第21話 喫茶店クラッシュに謎の影

 喫茶店クラッシュに来て数十分後……


「凄いな……」


 闘志とツルギの前には、これまた豪華な食事が多数並んでいた。闘志は目の前の料理に圧倒され、ツルギは無言で目の前のハンバーガーを見つめていた。


「この料理は全部私の奢りです!是非食べて下さい!」


「あ、ありがとう……」


『感謝する』


「まさか私まで奢ってもらえるとは……鳴、本当にありがとうございます……」


『うまそうだ!ナル、ありがと!』


「でも、お金は足りるの?大丈夫?」


「この料理代は全て、先程和香里さんと山分けして売却したビッグラットのお金で支払えるので大丈夫です」


「成る程〜!それじゃあ遠慮なく……いただきます!」


『いっただっきまーす!!』


 和香里とゴコは元気よく両手を合わせ、美味しそうな料理に手を伸ばした。


「頂きます」


『頂きます』


 闘志も丁寧に手を合わせて食事を始めた。ツルギも闘志と同じように両手を合わせると、食事をする為にそっと仮面を外した。和香里は興味本位からツルギの顔をチラッと見た。


「……えっ!?ツルギの顔、闘志さんとそっくり!?」


「本当だ……!まるで双子ですね!」


『カッコいいです!』


 皆んな食事から目を離してツルギの顔を見て驚いていた。ツルギは何食わぬ顔でハンバーガーを掴んで食べ続けている。


「こういう時はどう言葉を返したらいいんだ……」


 闘志は居た堪れない様子で和香里達の顔を見回している。


「あっ、ごめんなさい。あまりにもそっくりだったので……」


『お揃いなんて羨ましいです!』


(アルカナから見たらお揃いの顔ってそんなに羨ましいものなのかな?)


「俺はそれよりも気になる事があるのだが……綺羅は最近部活動を休んでいるのか?先程翡翠は、綺羅はよく用事で部活動を休んでると言っていたが……」


「あれ?闘志さんは綺羅の用事の事知らないんですか?」


「今日まで知らなかった。いつも部活動を理由に遅い時間に帰って来ていたんだ」


「マジ?じゃあ綺羅はいつも何してるんだろ……」


「……もしかすると、私達と同じアルカナを持ったアルカナバトラーなのではないでしょうか」


「どうだろうな……もし綺羅がアルカナバトラーなら、カードを使って毎日部活動に参加すると思うが……」


「あっ、そうですよね……綺羅さん、かなり部活動を楽しんでましたし……」


 結局、綺羅は何の用事で部活動を休んでいるのかは分からなかった。


「そう言えば闘志さんと和香里さんって知り合いなんですか?」


「幼馴染だよ。昔は綺羅と一緒によく遊んで貰ったんだよ」


「懐かしいな」


「そうなんですか!先程から仲が良さそうだなと思ってたんですよ。昔はどんな遊びをしてたんですか?」


「確か3人で遊ぶ時はとにかく外で遊んでたなぁ〜綺羅と覇……闘志さんはどっちも走り回るタイプだったからさ」


『やんちゃな子どもだったんですね!』


 この後も色んな話で盛り上がった。最後にアルカナカードをいくつか購入し、今日は解散となった。


「翡翠部長、今日はご馳走になった。本当にありがとう」


「いえ、逆にお礼を言うのはこっちです。今日は危ないとこを助けてくださり、本当にありがとうございます」


「これからは同じアルカナバトラーとして、改めて宜しく頼む」


「はい、宜しくお願いします」


「闘志さん、宜しくお願いします」


 皆んなは改めてお互いに頭を下げて、今日のカードゲーム部は解散となった。



 解散後、和香里と覇綺は公園近くのバス停に移動し、帰りのバスを待っていた。ゴコは広い歩道をぶらぶらと歩き回り、ツルギは覇綺の隣で身動きもまばたきもせずに停止している。


「和香里、大丈夫か?」


「……えっ?」


 ボーッとしていた和香里に、闘志は唐突に話し掛けた。


「翡翠から石英さんと魔物の話を聞いてから、和香里の様子が少しおかしかったように見えたから少し心配だった」


「あっ……バレてたんですね」


 まさかバレるとは思わなかった和香里は、少し照れながら闘志の方を見た。


「……今は周りに誰も居ないから、敬語で話さなくても大丈夫だ」


「……私さ、鳴から石英さんと魔物の話を聞いて、私達って想像以上に重要な事をしてたんだなって思ったんだよ。まさか魔物が倒せないとそんな事になるなんて思わなくてさ」


「……」


「でも大丈夫。これからも頑張って魔物倒そうって、改めて気を引き締めるキッカケにもなったし、もう落ち込んでないよ」


「そうか……あまり気負いすぎるなよ」


「うん!覇綺、ありがと!」


 和香里が覇綺にお礼を言った所で、和香里が乗るバスがバス停に到着した。


「あっ私のバス来た!ゴコ行くよ!」


『おう!』


「覇綺、じゃあね!」


「ああ、また明日」


 和香里は覇綺に別れの挨拶をしてからバスに乗った。バスが動き出した後、和香里は何気無く覇綺のいるバス停の方を見た。


「あれ?居ない……」


 バス停には既に覇綺の姿は居なかった。


(もしかしてアルカナ使って帰ったのかな……)


 恐らく覇綺は、こんな遅い時間に1人でバスを待つ和香里が心配でバス停まで付き添ってくれたのだろう。そう思った和香里は、スマホのチャットで覇綺に付き添いのお礼を打ち込んだのだった。





「……此処が喫茶店クラッシュ……」



 和香里達が立ち去った後、喫茶店クラッシュに1人の男子生徒が入って来た。


 学ランの前は大きく開け、髪にはヘアワックス、誰から見ても明らかに不良だった。


「いらっしゃい、好きな席にどうぞ」


(おや、腰についてるのはアルカナカードのカードホルダー……もしかして彼もアルカナカードプレイヤーなのかな?)


 石英がカードホルダーを持つ不良生徒を眺めていると、不良生徒は何故か席に座らずに真っ直ぐ石英に向かって歩いてきた。


「石英」


「……はい?」


 不良生徒に本名で声を掛けられ、石英はコップに触れようとした手をピタリと止めた。


「そこに浮いてるのはお前のアルカナだな?」


 不良生徒は石英の隣で浮いているフラを睨みつけながらゆっくり指を差した。フラをはっきり視認している、この学生は明らかに只者では無い。


「僕に何の用かな?」


 相手もアルカナを所持したアルカナバトラーだと理解した石英は、少し気を引き締めながら相手と向き合った。


「オレの名前は上咲幻奴うえざきげんど。石英、オレとアルカナバトルをしろ」


「それはカードゲームの方かな?」


「とぼけんなよ、お前も分かってんだろ……?お前のアルカナとオレのアルカナとの一騎打ちだ、負けた方は大切なカードを1枚、差し出してもらうぜ」


「……どうやら断るという選択肢は無いみたいだね。分かった、やるよ。フラさん」


『ランちゃん、私はいつでも行けるわ!』


 石英はエプロンを外し、腰につけていたカードホルダーを開けて中からカードを取り出した。そしてカードを構え、フラさんと一緒に不良生徒を見つめた。


「やる気になったようだな……」


 不良生徒はアルカナカードを掲げた。すると、カードの中から2体のアルカナが飛び出した。


「では、勝負だ!!」



 勝負が始まってから数秒後、喫茶店クラッシュの建物から爆音が轟いた。

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