第1章 初めての世界 〜涙のマカロン〜
第1話 プロローグ
「なに仏頂面してるんだよ?」
「別にぃ~パイセンには関係ないでしょ」
ここは寮のダイニングルーム。寮といっても高級マンションの一室のように豪勢だ。大きなテレビ、ふかふかなソファー。高層ビルの最上階に位置するここは、全面ガラス張りで窓から見える景色が自慢だ。
他の学生は、課題で出払っているから今ここには、落第が決まった先輩(来年からは同級生だけど、今は先輩と呼んでおこう)アーリーンと、悩み多き見習い天使のカミュアの二人きり。
「聞いたぞ! 進路についてまだ決めてないんだってな」
「うるさいな~、今から決めるなんてどうかしてるんだよ。はぁ…」
大きなため息をついて、カミュアは机に足を乗せ、進路選択用紙を放り投げた。
「おいおい…。こんな俺ですら、進路は真剣に考えたぞ」
そう言い、散らばった進路選択用紙を拾いアーリーンはカミュアに押し付けた。
「痛っ。何すんだよ」
「お前さ、真面目に考えたらどうなんだ?」
「考えてるさ。選択肢が多すぎるんだよ。天使って言っても分野が分かれてるみたいだし。キューピッドとかも憧れるけどさ、今時の人間って恋とか愛とか、結構大変そうじゃない?」
「だからやりがいがあるんだろ?」
テーブルにいつの間にか置かれたクッキーを頬張りながらアーリーンは先輩っぽく発言する。
「パイセンは、いいよな~悪魔の道まっしぐら。他の選択肢なんてなかったんでしょ?」
「失礼だな~。悪魔コースにもいろいろあるんだよ。召喚されて"契約"を元に活動するタイプ、人を悪の道に導くタイプ。そして死んだ後のケア、地獄へ導くタイプ。それぞれ役割には資格が必要なんだよ。卒業できなかったり、試験に合格しないと仕事に溢れるんだぞ」
ふ~ん。カミュアは興味が無さそうに大あくびをする。
「興味ないんかい!」
「あ、ごめんなさい。悪魔コースもめんどくさそうだね」
カミュアは、ソファーにゴロンと横になる。
「どっちもどっちか…」
ため息が深くなる。
どんだけ無防備なんだ。アーリーンは、ごくりと唾をのみ込む。
女神と悪魔の間に誕生したカミュアは、母親譲りの美貌を持ち合わせている。時々小悪魔的な仕草や行動が、とても興味をそそられる。
手を出そうと思えば、出せる距離だが…。
女神のような神々しさで、他人を寄せ付けないクールな一面もあり、なかなか思うようにいかない。
「何見てるの? 僕の顔に何かついてる?」
「はぁ…お前さ、母親を見習って、女らしくしてみたらどうなんだよ」
「なんだよそれ。ママは関係ないでしょう?」
カミュアは起き上がり、少し拗ねた仕草をする。
ヤバイ。かわいい。
「パイセン、暇なら宿題付き合ってくれないかな?」
「おいおい、進路相談はいいのかよ」
「あー、それな…。とりあえず、パイセンの話を聞いて気持ちは固まったよ」
カミュアは素早く立ち上がり、一瞬にして出かける準備をする。
「パイセン。行こう!」
「何すんだよ」
「人間の良い行いを集める。ポイント集め。パイセンもやったでしょ?」
「あーあれな」
特定の場所にいけば、悪のポイントなんてあっという間に集められたし、楽勝だな。とアーリーンは、考える。
「ま、暇だしな。付き合ってやるか」
「ありがと」
カミュアの微笑みは紛れもなく天使だった。
「さー行こう!」
「おー!」
ゴーオーオンっ。
「痛ててててぇ」
カミュアが頭を抱えて尻餅をついている。カミュアがガラスを通り抜けようとして、失敗した音だった。
「あはっはは、バカだな~。ここは人間界なんだぞ。力も制限されてるんだよ。俺たちは見習いだしな」
「笑わないでよぉ!」
立ち上がる手助けをしながら二人はエレベータにむかう。
「いいか、このビルは低層階は普通に人間が暮らしてる。高層階は、学生寮で、北が悪魔クラス、南が天使クラスの生徒が住んでる。そして最上部は、進路を決めていない学生の部屋だな。ここは共通エリアだから、どちらの生徒も入れるのさ。だから、エレベーターで移動する事。これは基本だ! わかった?」
「あい」
アーリーンって意外と背が高いな。なんて思いながらカミュアは、冷えピタ君をおでこに貼る。
人間の作るモノって素晴らしい。
「気を取り直して、いざ!」
「おー!」
あれ? 人間のよいところが集まってる場所ってどこだ?
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