第18話 謎のアルカナバトラーの正体

「凄い……!人質と家屋を一切傷つけずに……!」


 謎の男のアルカナであるツルギは屋根の上を華麗に舞い、囚われた一般人を助けた上でパープルトロールのみを見事に討伐した。


「ありがとうございます!何とお礼を言ったらいいか……!」


「礼はいい、化け物は消えたから俺は帰る」


 喜ぶ鳴とは裏腹に冷静な男は、何食わぬ顔でその場から立ち去ろうとする。


「あの!せめて何かお礼を……」


「鳴、今は学校に帰るのが先だと思うよ。そろそろ昼休み終わりそうだし」


「ええっ!?そんな……!」


『……ナル、とりあえず学校に帰ろ?』


「……はい、分かりました……」


 リスタルは目に見えて落ち込む鳴を乗せて学校に帰った。新しいアルカナバトラーと出会えた上に危ない所を助けられたのに、相手に何も謝礼が出来ずに別れるのは確かに辛いだろう。


(鳴、多分だけど……あの人とはまた直ぐに会えると思うよ……)




 そして放課後……




「失礼します」


 和香里と鳴が居るカードゲーム部の部室に、1人の男子生徒が入って来た。


「はい、何の用で……あっ!?あの時の!」


 部室に入ってきたのは、昼間現れた謎のアルカナバトラーだった。


(思ったより早く出会えた……)


「来てくれたんですか!?と言うより、何故此処が分かったんですか!?」


「妹から話は聞いていた。アルカナカードを中心にゲームをする部活動があると……」


「妹……?」


 鳴は男子校生が発した妹の一言に反応し、指先でメガネを触りながら何やら考え事を始めた。


「和香里さん……確か今日も闘志綺羅さんはお休みでしたね?」


「うん、休みだよ」


『ナル、何か分かったの?』


「はい。今此処でようやく、点と線が全て結びつきました……」


 何かが分かった鳴は、改めて謎の男と向き直った。


「どうした?」


「貴方の正体が分かりました。貴方は……闘志綺羅さんですね?」


「……えっ?」


 鳴の発言に和香里は思わず変な声が出した。


「いや、俺は……」


「いえ、今更照れなくて大丈夫です。私分かったんです、闘志さんは外で魔物関連のトラブルが発生する度に、よく用事で部活動を休んでました。部活動を休んだのは、外で魔物退治をする為だったんですよね?そうやって男装までして正体を隠して……」


『ええっ!?そうなの!?』


 鳴さんはその辺を歩き出して自身の推理を皆んなの前で披露し、リスタルはその推理を聞いて驚いている。


「それに、何故かはわからなかったんですが、この方とは初対面では無い気がしていたんです……あと、和香里さんだけは何故か既に彼に慣れている様子でした。これが意味するのは、和香里さんはこの方と既に知り合いだったから……これで全て分かりました」


 推理を披露し終えた鳴さんは、此処で男と向き直った。



「そこから導き出される答えは一つ!貴方の正体は闘志綺羅さんです!」



 鳴は普段以上に大きな声で宣言し、男に人差し指を指した。


「……鳴、違うよ。確かに苗字は闘志だけどね」


「……えっ?」


 鳴は和香里の言葉に我に返り、和香里の顔を見つめた。


「その人は綺羅の兄だよ」


「……兄?」


 鳴はそう一言呟き、改めて謎の男を見つめた。



「俺の名前は闘志覇綺とうしはき、綺羅は俺の妹だ」



「…………えええっ!?」




 鳴は今日1番の大声を上げた。




 そして数分後……



「先程は申し訳ございませんでした……」


 鳴は綺羅の兄である闘志覇綺に向かって深々と頭を下げた。


「いや、むしろ頭を下げるのは俺の方だ。いつも妹が世話になっているし、何よりも『龍十』の件で柔道部の部員が迷惑を掛けた事も聞いた」


「いえ……あの後、部員の方々が直々に謝罪しに来てくれたので……」


 あの鳴暴行未遂事件の後、迷惑を掛けてきた先輩2人組が何かに怯えた様子で鳴に丁寧に謝罪して来た。


「いや、それだけでは足りないと思ってな。後日、柔道部の部長である俺も菓子折りを持参して謝罪しに行く予定だった……目当ての菓子折りが届くまで時間が掛かったが、今日ついに届いたんだ。これでようやく謝罪が出来る」


「菓子折り……?いえ、そこまでして頂かなくても大丈夫です!」


「いや、受け取ってくれ。このような事態を招いたのは俺の指導不足が原因だ。改めて柔道部のいざこざに巻き込んでしまった事を謝罪させてくれ。この度は、大変申し訳ございませんでした」


 闘志は鳴よりも更に深く頭を下げて謝罪した。


「大丈夫です!謝罪の意思は十分過ぎる程に伝わりました!」


「ありがとう……これはお詫びの菓子折りだ」


「あ、ありがとうございます……」


 闘志は中々に有名な菓子店の商品詰め合わせを鳴に手渡した。


「あともう一ついいか?」


「もう一つ……ですか?」


「ああ、俺が此処に来た理由はもう一つある。この力についてだ」


 そう言うと闘志は、ポケットから1枚のアルカナカードを取り出した。


「ツルギ、出て来てくれ」


 闘志がアルカナの『ツルギ』を呼ぶと、闘志の目の前に和装の男が現れた。


「アルカナ……!やはり闘志さんもアルカナバトラーだったんですね!」


「闘志さんのアルカナ、かなりクールな感じ……」


『カッコいいです!』


『凄く強そうだ!』


 新たなアルカナに場は盛り上がった。特にゴコとリスタルは嬉しそうだ。


「ツルギ、自己紹介を」


『了解した。私は『正義』のアルカナ、名は『ツルギ』と言う』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る