第30話 謎の侍

 そして次の日の朝……


 和香里は学校へと向かう為、ゴコと一緒にいつものバス停でバスを待っていた。


「……ん?」


 いつもの景色をぼーっと眺めていると、視界の端に見慣れない服装をした人を発見した。


(武士だ……)


 服装が完全に武士っぽい人が、この平和な片田舎をゆっくり歩いていた。頭に乗せている三度笠のような被り物が更に武士っぽさを醸し出している。


(……あれ?しかもあの人……おととい、遠くで私達を見てた人と顔がそっくり……?)


 和香里が武士っぽい人の顔をじっと眺めている間に、目当てのバスが到着した。和香里は不思議に思いながらバスに乗り込んだ。


 和香里が席に座った所でバスが動き出し、窓の外の景色も変わっていく。ゴコはいつもと同じように動き出したバスと並走している。


(……他人の空似だよね?)


 なんて考えていると、外にいるゴコが窓をコンコンとノックし、遠くにいる人影を指差した。


「……えっ?」


 何と、他の場所にも先程と同じ武士が数人歩いているのを発見した。


(この時期に武士が大量発生……しかもどれも同じ顔っぽい?これ、一応皆んなに報告した方がいい気がする……)


 和香里は急いでスマホのチャットアプリを開き、『アルカナバトラー』のグループに入った。


 因みに、此処には和香里、翡翠、覇綺、綺羅の4人が入っている。綺羅も魔物の存在が分かるので、綺羅からの魔物の報告や、逆に魔物の発生源を教えたりと、情報をやり取りする為に入れている。



和香里[外に侍みたいな人が数人いた。これ、大丈夫かな?]


 このメッセージと一緒に、複数の侍が写った写真を載せた。


綺羅[侍?この時期に何かお祭りとかあったっけ?]


鳴[この時期にお祭りやイベントは無い筈です。これ、かなり気になりますね]


 どうやら他の皆んなも謎の侍が気になっているようだ。


綺羅[外見てたら見つけた!和香里の写真に写ってた人とそっくり!]


 綺羅はバスから外を撮影した写真をチャットに貼り付けた。風景の中に、和香里が見つけた侍とそっくりの人が歩いてる。


綺羅[学校着いたら皆んなで集まろうよ!]


鳴[そうしましょう。屋上に集まるのはどうですか?鍵を開けて先に待ってます]


綺羅[分かった!]


和香里[私も到着したらすぐ屋上行くね]


 和香里はスマホを鞄に戻した。その時にゴコのアルカナカードがチラリと視界に映った。


 アルカナカードの中にゴコが居た。


「(あれっ!?ゴコ、どうしたの!?)」


 先程までバスと並走していた筈のゴコが和香里の手元にいる。和香里は小声でゴコに話しかけた。


『ぐぅ……ぐぅ……』


 ゴコは和香里の呼びかけに一切答えず、カードの中で眠り続けている。


(これ、絶対におかしいって……)


 不審に思った和香里はこっそり車内を見回した。そこでようやく車内の違和感に気付いた。


(あっ!?あの乗客の顔、侍にそっくり!?)


 何と、和香里の反対側の席に座るサラリーマンの男の顔が、先程外で見かけた侍と瓜二つだった。


(よく見ると他の乗客も……!?私、何で今まで気付かなかったの!?)


 なんて考えている間に、バスは何故か普段のルートから外れて山に続く道を走り始めた。


(これ、物凄くヤバいかも……!)


 身の危険を察知した和香里は、周りに悟られないようこっそりと鞄の中を覗いて瞬間移動のカードを手に取った。


(瞬間移動!)


 和香里はカードに強く念じるが、何故か呪文が発動しない。


(呪文も駄目なの!?えっと、他に使えるとしたら武器、防具、道具カード……)


 鞄の中にある呪文以外のカードを全て集めた。


(『ショックガン』で相手の動きを止めて外に……いや、1人1人を狙って止めてる間に別の侍に力づくで止められそう……)


 あれこれ考えた末に、1枚の防具カードを手に取った。『忍び装束』、これは魔物カードの上に乗せ、魔物カードと一緒に場に出す特殊な防具カードだ。


(効果は、魔物の正体を隠す……これを着れば私の正体も隠れるかも……)


 だが、相手の目の前で着たら流石に正体丸わかりなので、先に別のカードで自身の身体を隠す必要があるだろう。


 和香里は脱出の機会を逃さぬよう、カードを片手に持ちながら、必死になって窓から外を見つめて侍の姿を探した。


(……あっ!居た!)


 山道の中に、道を歩く1人の侍を発見した。


(『イリュージョンボックス』!)


 魔物と魔物の位置を入れ替える道具カード『イリュージョンボックス』を外の侍に使用した。すると、外にいる侍の周りにカラフルなパネルが4枚現れ、箱のように組み上がった。


 和香里にも同じように周囲にパネルが現れ、組み上がって和香里の姿を隠した。


(『忍び装束』!)


 姿が隠れた瞬間、自身に忍び装束を使った。和香里は一瞬で女子高生から忍者の姿に早変わりした。


 そしてパネルが開くと、周囲の景色はバスの車内から山の道路に変わっていた。パネルは紙テープや紙吹雪を派手に散らすと、紙の飾りごとポンと姿を消した。


「脱出成功!」


 侍と自分の位置を入れ替える事に成功した和香里は、遠くで停車しているバスに背を向けて全力で逃げ出した。


 とりあえずこの場から離れ、学校のある方角に向かって走る。


(この忍者服着てると身体が軽い……!鞄持ちながら走ってるのに全然辛くない!)


 怪しい侍と遭遇しないよう、道を外れて山の中を走り続け、やがて木々の生えていない見晴らしのいい場所に到着した。そこからは和香里達が普段通る通学路や学校の姿が一望出来た。


(なっ……!何あれ!?)


 いつも歩いている平和な筈の通学路が大変な事になっていた。


 学生達が歩道の上でぐったりしている。中には横になって寝てる者までいる。


「きびきび歩け!」


「列を乱すな!」


 そんな地べたで休む学生達に、頭に竹が付いている侍達が指示を出す。学生は侍の指示に大人しく従って歩き出し、道に停めている馬車のような乗り物に次々と乗り込んでいく。


(よく見ると学生の中に一般人も混じってる……)


「出発!」


 満員になった馬車を、竹製の馬が元気よく引っ張って何処かへと走り去っていった。


「やば……」


 突然現れた侍は、周りの人間を何処かへと連れ去っているらしい。想像以上の大事件に遭遇してしまい、和香里は思わず身震いしてしまった。


(ゴコが居ない状況で、どうやってこの大事件を解決すればいいの……?!)

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