見習い天使カミュア様は甘いものがお好き♪

桔梗 浬

第0章 強大な力

First Take

「先生? 先生宛に魔王堂から書籍が届いております。お部屋にお届けしましょうか?」


 先程からの雨が雷を伴う嵐へと変化し、強烈な閃光とともにゴロゴロと雷の音が部屋の中にも響いている。腹の底にも響き渡るような音。

 先生と呼ばれた人物は、重厚な机に寄りかかりながら分厚い本に目を通していた。いろいろな本や資料で囲まれたこの部屋は、先生と呼ばれたこの男のお気に入りの場所なのだ。


「ありがとう。ここでもらっていくよ」

「承知いたしました」


 机の上におかれた書籍は分厚く重たく、とても古い。表紙は革製で製本されており、ところどころ虫食いの痕があった。


「待っていたよ。これを探していたんだ」


 先生と呼ばれたその人物は、愛おしそうにその本に触れる。表紙には竜をモチーフにした刻印が刻まれていた。

 そう…。この印こそがローズウォリック家の印、最強最悪の悪魔族の証。


 ローズウォリック家の最後の頭首、モーリー・ローズウォリックは世界を破滅させる邪悪で強大な力を持っていた。天界・人間界をも悪の力で支配するその力に、誰もがひれ伏す。

 世の中は恐ろしい疫病や、恐ろしい事件が多発し、混乱と混沌の世の中になっていた。人々はお互いを殺し合い、神ですらこの状況を打開することができずにいたのだ。


 一部の神もモーリー・ローズウォリックの前に膝まづき、世の中は悪の手に堕ちるかと思われたその時、モーリー・ローズウォリックはある者の手で封印された。


 彼が封印されたことで世の中は平和と秩序を取り戻す。


 今、そのローズウォリック家の印が刻まれた古い本がここにある。


 無知による人間の手によって、神が作った結界が破壊され、恐怖の破壊神モーリー・ローズウォリックの復活の時がすぐそこまで来ている。彼の封印が解かれ、肉体と力を取り戻した時、この世界は善と悪のバランスを完全に失うだろう。

 

「ローズウォリック家のことが…、これでわかるといいのだが…」


 モーリー・ローズウォリックを復活させてはいけない。封印が解かれるのも時間の問題だろう。急がなければ。


「決して、復活させてはいけない。あの悪夢を繰り返してはダメなんだ」


 先生と呼ばれたその男はペンを持ち何やら書き始めた。


「すまないが、これをみなに届けてくれ」


 いつの間にか現れた黒い翼をもった鳥に手紙を託す。男は鳥の体をやさしくなでながら、そう伝えた。

 鳥はうれしそうに、嵐の中を飛び立つ。主人の言いつけを守って。


「巻き込みたくはなかったが…。お前の力が必要になりそうだ。カミュア…」


 先生と呼ばれたその男は、ふかぶかと椅子に腰を落とした。


 ローズウォリック家の刻印が押されたその本だけが、答えを知っているかのように存在感を放っていた。

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