第27話 練習再開

「やばいやばいやばいやばい!!」


『大ピンチだ!!』


 道路の向こう側から現れた物凄い数の『ゲンシリュウ』から逃げるゴコと和香里。


『ギャーッ!!』『ギャッギャッ!!』


 ゲンシリュウの群れはゴコ達をずっと追いかけ続けている。どうやら魔物の群れにロックオンされたようだ。


[待っててください!急いでそちらに向かいます!]


「お願い!何か分からないけど物凄い数が追いかけて来てる!このまま空飛んだら魔物の群れがバラバラになりそうだから、とりあえずゴコの体力が許す限り走り続けとくから!」


[その判断は正しいと思います!ですが、危なくなったら直ぐに逃げて下さい!とりあえず一旦電話を切ります!」


「分かった!」


 和香里は通話が切れたスマホを鞄に戻した。


「ゴコ、まだ大丈夫そう?」


『このペースなら1日中走っても平気だ!』


「良かった……いや、良くないけど」


 それにしても、あのゲンシリュウの群れは何処から現れたのだろう。自然発生したか、他の誰かが数頭だけ居たゲンシリュウを攻撃したのだろうか。


(いや、もしかしたらゲンシリュウの特性を理解している別のゲンシリュウが味方を攻撃し合った可能性も……)


 ともかく、今の和香里達には打つ手が無いのでひたすら逃げ続けるしか無い。単体なら『停止』カードを使用してその場に止めたが、群れ全体を止められるカードは持ち合わせていなかった。


(ゴコが物理で殴るタイプだからあまりそういうカード持って来てないっていうか……こんな事になるなら魔物の群れに効果のあるカードを探して持ち歩いとけば良かった!)



「初心者、何も打つ手が無くて困ってんのか?」



 和香里がカードを探しながら嘆いていると、上から誰かの声が聞こえてきた。どうやら相手は和香里に向かって話しかけているらしい。


「あっ!上咲!」


 真上を見るとそこには、翼が大きくなったラブとハートに掴まれながら空を飛ぶ上咲の姿があった。随分とメルヘンチックな光景だった。


「お前がトドメ刺さないってなら、オレが全部貰ってくぜ?」


「そういうのいいから倒せるなら全部倒して!!」


「うおっ!?何だよ急に……」


『何か大変そう!』『後が無いって感じ!』


 和香里の迫真の叫びに思わずたじろぐ上咲と、心配するラブとハート。


「お願い!今手元に良いカードが無くて魔物倒せなくて困ってたんだよ!」


「わ、分かった……!じゃあこの魔物はオレが全部倒すからな!後で文句言うなよ!」


「倒し切れなかったらそれこそ一生悔やみ続けると思うから絶対に全部倒して!」


「何なんだよ一体……ラブ、『全消去』で『ゲンシリュウ』を全部消し去れ!」


 上咲が何やらカードを使用すると、先程までゴコの後ろを走っていたゲンシリュウの群れが全て消え去った。


『おーっ!』


「凄い!全部消えた!」


 和香里は停止したゴコから降り、下から上咲を見上げた。


「『全消去』は、自分が持つ魔物カードと同じ魔物を場から全部退場させるカードだ。これくらい持っとけっての……」


 上咲はゆっくり降下し、呆れながら和香里に先程使用したカードの説明をした。


「そうだね……もしもの時の為に複数の魔物をどうにか出来るカードを持っておいた方がいいかもね……まさか攻撃出来ない魔物が群れで来るとは思わなかったからさ……上咲」


「何だ?」


「魔物全部倒してくれてありがと!助かったよ!」


 和香里は上咲に真っ直ぐ顔を向けて礼を述べた。


「……何でバカ正直にお礼言ってんだよ……」


「上咲。罵倒は別に構わないけど、お礼くらいは言わせてよ。今回、物凄く助かったんだからさ」


「怒るポイントそこじゃねーだろ……」


 和香里の何処か素直な言葉に上咲は呆れ返った。


「お前、それでも俺のライバルかよ!もっと頑張れよ!」


「次からは気をつけます……」


「素直過ぎだろ……いや、逆に反省しないのも良く無えけどよ……」


 上咲はすっかりペースを乱され、すっから意気消沈している。


「……コレやる」


 呆れた上咲は、和香里に1枚のカードを手渡した。


「えっ?これは……えっ!これ『全消去』のカードじゃん!くれるの!?」


「また似たような事が起こった時に使え。魔物を一体倒してカードにすればすぐ使えるからな」


「ありがとう!何かこっちからもカードを……あっ、その前に倒した事報告しとかないと」


 和香里はスマホを取り出し、アルカナバトラーのグループに「ゲンシリュウ倒しました」とメッセージを送った。


 鳴からは「良かったです!」と返信があったが、覇綺からは何の反応も来なかった。画像と魔物が発生した現場の名前を閲覧した跡はあったが、それ以降チャットを開いていないようだ。


「……一応、覇綺に電話入れた方がいいかな……」


 和香里はスマホから目を離して辺りを見回した。上咲はその様子を黙って見つめている。


「……覇綺って奴に何かあったのか?」


「あっ、大丈夫だと思うよ。ただ覇綺がメッセージに反応しないだけで……」


「……それ、急いで現場に移動してるからチャットに気付いてないだけじゃねえの?念の為に電話入れとけ」


「そうだね……」


 上咲に促され、和香里は覇綺に電話を入れた。


「もしもし!覇綺、今大丈夫?」


[和香里、大丈夫か?]


「うん、上……」


「(俺の事はいい!とにかく倒した事だけ伝えろ!)」


「何とかなったよ。それを伝えようとさっきチャットにメッセージを送ったんだけど、覇綺だけ反応が無かったからさ」


[そうか……現場に急いでたからメッセージに気付かなかった。すまない]


「急いでくれてありがと。じゃあ……」


「(とりあえず何か話しとけ!折角電話したんだから!)」


「(えーっ……覇綺はそういう無駄話は嫌うと思うよ。要件だけ伝えろって感じでさ)」


「(マジか……)」


[……そっちに誰か居るのか?]


 和香里が時折話を止めたせいか、覇綺が電話の向こうに和香里以外がいる事に気付いたようだ。


「うん、さっき魔物を倒してくれた人……」


「ギャーーーッ!?」


 和香里が上咲の事を伝えようとしたその時、突然上咲が叫んだ。


「上咲どうし……うわっ!?」


 和香里が上咲の方を向くと、そこには覇綺に羽交締めにされた上咲の姿があった。


「いつの間に来たの!?」


「既に此処まで来ていたんだ。降りようとしたら不良のような格好をした奴が居たから、通話をしつつ隙を見て取り押さえた」


「ちょっ!?その人が私を助けてくれた人だよ!やめてあげて!」


「いいんだ……こんな紛らわしい格好してる俺にも非はあっからよ……」


『ゲンちゃん諦めないで!』『僕らは無実だー!!』


 よく見るとラブとハートの2人もツルギに捕まっていた。


「上咲も少しは抵抗した方がいいよ!って言うか覇綺もらしくないよ!?そんな突然人に技掛けるなんて!」



 和香里は何とか覇綺を説得し、上咲を解放してもらった。



「和香里を助けてくれた恩人だったか……それは申し訳ない事をした」


「いや、別にいいんで……この格好したからにはそれなりに覚悟は出来てたんで……ホント申し訳ございませんでした」


 謝罪をする覇綺に素直に謝罪する上咲。


「あの……俺、そろそろ帰ります。失礼しました」


 そして上咲は和香里達に何度も頭を下げると、『瞬間移動』のカードを使用してこの場から早々に退散した。



「覇綺、わざわざ来てもらってごめんね」


 和香里は改めて覇綺と向き合って頭を下げた。


「いやあ、ゴコに『戦車』を使って道路を走る練習してたらゲンシリュウと遭遇してさ……ビックリしたよ」


『後ろからずっとドタドタ音がしてた!』


「そうか……大丈夫そうならそれでいい。和香里はこの後も練習を続けるのか?」


「うん、そのつもりだよ。戦車使ったゴコはあまりにも早過ぎるから、もっと練習しないと普段使い出来ないなって思って」


 和香里はそう言いながらゴコを見つめた。ゴコは笑顔のままで和香里をじっと見つめている。


「……その練習に、俺も参加してもいいか?」


「えっ?覇綺が?」


 まさか覇綺も参加するとは思わず、和香里は思わず覇綺の顔を凝視した。


「俺は前から『戦車』を使用したツルギに乗って移動してたから、少しは和香里にアドバイス出来ると思う」


「ホント!?じゃあ折角だし教えて貰おうかな」


『宜しく頼む!!』


「分かった。ではとりあえず邪魔にならない所で使用するカードの説明をしよう」


 覇綺は和香里達と一緒に広い場所に移動すると、和香里に丁寧に『戦車』の属性を持つアルカナの乗り方を教え始めた。


「まずは座席を安定させる為に『操縦席』の防具をアルカナに装着させる。これで安定して乗れるようになる」


「へぇ、こんなカードあるんだ」


「これは本来、場に出ている魔物の数値を別の魔物に上乗せさせて強化する道具……つまり魔物を防具として装備する為の道具という感じだ。俺は複数持ってるから、和香里に1枚あげよう」


「ありがとう!そうだ、何か別のカードと交換……」


「大丈夫だ。これで和香里の行動範囲が増えれば魔物の討伐もスムーズになる。貰ってくれ」


「ありがと!大事に使うね!」


 この後、和香里と覇綺は2人でアルカナに乗って山道を走ったり、川を下ってみたりと、とにかく走行の練習をしたのだった。

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