第31話 竹乃姫の計画

(ゴコは寝たままだし、呪文カードは使用出来ない……でも、今はゴコも魔法も無しで何とかするしかない!)


 和香里は先程から全く目覚めないゴコを鞄に大切に仕舞うと、『ステルスローブ』と『魔法のホウキ』を出した。


「おい」


 そこで突然背後から声を掛けられた。驚いて背後を振り返ると、そこには頭に竹のフサを持つ侍が2人居た。


(や、やば……バレた?)


 和香里は心臓をバクバクさせながら侍達の次の一言を待った。


「お前、この辺で人間の女を見なかったか?」


「……えっ?女?」


「そうだ。先程まで乗り物の中に居たのだが、突然姿を消してしまってな……」


 どうやらこの侍2人組は、忍者姿の和香里の正体に気付いていないらしい。


「し、知らないでござる……」


「そうか……いいか、その女は『才語和香里』と言うアルカナバトラーだ。姫の計画の妨げになるから、発見したら直ぐに捕獲しろ。奴らも一応人間だから『竹乃王国』の住民として迎え入れるつもりだ。分かったか?」


「御意……」


 正体がバレなかった上に仲間だと思われたらしく、侍達の目的の一部を聞く事が出来た。


「では、拙者はこれにて……」


「そうだ本部に帰るなら、ついでにコレを持って行ってくれ」


 和香里は忍者っぽい動きで侍達から離れようとするが、まだ用がある侍は和香里を引き止めて謎の包みを手渡した。


「これは……?」


「朝に捕まえた『例の奴』が所持していた品らしい。ガラクタだとは思うが、一応持ち帰ってくれ」


「御意……」


 和香里はうやうやしく包みを手に取った。包みはカード程の大きさだが、そこそこの重さがあった。


(スマホかな……?)


「じゃあな、もし他に動いている人間が居たら速やかに報告するように」


「御意……」


 和香里は包みをしっかり掴むと、急いで侍達から離れた。装備のお陰であっという間に侍から離れられた。


(此処なら大丈夫かな……)


 和香里は生存者を探しに行く前に、とりあえず包みの中身を確認した。中身はシンプルなカバーの付いたスマホで、いびつなダルマのマスコットが付いていた。和香里はこのスマホに見覚えがあった。


(あっ!これ……覇綺のスマホじゃん!)


 このダルマのマスコットは昔、和香里と綺羅が作った物だ。柔道の大会に優勝出来るようにと、和香里と綺羅で慣れない手つきで小さなダルマのマスコットを編み、糸に括り付けてお守りとして覇綺に手渡したのだった。


(覇綺……このマスコット、まだ持ってたんだ……)


 侍の話からして、覇綺は既に侍達に捕まってしまったのだろう。皆んながチャットに集まっていた時には、既に覇綺は捕まっていたのだろう。


(……今はとにかく、無事な人が居ない顔探さないと!)


 和香里は覇綺の事が心配になったが、此処で立ち止まっている暇は無いと改めて気持ちを切り替え、覇綺のスマホを丁寧に鞄にしまった。


 ステルスローブを纏って魔法のホウキに乗って1人で空を飛び、他に生存者が居ないか探し始めた。


(まさかホウキで空飛ぶ練習がすぐに役に立つなんて……)


 和香里は心細い気持ちを抑えながら、通学路や公園の上を飛んだ。


 道をうろつく竹の侍も人間を探し回っており、時折風に吹かれて動く茂みに反応している。


(あの竹の侍、どう考えても魔物だよね……さっきの侍が言ってた『姫』が、この侍達を作って外に放ってるのかな……)


周囲に生存者の気配が無い事を確認した和香里は、次は学校の屋上に向かって飛んだ。屋上に到着した和香里はステルスローブの中にホウキを隠した。


「(あっ!?)」


「うわっ!?見つかった!?」


 何と屋上の塔屋の上に綺羅の姿が。


「(綺羅!私だよ!和香里だよ!)」


「(えっウソ!?身長とか声とか全然違うじゃん!)」


(あっ、道具の効果で正体がバレなくなってるんだった。って、周りから見た私ってどんな風に写ってんだろ……)


「(ホントに和香里……?じゃああたしの誕生日言える?)」


「(言えるよ!7月1日でしょ?兄の覇綺は2月1日!)」


「(正解!ホントに和香里なんだ!もしかして忍び装束身につけてる?)」


「(そうそう!これ着てるとあの侍に人間だってバレないんだよ。今、綺羅にも着せてあげるね!)」


「(ありがと!)」


 和香里は綺羅に忍び装束のカードを使用した。


「(カッコいい!まさかこの防具を装備出来る日が来るなんて……!)」


 綺羅も忍者姿になった。先程綺羅が言った通り、綺羅の身長や声が普段より違って見えた。


「(綺羅が無事で本当に良かった〜!!どうやって此処まで避難したの?)」


「(実は学校に移動中に突然周りの皆んながぐったりしてさ、あたしは急いで先生を呼んで来ようと学校に向かって走ってたら、目の前に『竹乃武士』が現れて……)」


「(竹乃武士ってのが周りをうろついてる侍だね?)」


「(そうそう。で、竹乃武士を避けて、何とか撒いてから学校に入ったんだけど……校内にも竹乃武士が沢山居たんだよ!でも、屋上に集合ってチャットで言ってたから、頑張って職員室行って屋上の鍵取って此処まで……)」


「(凄っ!カード無しでだよね!?私より逞しいじゃん!)」


「(あの時はとにかく必死だったよ……でも、屋上には翡翠さんも兄ちゃんも居なくて……しかも電波も繋がらなくなったから皆んなとチャットも出来ないし……)」


「(……綺羅、とりあえず喫茶店クラッシュに避難しよ!前に街全体に何かあった時、とりあえず喫茶店に集まろって話になったんだよ)」


「(分かった!)」


 今、覇綺が捕まった話はしない方がいいだろうと考えた和香里は、ステルスローブと魔法のホウキをもう一つ出して綺羅に手渡した。綺羅はローブを纏い、慣れた手つきで魔法のホウキに乗った。



「(では、出発!)」



 こうして和香里と綺羅は屋上から飛び立ち、喫茶店クラッシュに向けて移動を始めた。


「綺羅、さっき忍び装束のお陰で竹乃武士と少し喋ったんだよ」


 和香里は、途中で武士達から聞いた話を綺羅にも共有する為に、綺羅の隣にホウキを寄せながら会話を始めた。


「あの武士達、姫の計画か指示で動いてるって言ってたけど……誰か分かる?」


「やっぱり……竹乃武士が言ってる姫ってのは竹乃姫たけのひめの事だよ。2つ前のカードで竹乃シリーズって言う、竹取物語をモチーフにしたカードが出たんだよ」


「へぇ……」


「で、人の住む星に生まれた竹乃姫は、成長すると他星に竹乃系統が支配する王国を作ろうと考えるようになるんだよ。でね、その王国の住民を増やす為に、今住んでる星の住人をこうやって勝手に集めて、宇宙船に乗せて異星に旅立っちゃう……って、設定にあったよ」


「ヤバいやつじゃん!?」


 想像以上に恐ろしい計画に、和香里は思わず声を張り上げてしまった。


「うん……かなりヤバいやつ。多分、この地域の人を全員集めたら、全員連れて空に飛び立つと思う……そうなったら、家族や友達と一生会えなくなるかも……」

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