第23 不良学生

 不良学生の上咲にアルカナバトルを申し込まれた和香里は、ゴコに次のバス停で降りると合図を出してからそっとバスを降りた。


 そして近くにあった広い駐車場に移動すると、上咲は周囲に『結界』を張った。


 そして2人はそれなりの距離を取ってからお互いに向き合った。


「大丈夫かな……」


 すごく不安そうな顔をしながらバトル用のカードを左手に構えた。


(……いや、此処で相手を逃したら他の人が被害に遭うかもしれない。此処で上咲を止めないと!)


「ゴコ、行くよ!」


『おう!!』


 和香里は改めて気を引き締めると、真面目な顔で上咲と向かい合った。上咲はそんな和香里とゴコを見て鼻で笑った。


「お前みてぇなザコ、一瞬で視界から消し去ってやるよ」


(ザコ……と言われても私は否定出来ない……実際にアルカナカード初心者だし……)


「お手柔らかにお願いしまーす」


『全身全霊でファイトだ!!』


「おっと、始める前に一通りルールを決めねぇとな。とりあえず……試合で持てるカードは合計10枚、属性の追加は禁止、とりあえずはこんなもんか。ルールに不満は無いな?」


「ありません」


(確か属性は『力』や『戦車』のようなアルカナの属性の事……だった筈)


「よし、じゃあ俺も此処でアルカナを出すとするか……出て来い!」


 上咲は1枚のアルカナカードを顔の前で構えた。



『『はーい!』』



 するとカードから、小さくて可愛らしい男女の天使が姿を現した。


『ワタシはラブ!」『ボクはハート!』


『『2人合わせてラブ・ハートだよ!』』


「(すごく可愛い……)」


 不良学生の上咲が出したアルカナが想像以上に可愛らしくて、和香里は思わず小声でそう呟いてしまった。


(確か2人いるアルカナは『恋人』……だよね?鳴がゲームで使ってた恋人のアルカナは2回行動とかしてたような……)


「さてと、此処で使用するカードを決めるとするか」


「確か使用出来るカードは10枚だけだったね……」


 上咲は相手の能力や使用しそうなカードを予想してカードを選んだ。和香里は今持っている知識を必死に絞り出してカードを選んだ。


「よし、準備出来たよ!」


「では……試合開始!!」



 上咲の合図と共に、和香里にとって負けられないアルカナバトルが始まった。



「まずはラブに『天使の弓矢』と『浄化ベール』、ハートに『運命の赤い鎖』と『光のローブ』を装備させる!」


 1番に動いたのは上咲だった。上咲は素早く装備カードをアルカナに2人分乗せた。



『ふぎゃっ!?』



 すると、ゴコの右腕に透明感のある真っ赤な鎖がきつく絡み付いた。鎖は相手のアルカナ『ハート』の腕から伸びている。


(よくわかんないけどあの鎖、何かヤバそう!)


 和香里は急いでゴコに『粉砕棍棒』と『護身の盾』を追加した。ゴコの左腕に護身の盾は追加されたが、武器だけは何故か出て来なかった。


「あれ!?武器だけ出て来ないんだけど!?」


「……」


 焦る和香里を黙って見つめる上咲。


(粉砕棍棒が使えないと相手の武器破壊出来ないじゃん!)


「……いや、まだ他に手はある!」


 和香里は対魔導兵器用ライフルをゴコに装備させた。


「ゴコ!それで相手の鎖を撃ち抜いて!」


『狙い撃ちだ!』


 ゴコは手に持ったライフルでハートの鎖を狙い撃った。


『そうはさせないよ!』


 だが、浄化のベールを装備したラブがライフルの弾目掛けて真っ直ぐ飛んできた。するとライフルの弾はラブにぶつかる寸前で消えてしまった。


「攻撃が消えた!?何で!?」


「……運命の赤い鎖は相手にも勝手に武器を装備させた上に、鎖で繋がったお互い以外に攻撃出来ない武器カード、そして浄化ベールは道具と特殊魔法の効果を受けない防具カードだろうが……」


「そうなの!?」


「因みに、俺のアルカナは自分以外を庇う事が出来る」


「そんな事出来るの!?」


「他の魔物にもあったりするだろ!?流石に知らなさ過ぎ……いやまさかお前、ガチの初心者か?」


「はい、アルカナカードは最近始めたばかりで……」


「マジかよ……!初心者なんかに勝っても何も嬉しくねぇよ……」


 上咲は和香里の初心者情報を聞いて目に見えて落ち込んだ。


「あーくそっ!これじゃまるで初心者狩りじゃねーか!無しだ!お前に勝ってもカードは取らねぇ!!」


 何と「敗者は勝者に大切なカードを1枚譲る」ルールが無くなった。初心者であまりカードが無い和香里にとっては非常にありがたかった。


「ラブ!相手のアルカナに攻撃しろ!」


『オッケー!』


 上咲に指示されたラブは武器を構え、上機嫌でゴコに矢を飛ばし始めた。


「ゴコ!避けて!」


『おう!』


『逃がさないよ!』


 ゴコは急いで矢から逃れようと走り出したが、鎖に繋がっているハートがそれを許さなかった。ハートは鎖を引っ張ってゴコの動きを制限しようとしてきた。


『ぐぬぬぬぬーっ!!』


『うわわっ!?』


 力はゴコの方が上だったようで、逆にハートが引っ張られているように見える。それでも、ゴコは非常に動きづらい様子だ。


『むんっ!』


 結局少しバランスを崩してしまったゴコは咄嗟に体制を整え、護身の盾で何とか矢を受け止めた。だが、一部はゴコに刺さってしまった。


『鎖があるから逃げづらい!』


「どうしよう……」


(武器が装備出来ない上に、今ゴコが攻撃出来る相手はハートだけ。でもハートが装備している光のローブの効果で攻撃が通用しない……道具カードで破壊しようとしても『浄化ローブ』を装備したラブが庇って消しちゃうし……)


 和香里はゴコと空を飛ぶ相手のアルカナを見つめる。


(唯一装備出来た『護身の盾』のお陰で攻撃の特殊効果は受けないけど、ハートの妨害もあってじわじわ攻撃受けるし……このままじゃゴコがやられちゃう!どうしたらいいんだろう……)


 和香里は目の前のカードを見つめながら必死に考えた。そして、相手の装備の効果を再確認する為に上咲の言葉を頭の中で思い返した。


(……ん?確か上咲はさっき……)

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