを灯したように輝いて見えた。それこそが神の領域なのかもしれない。
「いらっしゃい。寒いので、奥へどうぞ。さぁ」
一人の女性がアーリーンに駆け寄る。
ヤバイ。善人に触れたらアーリーンが溶けるんじゃないか? とカミュアは慌てたが、すんなりとアーリーンは女性にしたがってシチューを受け取っている。
「なんだ、心配して損したっ」
カミュアはふてくされて壁に寄りかかり、人の動きを観察する事にした。
良い行いをしている人間は何かが違って見える。と聞いていたから、それが起こるのを待っていた。
「うまぁ~い!」
ひときわ大きな声でアーリーンが、がっついている。
「まだありますから、慌てずにね」
優しい女性だ。でも、一向にストーンは反応しない。
「何で?」
カミュアは、理解できなかった。
「カミュアは、食べないのか? うまいぞ」
いつの間にか側に来たアーリーンが、満足そうに話しかけてきた。
「アーリーンは大丈夫なの? 良い人の中にいて…」
「あのマリア像の付近はさすがの俺も近寄れないけど、意外と居心地がいいよ。あっちの角に、俺たちの先輩がいるしな」
チラッと角を見ると老人が一人、食事をしている。さっき入り口で見かけた女性と何か話をしていた。
「あのお爺さん…がそうなの?」
「よく見てみろ。黒いオーラに角が」
老人に意識を集中してみると、足元からもやもやと黒い
「げっ、ホントだ。悪魔が何しるの? あの人大丈夫なのかな?」
「おい、喧嘩なんかするなよ。俺たちは見習い。先輩たちのテリトリーにお邪魔してる身だって言うことを忘れるな」
「わ、分かってるよ」
でも、カミュアは納得がいかない。神の領域で悪魔が何してくれるんじゃい。っとパンをかじりながら、カミュアはそんなことを思っていた。
「まー、何か悪知恵を与えているわけでもなさそうだしな。ほっといても大丈夫じゃねーか?」
「そんなもんなのか? アーリーンは、挨拶に行かななくて良いの?」
「こうゆう時は、関わらないのが礼儀だぜ」
「ふ~ん、そんなもんか?」
「縄張りってあんだろ? 俺はお前の付き添いだから、なにもしない」
我関せずを貫くアーリーンは、マジ、シチューうめー。とおかわりをもらいにカミュアの側から離れていった。
カミュアは気になっている。さっき入り口で見かけた女性から目が離せなくなっていた。彼女からは暖かい光のようなものを感じるし、誰よりも優しい笑顔で周りの人に幸せを振りまいているように見えたからだ。
「お姉さま。お義兄様が道に迷われているみたい。お迎えに出るわね」
「それなら、私が…」
「大丈夫。お姉さまはこちらで待っていて。外は寒いですから。ね」
先程の二人のやり取りが聞こえて来た。
姉思いの妹。思いやりという人間の暖かい一面。でも、ストーンは光らない。
「あの爺さんの影響なのかな?」
カミュアは腕を組み目をつぶった。目をつぶると…、人間から発せられる善の光がみえるような気がする。さっきアーリーンに教えてもらった対象を集中して見るのとはちょっと違う。
「行ってくるわね」
「気を付けて」
姉の方からはマリア像と同じような暖かい雰囲気を感じる。さっきから座っているが、足か何かが悪いのだろうか。
「カミュア、あの女性が気になってるのか?」
「あ、うん」
二杯目のスープをすすりながら、アーリーンも、女性に目を向けた。
「あの…。何かお困りのことでもありますか?」
注目していた女性が声をかけて来た。
「えっと、えっと」
まさか声をかけられるとは…、カミュアは動揺を隠せない。動揺しすぎだろ? とアーリーンはニヤニヤしている。
こうゆう時こそ助けるのが先輩というもんじゃないのか? 助けてよ! とカミュアは内心思っていた。
「驚かせてしまってごめんなさい。私はマリアと申します。私に何かお話があるのかと思ってしまって。勘違いでしたらごめんなさいね」
流れるような綺麗な声だ。心地よくて暖かみに溢れている。きっと善人と言われる人間なんだろうと簡単に想像がつく。
「いえ、僕の方こそガン見しちゃってごめんなさい」
「いいえ、大丈夫ですよ。シチューはもう召し上がりましたか?」
マリアは、シチューを取りに行く為に方向転換をしてよろめいた。アーリーンは咄嗟にマリアに駆け寄り手を差し伸べた。マリアからは花畑の様ないい香りがする。
あれ? 彼女目が見えてない?
「あっ、大丈夫?」
「ごめんなさい。私にも何かできると思っていたのですが、結局皆さんに助けていただいてしまって…」
カミュアはマリアの手をとり、もう一度椅子に座らせる。
彼女の手に触れた時、カミュアは暖かい空気が重なった手から流れ込むのを感じた。
「あなたのお名前を伺って良いですか?」
「あ、僕はカミュア」
「カミュアさん。素敵なお名前ですね。そして…とても優しい方ですね。まるで天使が降り立ったような。暖かい光を感じます」
「えっ?」
「そして、後ろにいる方も。優しくて力強い方。目が見えない分、いろいろ感じることが多いいんですよ」
マジか、アーリーンの存在がわかる?
カミュアとアーリーンは目を合わせてぱちくりする。
「アーリーン、優しいって」
「俺は基本いい奴よ」
二人のやり取りを聞いていたマリアがクスッと笑った。何て素敵な笑顔なんだ。
「いつも君はここで僕たちみたいな、その…貧しい人のサポートを?」
「えぇ、ほとんどは妹のラミアが…。私は気持ちだけですけど、月一回は来ることにしているんです。志の高い方や、親のいない子どもたちに前向きに人生を歩んでいただきたくて。でも…私たちに出きることは、こんなささやかなことくらいで…。」
「すごく立派だと思うよ。僕は」
「ありがとう。やはりカミュアさんは優しい方ですね」
わーい、誉められた~。カミュアの顔が赤くなる。するとカミュアのストーンがほのかに光った。
「アーリーン!」
「だな」
「まだ、輝きが弱いかも…。だけど光った!」
カミュアは初めてストーンが光ったことに驚きを隠せなかった。これがストーンの力…。そう思っていたところで、カミュアはマリアの指に光る指輪に気づいた。
「マリア、とっても綺麗な指輪だね」
マリアの綺麗な指に大きなダイヤのリングがはめられていた。婚約指輪だとすぐにわかる。
「ありがとうございます。こんな私にも神様が幸せのお裾分けを。エリックを使わせてくださったのです。私たち、来月…」
「そうか、婚約者はエリックって言うんだね。おめでとう!」
「ありがとうございます」
マリアは、照れたように指輪にそっと手を添える。
しばらくすると、マリアの婚約者のエリックが、妹のラミアと一緒に戻ってきた。
「マリア、遅くなってごめん」
エリックは真っ先にマリアのもとへ駆け寄る。マリアの顔が一瞬にして薔薇色になり幸せに包まれた。
後ろにいるラミアからはさっきまでの笑顔が消え、マリアとは真逆の黒い
「アーリーン、あれ…」
「お前も気づいたのか? あの姉妹何かあるな」
「マリアはあんなに幸せそうなのに、ラミアは幸せじゃないの? あんなにラミアは喜んでるように見えるのに。あの黒いもやっとしたのはなんだろ?」
「このままなにも起きなきゃいいがな」
アーリーンは、興味無さそうに三回目のシチューのおかわりに席を外した。
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