第26話 ゴコとドライブ

 真夜中。和香里は一度も使用した事が無い『戦車』のカードを試す為に、ゴコと一緒に家を抜け出した。


「この辺なら誰も通らないかな?ゴコ、この辺で止まって!」


『おう!』


 ゴコに背負われながら移動し、人気の無い田舎の道路に到着した。和香里は誰も通らない道路の前で『戦車』のカードを出した。


「いつも『飛翔』ばっか使って、『戦車』は1回も使用した事が無いからね。今日は『戦車』のカードを使って道を走る練習をするよ!」


『楽しそうだ!』


「じゃあ、早速カード使うよ!」


『おう!』


 和香里とゴコは深夜のテンションも相まってワクワクしている。和香里は『戦車』と書かれたカードをゴコのカードの上に乗せた。


『いよっしゃー!!』

 

 すると、ゴコの下半身が逞しい獣の身体に変化した。まるでライオン版ケンタウロスという感じだ。


『脚増えた!』


「ゴコ、すごくカッコいいよ!」


『脚に力がみなぎる!これならもっと速く走れる!ワカリ、ゴコの広い背中に乗れ!』


「よし!じゃあ早速……」


 ゴコは四つ足を曲げて地面に座り、背中に乗りやすくしてくれた。和香里はそんなゴコの大きな背にそっと乗った。


(側で見るより大きく見える……)


『いよいしょー!』


「おおっ!」


 和香里がしっかりと背中に乗ったのを確認したゴコはゆっくり起き上がった。和香里はゴコの上半身に腕を回してしっかり掴んだ。


「普段より高い!」


『ワカリ!とりあえずこの辺走り回りたい!』


「いいよ!安全運転で走っちゃって!」


 和香里はゴコが空を飛ぶ際に使っているゴーグルを装着し、ゴコに走るよう指示を出した。


『おう!!』


 和香里の許可を得たゴコは脚に力を込め、思い切り地面を蹴ってコンクリートの道路を走り始めた。


「うわーーーーーっ!?」


 想像以上に速かった。普段から空を飛ぶゴコに乗っていたから多少は慣れてると思っていたが、今回の走りは飛翔よりも遥かに速かった。和香里は想像以上のスピードに、思わず大声で叫んでしまった。


「ヤバいヤバいヤバい!速過ぎる!!」


『ひゃっほー!!』


 和香里は必死になってゴコの上半身にしがみつく。その間もゴコは、上機嫌で真夜中の道路を走り続けている。街灯が物凄い速さで通り過ぎていく。


「ゴコ!ストップ!」


『よっと!』


 ゴコは少し跳ねながら急停止した。


「も、物凄く速い……何かベルトとか巻かないと不安かも……」


『ベルト……』


「そうだ、そんな時こそ道具カードの出番だよね!」


 和香里は鞄を開き、スマホのライトで照らしながら使えそうなカードを探し始めた。


「えーと……あっ、あった!コレとかいい感じじゃない?」


 和香里は『防魔バンド』という、魔力を封印する道具カードを取り出し、試しにゴコのカードの上に乗せた。すると、ゴコの手の上に頑丈そうな包帯のような物が現れた。


「よし!これをゴコの身体に巻いて、そして私にも巻けば……よし!これでとりあえずは振り落とされる心配は無くなった!」


『大丈夫か?』


「うん!とりあえずコレで走ってみて!」


 和香里は再びゴコの胴体にしがみついた。


『出発進行!!』


 ゴコは再び走り出した。だが、今回はバンドのお陰で先程よりも安定性がある。まだ速さには慣れないが、多少は安心して乗れるようになった。


(これは私がゴコの速さに慣れる練習をしないと普段使い出来ないかも……)


 そんな事を考えながら、誰も居ない田舎の道路を走っていく。やがて周囲は林から茶畑の景色になり、その辺に謎のプロペラが付いた柱がポツポツと姿を見せるようになった。


「……ん?後ろから何か来てる……?」


 ふと、背後から気配を察知した和香里は、そっと後ろを振り返った。


「うわっ!?何あれ!?」


 背後から謎の獣が走って来る。鳥のような体、頑丈そうな皮膚、強そうな顎……


「恐竜!?」


 背後に居たのは明らかに恐竜みたいな生物だった。


(これどう考えても魔物じゃん!?)


 和香里は咄嗟に鞄からスマホを取り出して恐竜を撮影した。そしてチャットアプリの『アルカナバトラー』のグループに先程の画像を急いで貼り付けた。


「ゴコ!背後に魔物が……!」


 和香里が報告するより先に、恐竜がゴコの背中目掛けて飛んで来た。どうやらゴコが背中に背負っている和香里を獲物と捉え、その獲物を横取りしようと攻撃を仕掛けて来たようだ。


「うわーっ!?」


『とおっ!!』


 ゴコは急旋回して魔物と向かい合うと、魔物の足を掬い上げて相手を派手に転ばせた。転んだ魔物は、ゴコには敵わないと判断したようで急いで道を引き返して逃げ始めた。


「ゴコ!アレ追いかけて!」


『アレなら全力出せば一撃だ!』


「倒せるなら倒し……待って、鳴から電話掛かって来た。ゴコ、とりあえず攻撃せずにアレ追いかけといて!」


『おう!』


 鳴から電話が掛かって来たという事は、相手が相当特殊な魔物である可能性が高い。


 もしかしたら攻撃したら駄目なタイプかも知れないので、とりあえず一旦ゴコに魔物を追わせながら、和香里は鳴からの電話に出た。


「もしもし!さっき送った画像見た?」


[はい!あれは間違い無く『ゲンシリュウ』です!いいですか!その魔物は絶対に攻撃しないでください!その魔物は攻撃されたら仲間を呼んで数を増やします!]


「危なっ!鳴の電話がもう少し遅れてたら攻撃してる所だったよ!」


[良かった……その魔物を倒す方法は、とりあえず攻撃以外の手段で破壊する事です!]


「分かった!」


 和香里は慎重に鞄を開け、中から『死神のランタン』のカードを取り出してゴコに持たせた。これは相手の魔物のみに『即死』効果を与える凄い道具カードだ。だが、自分の体力より低い相手でないと使用出来ないのでそこは注意が必要だ。


「ゴコ!そのランタンでゲンシリュウにトドメを刺して!」


『おう!』


 ゴコは死神のランタンを目の前で走る魔物に使用した。魔物は音も立てずに倒れ、あっという間に姿を消した。


「よし!討伐完了!」


 無事に魔物を倒せた和香里は、ゴコから『ゲンシリュウ』の魔物カードを受け取りながら満足した様子でそう言い放った。


[おめでとうございます!]


「ありがとう!鳴のお陰でスムーズに倒せたよ!」


 和香里は鳴にお礼を言いながら魔物カードを鞄にしまった。


「もし鳴の電話に出てなかったら、今頃もの凄い事になってたかもね。道路を物凄い数の恐竜が走り回って……」


『キェーーー!!』


 和香里がもしも話をしようとした瞬間、道路の向こうから謎の動物の鳴き声が聞こえてきた。更にドタドタと何か大きな物が複数走る音がして、次第に地面の揺れも大きくなっていく。



「……マジ?」



 道路の向こうから現れたのは、物凄い数のゲンシリュウだった。

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