エピローグ1

 いつか死ぬ日が来たのなら、その時は柔らかいベッドの上がいい――


 そんなことを夢見ていたのは、果たしていつの頃だったか。おそらく子供の頃ではなかったはずだ。その頃は、ベッドなる寝床があることも、その寝床が体が沈み込むほど柔らかいことも知らなかったはずだから。

 であるなら、そこそこ歳がいった頃の話のはずだが……


(随分と、馬鹿げたことを考えてた頃があったもんだな……)


 そしていつの間にそんな夢を諦めたのやら。もう“彼”にはわからないが――

 スカーレットは、ゆっくりと目を開いた。


 迎えてくれた最初の景色は、なんてことはないベッドの天蓋――つまりはいつもの目覚めの景色だ。首だけで周囲を見回せば、見えてくるものも見慣れたものだとわかる。

 つまり、自分の部屋だ。メイスオンリー邸の、スカーレットの部屋。いつもどおりの、何も変わり映えしない、いつもの部屋だ。

 だからこそ、スカーレットは首を傾げた。


(どうして、オレはここにいるんだ……?)


 その質問は、いつものことであれば理不尽だったに違いない。

 ここはスカーレットの部屋だ。ここで寝て、ここで起きる。スカーレットが目覚めるなら、当然それはこの場所に決まっていた。そこに“どうして”は介在しない。

 だが、今回ばかりはその理不尽に立ち向かう必要があった――最後の記憶と今とで、記憶が繋がらなかったからだ。唐突に誘拐され、邪教の司祭だかなんだかと殺し合い、死にかけた最後と。

 あの後何が起きて、ガルグイユ古城塞からどうやってここまで戻ってきたのか。

 誰かに聞いて確かめようと、いつもの癖でベッドから出ようとして――スカーレットは悲鳴を上げた。


「――いっつ!?」


 全身が痛みで引きつる。深刻なのは、やはり左の太ももだ。ニールに寄生した邪教の司祭に、剣で貫かれた。

 だが痛むのはそこだけではない。感覚を頼りに確かめれば、至る所を包帯でグルグル巻きにされているようだ。身動きどころか、身じろぎすらできる状態ではない――かろうじて声だけ出るのが唯一の救いと言えた。

 と。


「あっ……」

「……?」


 遠くで、扉が開いた音。

 眼球だけを動かして見やれば、そこにいたのは二人の少女だ。ソニアと、ツェツィーリア。二人とも驚愕に目を見開いて、抱えていたシーツやら包帯やらの替えが、音を立てて床に落ちる――


 顔の造りなどは似ても似つかない二人だが。その表情の変化は、だがどうしてか、不思議と完全に同じだった。まん丸に見開かれていた瞳がくしゃりと歪み、目元から涙がこぼれ始める。二人はその場で立ち尽くしていたが、その体は震えていた。遠目でもはっきりとわかるほどに。

 二人の目の下にできているくまが、どれだけ心配をかけたかを物語っていたが――


(まあ……仕方ねえよな?)


 言えることなどそうはない。だから仕方なく、スカーレットは苦笑して口を開いた。


「よお、ソニア。ツェツィーリア様も。ただいま……のが、いいのかな?」

「……っ!!」


 くしゃくしゃに歪んだ泣き顔が、その声をきっかけにまた歪む。二人は笑おうとしたに違いない。だがそれもムリだったのだろう。泣き顔のまま、二人はスカーレットに近寄ろうと駆け出して――


「――スカーレットぉぉぉぉぉぉっ!!」


 いつの間にか飛んできた父ヒルベルトが、絶叫と共にその何もかもをぶち壊した。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 結局聞いてみれば、あの後の顛末はどうということもなく単純だった。


 スカーレットと王子の失踪に気づいた従者たちは、イタズラなど疑うことなく父ヒルベルトに連絡。ラトールが襲撃されツェツィーリアがさらわれた件も含めて、父は邪教による誘拐と判断し、即座に国境警備隊を活用した(邪教のことは相談・周知済みだったらしい)。

 その国境警備隊の中で、最も機敏に動いたのがカイルの率いていた隊だという。コムニア襲撃のならず者たちを捜査していた彼らは、早い段階で邪教の隠れられそうなスポットに見当をつけていたらしい。

 ガルグイユ古城塞はその筆頭だ。そうしてスカーレットたちが行方不明になってから半日を待たずして、救助隊がガルグイユ古城塞へ派遣。その先頭を父が勤め、合流。負傷したスカーレットや王子たちをすぐに救出し、それで事件は解決となった。

 それが三日前の話であり……今日ようやく、スカーレットは目を覚ましたというわけだった。

 という話を――


「君が眠っていた三日間の間に、起きたことというのはそれくらいかな。私が把握できている範囲で説明させてもらったけど……こんな説明で大丈夫だったかい?」

「あ、ありがとうございました、陛下。おかげで状況が理解できました」


 ラトールが教えてくれたので、スカーレットは恐縮しながら礼を言った。

 ベッドの上で、どうにか体を起こしてもらって、そんな姿勢での国王陛下との対面である。いくらラトール本人が許したとはいえ、礼儀を思うと非常に気まずいのだが。

 本来なら、こうした説明は父ヒルベルトがしてくれるはずだった。それがどうしてラトールから説明を受けることになったかというと、説明役であるはずのヒルベルトが全く役に立たなかったからだ。

 ちらと視線を横にずらせば、ベッドにしがみついて泣く大男の姿がある。


「す、スカ、スカーレっ……お、おまえ、おまえがし、死ななくて……ぐず、ほ、本当によかっ……!!」


 死ななくてよかったと、もうそれしか言っていない。スカーレットが目覚めたさっきから、ずっとこんな調子だ。気持ちはありがたいし心配をかけたと申し訳なくは思うのだが。

 スカーレットの部屋には、今は四人の来訪者がいた。ベッドにしがみついているヒルベルトに、目覚めたと聞いて飛んできたラトール。ジークフリートとツェツィーリアも一緒にいるが、彼らは話があるからと、ラトールの後ろに控えさせられていた。ソニアや他の従者はいない――部屋の外で待機している。


 ジークフリートの眼は赤く充血し、うるんでいる。ツェツィーリアに至ってはさっきまで引きつけを起こすほどに泣いていた。今はラトールにしがみついているが、涙はまだ止んでいない。できることなら笑ってやりたいところだったが、それはしばらくお預けだ。今は大人の話をしなければならない。

 ラトールたちがメイスオンリー領に来たのは、あくまでお忍びだ。これ以上王都を留守にするわけにはいかないと、彼らは今日メイスオンリー領を発つ。その前に、終わらせられる話はここで終わらせておかねばならない――

 そのためにスカーレットは訊いた。


「私たちをさらった者は、どうなりましたか?」


 邪教の司祭に操られ、凶行に及んでしまった者たちのことだ。

 スカーレットたちをさらったのは三人だったが、ラトールたちを襲撃し、ツェツィーリアをさらった者たちもいた。ガルグイユ古城塞で見た限り、十人前後の人間が今回の件に巻き込まれたはずだ。コムニアの日の襲撃に関わった者もいる。もしかしたら他にも洗脳されていた者がいたかもしれない。

 問うと、ラトールは表情を曇らせた。それである程度スカーレットも察したが。


「彼らは皆、国境警備隊が捕まえたよ」


 ラトールは真摯に答えるべきだと判断したのだろう。隠すこともなく言ってきた。


「逃げたりはしなかった――というより、やはり自分がこれまで何をしていたのか、さっぱり覚えていないようだった。どうしてガルグイユ古城塞にいたのかもわからないと……全員が、そう主張した」


 ニールもね、と、彼はぽつりと付け足した。

 護衛として連れてきた騎士の中にも、今回の誘拐に加担した者がいた。それがニールだ。彼はスカーレットとジークフリート、そしてツェツィーリアの誘拐、全ての事件に主犯として関わっている。

 特にツェツィーリア誘拐の際に、ニールは護衛の騎士たちを傷つけた。幸いというべきなのか、全員生きてはいるようだが……重傷を負った者もいる。


「……彼らの処遇は、どうなりますか?」


 確かめるために訊いた。

 だがラトールは首を横に振った。そして答えとしてはこう言った。


「……君は聡明だ。わかっているんだろう?」

「…………」


 スカーレットは頷かなかった。だがその答えはわかっていた。

 そうだ。わかっている。問われるまでもなく、当然の帰結としてスカーレットにはわかっていた。

 第三王子と姫殿下、更には辺境伯令嬢をさらい、命の危険にさらした。どんな目的や理由があろうと、それは明確に王家への反逆だ。

 彼らは皆、死刑になる――自分が望んで犯した罪ではないのにも関わらず。


 表情が暗くなるのは隠せない。それに怯えるかのように、ツェツィーリアがびくりと震えたようだった。それに気づいて、慌てて表情を取り繕う。

 ケガという意味ではスカーレットが一番の重傷だが、本当の意味で危ないのはツェツィーリアの方だ。誘拐され、危険な目に合い――さらにはスカーレットが“こう”なったのは自分のせいだと自らを責め、心身のバランスを崩している。

 今もラトールかジークフリート、それかソニアが近くにいないと、不安と恐怖で動けなくなるようだ――なんでソニアなのかは不明だ。どうやらスカーレットが寝ている間に仲良くなったようだが。


「……子供にする話じゃなかったね」


 と、ラトールが小さくため息をつく。

 そうして彼は苦笑すると、これまでの空気を払拭するように朗らかに言ってきた。


「というより、君が子供であることを忘れそうになるよ。性格や振舞いだけでなく、実力もね。ニール・ハイドは若手の騎士の中でも有望株でね。そんな彼を、まだ十歳にならない子供が倒せるとは思ってもみなかった」

「いや、ハハハ……運がよかっただけでしょう。油断もあったでしょうから」


 流石に『中身は子供じゃないです』とは言えず、ごまかす。

 だが実際に、スカーレットはニールに勝ったわけではない。こう言ってはなんだが、ニールに寄生していた邪教の司祭が間抜けだっただけだ。勝負勘のない素人だったから、どうにか隙を見つけられた。これが実際の騎士だったら、勝てたかはわからない。

 だがラトールからすればたまったものではないだろう。彼は苦笑してみせた。


「油断なんかで負けるようなら、護衛騎士なんか務まらない。謙遜は美徳だけど、君の場合は胸を張ったほうがいいね。君は強いよ。誰が認めなくとも、私が認める」

「……アリガトウゴザイマス」


 真っすぐに向けられたその言葉は、どうやら本気で思っているようで。それが妙にこそばゆくて、棒読みで感謝を返す。

 その横でツェツィーリアが涙目ながらも何度も頷いていたりしたが、まあそれはともかく。

 そんな娘の頭をポンポンと撫でてから――

 不意にラトールは、その顔から遊びのようなゆとりを消した。


「ここからは父親としてではなく、クリスタニア王ラトールとして言わせてくれ……息子と娘を助けてくれたこと、心より感謝する。君の身を賭した献身に、報いたい」


 友人の娘に――あるいは子供たちの友人に、ではなく。

 一人の臣下に向き直るように、厳然とした面持ちで言う。


「今回の件の褒賞という形になるが、出来うる限り、君の望む願いを叶えたい。なにか、欲しいものはあるか?」

「…………」


 スカーレットは束の間、呼吸をすることを忘れた。

 父ヒルベルトがあんな態度ばかり取っているから、つい意識できていなかったが。ラトールはクリスタニアを統べる王なのだ。

 何十何百もの貴族たちを束ねる、クリスタニアの真の王。それを肌で感じた。

 初めて見るその顔を前に――


「であれば、陛下……恥を忍んで、どうか一つだけ、私に願わせてください」


 スカーレットは、覚悟を決めた。

 真っすぐに見据えた視線の先、ラトールが頷くのを待って――告げる。


「どうか……この地で起こった何もかも全てを、なかったことにしてください」


 ラトールは……すぐには答えない。

 無言で促された願いの理由を、スカーレットは告白した。


「信賞必罰が世の掟というのであれば、メイスオンリーは罰を受けるべきでしょう。ジークフリート殿下と、ツェツィーリア姫殿下の命を、メイスオンリーの民が危険にさらしました……それはすなわち、メイスオンリーの罪でもあります」


 証明は出来ない。邪教の司祭は邪神に飲まれ、跡形もなく姿を消した。後に残ったのは己の犯した罪も知らず、ただ操られていた人々だけだ。

 だがそれは、内情を知る者だけが知る話でしかない。第三者にわかるのは、今スカーレットが語ったことだけだ。

 メイスオンリーの民が、王族を危険な目に合わせた。それだけが事実として残っている。

 だからこそ、守りたかったのはメイスオンリーの民と――そして父、ヒルベルトだった。


「もしも願いを叶えてくださるのなら……私は褒賞などいりません。だから……どうか。この地で起きたこと全てに、目をつむっていただきたいのです」


 王族の命を危険にさらした。その一大事に目をつむれと言う。それが恥でなくて何なのか。

 それがわかっているからだろう。ラトールは表情を厳めしく変え、押し殺した声を口から漏らす。

 だが問いとして放たれた言葉は、これだった。


「……メイスオンリー領のために、王自らの褒賞を捨てると?」

「はい」

「望めば、どんなものでも手に入るかもしれないのに?」

「はい」


 スカーレットは二度、即答した。

 それ以外に欲しいものなどない。だから後は、スカーレットは祈るしかできなかった。

 ラトールは何も言わない。ただ物思いにふけるように目を閉じ――そして。


「……まったく。困ったね」


 ラトールはため息をつくと、“王”であることをやめたようだった。

 友人の娘に向ける“ラトールおじさん”の顔で、力なく笑う。


「何か、物を欲しがってくれるのならそれが一番よかった。恩を返せないのは、とても怖いことだからね。それなのに何もいらないと言われてしまうとね……君は、謙虚な子だと思っていいのかな?」

「いいえ、強欲者です……父を、失いたくない」


 メイスオンリー領の罪ならば、それは即ち領主の罪だ。

 もし仮に、これでジークフリートとツェツィーリアが死んでいたのなら。おそらくは、その罪でヒルベルトは裁かれただろう。

 あの儀式はツェツィーリアとスカーレットを贄に捧げるはずだった。もしツェツィーリアが死んでいたのなら……ヒルベルトもまた、生きてはいられなかったはずだ。

 あるいは、ツェツィーリアを死なせたその時点で、父は贖罪のために自害したかもしれない。父はそういう男だ。

 それはラトールもわかっていたかもしれない。彼はスカーレットの答えに微笑むと、ベッドの傍でこの話を聞いていた、ヒルベルトに囁いた。


「いい娘に育てたね。ヒルベルト」

「勝手に育ってしまったのだ。いつの間にか……父親である私も知らぬ間にだ」


 どこか不満そうに――素直に褒められて照れたのだろう――ヒルベルトはそっぽを向いたが。


「だが……あの世で妻に泣かれずに済む」


 父ヒルベルトの返答もまた。これまでのみっともない父親の姿からかけ離れて、静かで穏やかなものだった。

 ため息とは違う。だが肺に溜まっていた息を静かに吐いて、ラトールは言ってくる。


「……君のケガの理由が、どこにもなくなってしまうね」


 王子と姫を助けたという、ある意味では名誉の負傷。

 ラトールが報いたいと言った恩も、そうなれば跡形もなく消えるのだ。息子と娘の命を救われたのに、ラトールはそれに感謝すらできない。

 それはジークフリートたちも一緒だ。ここであった何もかもは嘘になる。それがわかるからだろう。ジークフリートは拳を握り締めて――唇を噛みしめて、震えていた。

 スカーレットは苦笑すると、それでも想いを素直に告げた。


「構いませんよ。名誉を欲したわけじゃない……ただ意地を張っただけですから」

「……叶わないなあ、本当に。まったく、そんな君たちだから……」


 何かを続けるつもりだったのだろう。だがそれ以上ラトールに言葉はなく、代わりとでも言うように、ヒルベルトの肩をポンと叩いた。


「今回の件、処理は君に任せる。君のいいようにやってくれ」

「わかった。王家は関与しないシナリオを作っておく」

「頼んだよ」


 そうして姿勢を正すと、後ろに控えた子供たち二人に向かって言う。


「ジーク、ツェツィ。行こう。私たちはもう帰らなければね」

「お父様――いや! いや!!」


 その声に――取り乱したのは、ツェツィーリアだ。

 悲鳴のように拒絶し、ばっとしがみついていた父から離れる。そうして彼女は飛びつくように、スカーレットのベッドにしがみついた。


「私、ここに残る――スカーレット様と一緒にいる!!」


 そうして彼女は泣き叫ぶ――それがただのワガママだと、ツェツィーリアはきっと気づいていたに違いない。

 だがそれでも、彼女は悲鳴のように叫び続けた。


「だって、私のせいだもの――スカーレット様がケガをしたの。なのに私、まだなにもできてない!! 何も返せてないの!! なのに……それなのに――」


 その声が、それ以上後悔を叫ぶ前に。


「ツェツィーリア様」


 名を呼んで、スカーレットは手を伸ばした。痛みに全身が軋んだが。

 怯えるように、ツェツィーリアが震えた。伸ばした手を――ツェツィーリアは触らない。触れない。

 触れること、たったそれだけのことが、許されないことだとでも言うように。


 包帯だらけのスカーレットの手は、だからそのまま彼女の頬へと触れた。

 泣きはらした眼からこぼれる涙を拭っても、彼女の涙は止まらない。それを心苦しく思う。

 この涙は、スカーレットの流させた涙だ。

 己の弱さが彼女を泣かせた。


(ガラじゃねんだなあ、やっぱり……こういうのはさ)


 それでもやらなければならないというのだから、スカーレットは笑うしかなかった。

 触れた時と同じように、そっと手を離して、告げる。


「行ってください、ツェツィーリア様」

「…………っ!!」

「私では、あなたを守れない」


 拒絶ではない。想いを言葉にして伝えるのは難しい。どれだけ言葉を尽くしたとしても、足りないような気がするからだ。それが子供相手ならなおさら。

 それをわかるから、スカーレットは約束を口にした。


「ケガが治ったら、いつか王都に遊びに行きます。その時に、もし叶うなら……王都の案内を、お願いできますか?」

「え……?」

「小遣いもらって、街に出かけて。買い食いとか、小物買ったりとか……ね?」


 それはコムニアの日に話した、なんてことはない会話の一幕だ。

 だが、ツェツィーリアは覚えていた。ツェツィーリアは何度も、何度も大きく頷いた。

 そうしてようやく、ベッドにしがみついていた手をほどき、ラトールの元へと戻っていく。

 戻ってきた娘の頭をなでると、ラトールは微笑みと共に言ってきた。


「王都に来る時には、私にも声をかけてほしいな。友の娘としてではなく、君を君として歓迎するよ」


 それが別れの言葉となり、ラトールたちは去っていった。


「…………」


 ジークフリートは、結局何も言わなかった。

 ただ去り際に零した涙に気づいていたから、スカーレットも何も言わなかった。

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