第20話 石英の事情

 和香里達はアルカナ3体を引き連れ、喫茶店クラッシュに続く道を歩く。


「喫茶店クラッシュ、そこで魔物の買い取りをしているのか……本当に魔物を売却しても大丈夫なのか?」


 道中で、闘志が売却するカードについて疑問をぶつけてきた。見ず知らずの人に得体の知れない魔物カードを譲るのに抵抗があるのは当たり前だろう。


「大丈夫ですよ、魔物カードを買い取ってくれる蘭お兄さんは私達と同じアルカナバトラーですし、とても優しい人なんです」


「そうか……」


 鳴の説得力が足りないのか、闘志は歯切れの悪い返事をする。


「その蘭お兄さんと言う人は、何故魔物の研究をしているんだ?」


「前に、蘭お兄さんの一家が魔物の仕業で全滅しかけたのをきっかけに魔物の研究を始めたんです」


「全滅!?」


『何があった!?』


 鳴から出た物騒な言葉に和香里とゴコが反応した。


『あの時は大変でした……あの事件にボクらも居たのですが、後一歩対応に遅れていたら大変な事になる所でした……』


 石英一家に起こった事件が気になるが、赤の他人が深く事情を聞くのは気が引ける。


「……魔物は暫く放置すると、何処かへと消え去ってしまうんです。もし魔物を倒し損なうと、その魔物が出した被害はそのまま。魔物の被害を無かった事にする事が2度と出来なくなるんです」


「えつ、それマジ……?」


 つまり、周囲に被害を出した魔物を逃したら、一生被害を無かった事にする事が出来なくなるという訳だ。


(目の前に迷惑を掛ける魔物が現れたからとりあえず倒してたけど……他に倒してくれる人が居るからって何もせず現場に向かわなかったら、あの野次馬の2人も、公園で歩いてた人も、下手したらお父さんも、今頃は……)


 和香里は最悪な事態を想像してしまい、顔を青くして俯いてしまった。ゴコは和香里の顔を見て何かを察したのか、何も言わずに和香里の側に寄り添った。


「魔物を倒せないと、被害が残る可能性があるのか……」


『あの時、立ち去った魔物が大きい被害を出した魔物じゃなくて本当に良かった……』


「……」


 どうやら石英の身に相当酷い事が起こったらしい。先程まで鳴の親戚に疑いの目を向けていた闘志も、どうやら今の話には思う所があったようだ。


「なので蘭お兄さんは、少しでも魔物の被害を減らす為に魔物カードの研究をしているそうです。多分蘭お兄さんなら、魔物で悪い事は絶対にしないと思います」


「どうやら深い事情があるようだな……分かった、俺も出来るだけ研究に強力しよう」


「ありがとうございます……あっ、着きました!此処です!」


「お洒落な店だな」


 鳴と気になる会話をしているうちに、目的地である喫茶店クラッシュに到着した。鳴は慣れた手つきで喫茶店の扉を開けた。


「いらっしゃい」


『あっカードゲーム部の!いらっしゃ〜い』


 いつものように英石蘭が挨拶し、石英のアルカナのフラが明るく出迎えた。


『あら、また新入部員が増えたの?』


「新しくカードゲーム部に入りました、闘志覇綺です」


『闘志……もしかして前に来た闘志キラちゃんのお兄さん?』


 実は前に和香里と鳴と綺羅の3人で此処に来た事があった。


「はい、綺羅は俺の妹です」


『どうりでそっくりだと思ったら!礼儀正しくていい子ね〜!あら、よく見ると新しいアルカナが増えてるじゃない、貴方もアルカナバトラーなのね〜』


「新しいアルカナバトラーかい?それは凄いね。フラさん、皆んなを奥の大きい席に案内してあげて」


『は〜い!お客様6名様ご案内〜』


 フラさんはカードゲーム部の部員を引き連れて1番奥にある大きいテーブルに移動した。


『はい、メニュー表!』


「ありがとうございます。そうだ、蘭お兄さん。実は……」


 鳴は周りに他の客が居ない事を確認すると、昼間に学校で起こった魔物発生事件を石英に報告した。


「そうか……出現した魔物の群れが新たな魔物を……トロールが1段階飛ばして進化したのは多分、先に倒したトロールの魔力がまだ周囲に残っていて、それもまとめて吸い取ったからだろうね」


「成る程……あっ、闘志さん。この人が先程話に出た、私の親戚の石英蘭さんです」


「宜しくね。後、研究の為に外で暴れていた魔物カードの買い取りもしてるよ」


「闘志覇綺です、宜しくお願いします。あの、今日討伐した魔物カードが1枚手元にあるのですが……」


「あっ、助かるよ。ありがとう」


 闘志はパープルトロールのカードを石英に手渡した。


「このカードから分かる事があるんですか?」


「うん、色々とね。これでいつか『魔物発見機』を作れたら良いなとは思うんだけど……最終的に、この世界に魔物が現れないような装置を作るのが理想かな」


「……石英さん。俺も出来るだけ多くの魔物を倒して、石英さんの研究の手伝いをします」


「闘志さん……ありがとう。僕も頑張るよ」


 闘志の言葉に石英は笑顔で頷いた。


「あっ、これ魔物のお代」


「ありがとうございます」


 石英は茶封筒を闘志に手渡した。闘志は中身を確認せずに受け取り、そのまま鞄の中にしまった。


(覇綺、後で中身を見て腰を抜かすんだろうなぁ……)

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