第25話 上咲との勝負後……
前回のあらすじ・目の前でリスタルが大爆発した。
爆発寸前のリスタルが出来るだけ走って人から離れたのと、此処が結界内だったお陰で現実にも人にも一切被害は出なかった。だが、もう少しで和香里達を攻撃に巻き込んでしまう所だったと、皆んなの前で猛省していた。
「先程は申し訳ございませんでした……」
鳴は和香里とゴコ、そして上咲に深々と頭を下げた。
「お前……あの喫茶店クラッシュの店主の親戚だったのかよ……」
上咲はバツが悪そうにそう呟きながら歩いて鳴の前まで移動した。
「……あの時は申し訳ございませんでした」
何と上咲は真面目な態度で鳴に頭を下げて謝罪した。和香里に負けたのも原因かもしれないが、やけに素直だ。
「上咲さん……何で蘭お兄さんのお店を爆破したんですか?」
『何でそんな事したんだ!!』
『破壊するなんて酷すぎます!』
「いや、爆発はオレじゃねぇ。だが、オレが原因で店がめちゃくちゃになったのは間違いねぇ」
「……どういう事?」
「……オレは負けたんだ。あの時何があったのか全部話してやる」
上咲は和香里の疑問に素直に返事をして、昨日『喫茶店クラッシュ』で何があったのか説明を始めた。
「あの時俺は、とにかくアルカナバトルの相手を探してたんだ。そんな時、仲間から『喫茶店クラッシュの店主の石英って奴もアルカナ所持してる』って情報を聞き、俺は歩いて喫茶店クラッシュに足を運び、そして店主に勝負を挑んだんだ……」
上咲は喫茶店に来た時の事を事細かに思い返した。
「オレの名前は
「それはカードゲームの方かな?」
「とぼけんなよ、お前も分かってんだろ……?お前のアルカナとオレのアルカナとの一騎打ちだ、負けた方は大切なカードを1枚、差し出してもらうぜ」
「どうやら断るという選択肢は無いみたいだね……分かった、やるよ。フラさん」
『ランちゃん、私はいつでも行けるわ!』
石英はエプロンを外し、腰につけていたカードホルダーを開けて中からカードを取り出した。そしてカードを構え、フラさんと一緒に不良生徒を見つめた。
「やる気になったようだな……」
不良生徒はアルカナカードを掲げた。すると、カードの中から2体のアルカナが飛び出した。
「では、勝負だ!!……の前に、とりあえず此処だと戦いづらいから、近所にある公園に……」
と、上咲が場所を移動しようと店を出ようと振り返った。
「フラさん!相手のアルカナに『ビリショック』!」
「えっ?」
何と石英は早とちりし、この場で呪文カードを使用してアルカナに攻撃指示を出してしまった。
『行くわよ!って、ランちゃんこれ別のカード!!』
だが石英がフラのカードに重ねたのは『マジカルボンバー』という、周囲の物を何もかもを破壊する攻撃魔法だった。
「まずい!フラさん魔法を中止……」
『無理!もう止められない!!』
フラは石英の指示に逆らえずその場で大爆発を起こし、喫茶店クラッシュを文字通り破壊してしまった。
「やべぇ!『迷い道』!」
上咲は急いで手元から『迷い道』のカードを取り出してその場で使用した。
これは魔力をあまり持たない魔物を場に出せなくなる呪文カードだ。この魔法がある以上、一般人は喫茶店クラッシュに一生辿り着けないだろう。
「おい何やってんだ!?此処、あんたの店だろ!?」
『大変だよ!』『非常事態だよ!』
上咲は大慌てで『回復』のカードを2枚構えながらアルカナと一緒に石英に駆け寄った。
「ラブ、ハート!石英さんに回復魔法!」
『『オッケー!!』
上咲は石英を安全な場所まで避難させ、アルカナのラブとハートは石英に回復魔法を1回ずつ掛けた。
「どうやら勝負は僕の負けみたいだね……これ、僕が今持ってる中で1番大切なカード……君にあげる……」
横になっている石英は顔に付いた血を腕で拭いながら、1枚のレアカードを上咲に渡そうとしている。
「いやいやいやいや!いらないっす!今回は引き分けで大丈夫なんで!そもそも戦ってすらいないんで!」
『絶対安静だよ!』『そこで横になってて!』
『貴方達、以外といい子なのね……』
無傷のフラは石英に寄り添いながら上咲をなんとも言えない目で見つめている。
「あの、ケンカ吹っ掛けて店壊す原因作ったオレが魔法でこの店全部直すんで、石英さんはカードで自分の怪我直しといて下さい!ハート、ラブ、『修復』でこの建物を直すぞ!」
『『オッケー!!』』
「……こうして俺は何とかして喫茶店を直し、念の為に石英さんの怪我を治療してその場から離れたんだ……」
「えっ……大爆発の原因は蘭お兄さんだったんですか……?」
『確かに石英さん達の話には不可解な点が幾つかありましたね……石英さんは負けたにも関わらずカードを取られませんでしたし、相手が爆発させたとは一言も言ってませんでしたし……』
「……もっ、申し訳ございません!そうとは知らずに魔法を撃とうとしてしまって……!」
「いやいいって。俺が喧嘩しようとしなければこんな事にはならなかったんだからよ……」
深々と頭を下げて謝罪する鳴と、昨日の事件を思い出して目に見えて落ち込む上咲。
「それにしても、上咲は周りに迷惑を掛けるような真似はしないんだね。じゃあ、あの時私が勝負を断った時にバスの乗員を見たのはなんだったの?初めから一般人を襲うつもりは無かったって事?」
『ハッタリか?』
「そうだよ!ああでもすればお前が勝負に乗ってくれると思ったんだよ!ハナから一般人を襲うつもりは無え!」
どうやら上咲は周りに迷惑をかけるつもりは1ミリも無かったらしい。
「そっか……でも、次からはそういうのはやめてね。負けたらカード1枚渡すってルールも駄目だよ」
「くっ、分かったよ……お前、名前は何て言うんだ」
「私の名前は才語和香里だよ」
「才語和香里か……素人なのに、俺を倒しちまうなんてよぉ……決めた!才語は今日からオレのライバルだ!今日は見逃すが、次出会ったらタダじゃおかねぇからな!」
上咲は和香里に向かって捨て台詞を吐くと、駐車場から全速力で走り去った。
「何だったんだろう……そうだ。鳴、リスタル、助けに来てくれてありがとう」
「いえ、和香里さんが無事で良かったです……!和香里さん、家まで帰れますか?リスタルの絨毯で送りますか?」
「大丈夫だよ。此処まで来ればもう家は近くだから……2人とも、今日は本当にありがとう」
「はい!和香里さんゴコさん、さようなら、また明日!」
『おやすみなさい!』
「さよなら!また明日!」
『バイバーイ!』
鳴は『飛翔』のカードで魔法の絨毯を出したリスタルに乗り、空を飛んでこの場から飛び去った。
「さて、私達も帰ろうか」
『ゴコが頑張ったワカリをおんぶしてやる!』
「ありがとう。ゴコも頑張ってくれてありがと」
和香里がゴコの背中に乗ろうとしたその時。
「和香里!!」
道路から「仮面に和装の巨大な黒犬」に乗った闘志が現れた。
「和香里!大丈夫か!?」
慌てた様子の闘志覇綺は急いで巨大な犬から降り、和香里の元に駆け寄った。
「あっ、覇綺!うん、私は大丈夫だよ!先にチャットに終わったって連絡入れれば良かったね」
「……いや、和香里が無事で本当に良かった」
「いやーゴメンね、電話の時に喧嘩に巻き込まれた事を話せれば良かったんだけど……」
「和香里は昔から俺に遠慮なく助けを求められる性格なのは知っている。にも関わらず言い淀んだのは、その場で助けを求めたら不味い事でもあるんだろうと思ったんだ」
「懐かしいね〜、確かに私は昔から何かあったら真っ先に覇綺にチクってたからね!でもまさか少し言い淀んだだけで状況を理解した上に、鳴にも連絡取って私を助けに来てくれたんだ。やっぱ覇綺には敵わないなぁ〜」
「昔からの付き合いだからな」
「……覇綺、助けに来てくれてありがと!」
和香里は満面の笑顔で覇綺にお礼を言った。
「和香里の無事が確認出来て良かった。和香里、家まで帰れるか?」
「ゴコも一緒だから大丈夫!ね、ゴコ!」
『ゴコがいれば百人力だ!ハキは安心して家に戻れ!』
「ゴコは頼もしいな……分かった、此処はゴコに任せて俺は帰るとするか」
「覇綺、本当にありがとね!バイバイ、また明日ね!」
「ああ、おやすみ」
覇綺は和香里の無事を確認すると、ツルギと思われる巨大な犬に華麗に乗り、そのまま来た道を引き返して家に帰っていった。
「……」
そんな覇綺と和香里のやり取りの一部始終を遠くから眺めていた人が1人。
「(マジかよおい……!)」
先程帰った筈の上咲だった。上咲は駐車場に置かれていた大型車の影からずっと2人の様子を見ていたのだった。
「(2人は昔からの幼馴染……才語の性格をよく理解し、まるで妹のように接する覇綺とか言う兄属性の男と、どんな弱味も打ち明けられる天真爛漫な無自覚系年下幼馴染の才語……!まさかリアルでこんな綺麗なモンが見られるなんてよぉ……!)」
『わー!何か凄ーい!』『キャー!何か素敵ー!』
上咲は何故か目を輝かせながら先程目の前で起こった2人のやり取りを思い返し、傷ついてカードの中で休んでいるハートとラブもキャッキャと楽しそうにしていた。
「(……はっ!こんな覗き魔みてぇな行為も、勝手に相手を結びつけるような妄想も、あんまし褒められた事じゃねぇのは分かってんのに……いざでくわしたらついつい見ちまう…………はぁ、とりあえず今日の所は真っ直ぐ帰るとするか……)」
上咲は『瞬間移動』のカードを使用し、素早くこの現場から立ち去ったのだった。
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