閑話 普段の闘志覇綺

 此処は和香里達が普段から登校している、秋乃山高校。


 その2年1組の教室にて。1人で静かに本を熟読する闘志覇綺の元に、1人の男子生徒が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「覇綺!カードゲーム部に入ったのかよ!?」


 2年2組の生徒である『熊尾二郎くまおじろう』が、そう叫びながら覇綺の机を強く叩いた。


「……用はそれだけか」


 覇綺はチラリと熊尾に目を向けたかと思うと、再び本に目を戻した。


「いやいやいや!?お前柔道部のキャプテンだろ!?何で柔道部辞めて娯楽中心みたいなカードゲーム部なんかに入ってんだよ!?大会はどうすんだよ!?」


「声が大きい、他の生徒の迷惑になるだろ……そもそも俺は柔道部は辞めていない。教師から部室に入るなと言われ、他にやる事が無くなったから暇潰しで入ったんだ」


「大会あるのに遊ぶキャプテンが居るかよ!?」


「時には休息も必要だ。最近は毎日鍛えるより、適度に練習した方が身につくとも言われているだろう。過度な練習は故障の原因に繋がる」


「そうかもしれねぇけどよぉ……ってか、今年のカードゲーム部にはほぼ女子しか居ないんだろ?暇つぶしとは言え、よくそんな所に入ろうと思ったよなぁ……俺だったら少しは躊躇するっての……」


「……さっきから話の内容が定まってないぞ。何が言いたい」


「お前は何気ない会話すらそうやって切り捨てるんだから……お前、相変わらず冷たい奴だな……」


「いや、アンタがうるさいだけだって」


 そんな2人の間に、覇綺のクラスメイトの『桃糸代仲ももいとよなか』が割って入る。


「そういう事だ。終わったなら自分のクラスに帰れ」


「闘志くんが本読んでる時に話し掛けるからそうなるのよ。熊尾、まともに会話したかったら出直して来たら?」


「桃糸、お前まで……桃糸は何も思わないのかよ!?今年の大会の為にも1日でも多く柔道に熱中しなくちゃいけねぇのに、コイツは柔道無い日はカードゲーム部で遊ぶって言ってんだぞ!?」


「さっきもキャプテンが言ってたでしょ、過度な練習するより息抜き入れた方がいいって。もし反論があるならキャプテン倒してみなさいよ」


「ぐっ……何も言えねぇ……だが、お前のその性格で他の部員と楽しくカードゲーム部の活動が出来るとは思えねえよ。柔道部でのお前はめちゃくちゃ厳しいしよぉ」


「お前が気にする事じゃないだろ」


「心配くらいさせろよ!?」


 覇綺は早く会話を済ませて読書を再開したいらしい。その様子に桃糸も思わず苦笑いをする。


「お前みたいな悪魔に入られて、カードゲーム部もいい迷惑だろ……覇綺、部員を泣かせるんじゃねえぞ」


「……」


 覇綺は忠告する熊尾を白い目で見つめた。桃糸も一緒になって熊尾を見つめている。


「……何だよその目は」


「いや、お前は……」


 と、覇綺が何か言いかけた所で教室の外に下級生が現れた。覇綺の妹の綺羅だった。


「すいませーん」


「綺羅、どうした」


 覇綺は直ぐに反応し、教室の外で待っている綺羅に近付いた。


「兄ちゃんの分のお箸がこっちにあったから持って来たよ!コレ無いとお弁当食べれないからね!じゃ、確かに届けたからね!」


「助かった、ありがとう」


 覇綺は綺羅に笑顔でお礼を言うと、箸を持って自分の席に戻った。そして未だに居る熊尾を見つめてため息を吐いた。


「……まだ居たのか」


「お前、今笑った……?」


 熊尾は先程覇綺が見せた笑顔に驚いていた。


「お前のあんな顔見た事ねーよ!確かお前の妹は俺と似て活発な奴……」


「ふざけるな。お前みたいな奴と妹を一緒にするな」


「くそっ!何で俺には当たりが強いんだよ!一体何処で間違えたんだ……」


 熊尾は覇綺の机に両腕を振り下ろして音を立て、静かに悔しがった。

 

「それが気付けてないからこんな扱いなんでしょ。それに、闘志くんは礼儀には礼儀で答える人よ。カードゲーム部に変な人でも居ない限りは普通に接するわよ」


「そういう事だ。とりあえず一旦自分のクラスに帰ったらどうだ」


「そうだ熊尾、今度の休みに私と……」


「くそーっ!たまには柔道部に顔出せよーっ!!」


 熊尾は桃糸の言葉を遮って覇綺に一言残すと、周りの机にぶつかりながら全力で教室から出ていった。


「……柔道部には行けないと、何度も言った筈だが……」


「もう……本当にガサツなんだから……」


 桃糸は少し寂しそうな顔をしながら、熊尾を最後まで見送ったのだった。

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