第22話 不良アルカナバトラー

「蘭お兄さん!」


 覇綺が仲間になった次の日の朝、鳴は学校に向かう前に早朝から喫茶店クラッシュに駆け込んだ。鳴のスマホに『石英が怪我をした』という報告が入ったからだ。


「鳴、いらっしゃい」


「虎目おじさんから蘭お兄さんが怪我したと連絡があって……!その傷どうしたんですか!?」


『石英さんボロボロじゃないですか!?しかもほんのり薬の匂いがします!』


 石英は身体中にテープが貼られており、明らかに重症者だった。


「実は昨日、鳴達が帰った数分後に見知らぬアルカナバトラーが現れてね……」


『そのアルカナバトラーにアルカナバトルを挑まれたから、ランちゃん張り切っちゃって……今は『修復』で全部直したけど、お店も爆発して大変で……』


「爆発!?」


『危険な人じゃないですか!?』


「それで勝負して、蘭お兄さんは負けたんですか……?」


「そんな所かな……」


 石英はそう言いながら少し肩を落とした。


『勝負した相手は何も持っていかなかったけど……あの子は多分、他所でもアルカナバトラーを見かけたらすかさず勝負を挑んでるみたいなの。確か彼はウエザキって名乗ってたかしら……ナルちゃん達も気をつけてね』


「分かりました……」


『ナル……とりあえず学校行こ?』


「はい……蘭お兄さんが無事で良かったです……」


「心配してくれてありがとう。学校、行ってらっしゃい」


 鳴は親戚の無事を確認し、改めて学校に登校した。



 そして普通に全ての授業が終わり、放課後……




「失礼しまーす!」


 和香里は綺羅と一緒に、いつものようにカードゲーム部の部室に入った。


「綺羅か」


 だがそこには鳴部長の他に、新しい部員である闘志覇綺もそこに居た。


「兄ちゃん!?何で此処に!?」


「ああ、俺も今日から柔道部と兼任してこの部活に入る事にしたんだ。宜しく頼む」


「ええーっ!?兄ちゃんもカードゲーム部に入ったの!?やったー!!」


 綺羅は兄の入部に飛び跳ねて喜んだ。


「綺羅的には兄の入部は嬉しい感じ?」


「嬉しいに決まってんじゃん!だって、兄ちゃんもアルカナカードする為に来たんでしょ?そしたらもっと兄ちゃんとカードバトル出来るじゃん!ねえねえ兄ちゃん、早速あたしとバトルしてよ!」


「いいぞ」


「やったー!」


 綺羅は嬉しそうに鞄を漁ってカードを取り出した。微笑ましい光景を笑顔で見守る和香里。鳴も笑顔なのだが、何処か元気が無かった。


「(……鳴、何かあった?)」


「えっ……?」


 和香里は鳴の僅かな違いに気付いたのか、鳴にそっと声を掛けた。


「(あの……実は……)」


 鳴は一瞬だが和香里にだけ、昨日石英に起こった事件を話そうとしたが、今の楽しそうな空気を崩したくない気持ちが勝り、すんでの所で口をつぐんだ。


「(……いえ、お昼を食べ過ぎたのか少しお腹が痛いだけです……)」


「(そっか……あまり無理し過ぎないでね)」


「(ありがとうございます……)」


 和香里に気を遣われ、鳴は少し心が痛みながらも礼を述べた。


(蘭お兄さんのお店を吹き飛ばすような危険なアルカナバトラーの話を和香里さんにしたら、優しい和香里さんならきっと1人でも犯人を探しに行ってしまう……和香里さんにそんな事をさせる訳にはいかない!蘭お兄さんの仇は私1人で取る!)


「兄ちゃん!バトル開始だよ!」


「掛かってこい」


 この後、はしゃぐ綺羅を中心に皆んなでアルカナカードで盛り上がったのだった。




 そして楽しい部活動も終わり、皆んなと別れた和香里は1人でバスに揺られながら、部活中の鳴の事を考えていた。


(鳴が落ち込んでる理由、どう考えても食べ過ぎじゃない気がする……何かあったのかな……)


 和香里が1人で心配する中、ゴコはいつものように安全な距離間でバスと並走していた。


 そんな和香里が乗っているバスに1人の男子学生が乗り込んで来た。学生は和香里の元に真っ直ぐ歩いて来る。彼は見るからに不良で、腰にはカードホルダーを付けていた。


「おいお前」


「……ん?えっ、私?」


 まさか声を掛けられるとは思わなかった和香里は、驚いて男子学生の方に振り返った。


「……外で走ってる奴はお前のアルカナだな?」


「えっ?」


 まさかアルカナが分かる人と出会うとは思わず、思わず妙な声が出た。


「その反応からして、どうやら当たりのようだな。オレの名前は上咲幻奴うえざきげんど、オレもアルカナバトラーだ」


「えっ!?アルカナバトラー……ってマジ!?」


 まさかこんな所でアルカナバトラーに遭遇するとは思わなかった和香里は更に驚いた。だが、上咲は気にせず話を続ける。


「お前、オレとアルカナバトルしろ。負けた奴は大切なカードを1枚勝者に差し出すルールでな」


「アルカナバトル……えっ、負けたらカード取られるの!?嫌だよ!」


 和香里は周りの少ない乗客に考慮して出来るだけ小声でバトルを拒否した。


「勝負する気無し……か。別にいいぜ、お前以外にも相手はいるからな」


 そう言うと上咲は和香里から目を逸らし、周りの乗客を舐め回すように見つめた。


「ちょっ!?まさか一般人にアルカナバトルを挑む気!?」


「さあどうだろうな」


 焦る和香里とは対照的に、何を考えてるのか一切分からない上咲。


「ちょっと!流石に一般人は……!」


 和香里が上咲を説得しようとしたその時、マナーモードにしていた和香里のスマホが鞄の中で急に揺れ出した。鞄を開けてスマホを見ると、電話相手は闘志覇綺のようだ。


「もしもし!闘志さん、どうしたんですか?」


[外では前のように敬語抜きで話しても構わない。それよりも和香里、今日部室にシャーペン忘れなかったか?]


「えっ、マジ!?……あっ!ホントだ、ケースの中にピンクのシャーペン無いかも!カード出す時に落としちゃったのかな……」


[やっぱりか。綺羅に持たせたから明日受け取れる筈だが、もし綺羅が忘れてたらシャーペンの事を伝えてくれ]


「うんありがと!あっそうだ、覇気……」


[ん?何だ?]


 和香里は上咲の事を報告しようとしたが、もし本人が居る場で報告をしたら後で何があるか分からない。下手したら報告された腹いせに周りの乗客に攻撃を始めるかもしれない。


「いや、何でもない!また明日ね〜!」


[ああ、また明日]


 結局和香里は何も言わずに電話を切った。だが上咲は、何故か和香里の顔を神妙な様子で見つめていた。


「男の声……今の電話の相手は誰だ?」


「えっ、幼馴染の闘志さんだけど……」


「幼馴染……」


 上咲は和香里から顔を逸らし、何やら考え事をしている。そして再び視線を和香里に戻し、更に質問をしてきた。


「……そいつとはどんな関係だ?」


「えっ?いや、幼馴染で仲が良いってだけだけど……」


「そうか……」


 上咲は再び和香里から視線を逸らすと、何やら独り言を呟き始めた。


「(幼馴染で何も無い訳が……いや、あの様子からしてコイツ、まさか無自覚……いや、本当に今はお互いに気が無いだけで……いやでも、相手が片思いの線は捨てきれない……)」


 上咲は何やら不思議な事をぶつぶつと呟いている。


「……いや、今はそんな事考えてる場合じゃねぇか……で、アルカナバトルはするのか?」


「……やるよ、アルカナバトル。もし私が勝ったら2度と人を襲うな真似はしないで」


「決まりだな。じゃあとっととバスを降りて、早速バトルを始めるとするか……」


 上咲は和香里を見つめ、邪悪な笑みを浮かべた。

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