第17話 トロールと謎の男
黒い霧で描かれた魔法陣からトロールが次々と現れる。
「やばい!ゴコ、戻って来て!」
『おう!』
和香里は『派手な鎧』をゴコのカードから外し、窓を大きく開けてゴコを呼んだ。ゴコは人並み外れた跳躍力でジャンプして1年2組の教室に戻った。
「私のせいです……!」
ゴコが戻って来た辺りで鳴が、か細い声でそう呟いた。
「私が一カ所にビッグラットを集めてしまったから……更に強い魔物を学校に呼び寄せてしまって……!」
「鳴のせいじゃないって!」
『そうだよ!それを言ったらボクだって同罪だよ!ボクもナルと一緒に魔物の話を聞いていたのに、それをさっきまで忘れていたんだから!』
「とにかく、今はトロールを倒す事だけ考えよ」
和香里は鳴をなだめながら、窓からグラウンドをうろつくトロールを見つめた。
「……あっ、トロール同士が争い合ってる」
「えっ!?」
鳴は驚いて窓からグラウンドを見た。そこでは和香里の報告通り、手に持った武器でボコボコに殴り合うトロールの姿があった。
「ほら、あれなら自滅……」
「駄目です!あのトロールがアニメの設定通りなら、急いであれを止めないと大変な事に……わわっ!?」
鳴は大慌てで本の形をしたカードケースを開くが、途中で手を滑らせてケースごとカードを落としてしまった。
「大丈夫!?」
『カード探しはボクが手伝います!その間に才語さんとゴコさんはトロールを1体でも多く仕留めて下さい!因みに相手の体力は1800です!』
「分かった!ゴコ、トロールを倒しに行って!」
『おう!』
和香里はゴコに攻撃力500の武器『氷の剣』を装備させ、大きな音を立てて暴れているトロールの群れの中にゴコを突撃させた。
『おらぁ!!』
ゴコは1番弱っているトロールの頭に氷の剣を突き刺さした。トロールは音も無く姿を消した。
「まずは1匹目!」
ゴコがトドメを刺す事により何とかトロールに倒させるのを回避出来たが、トロール同士による猛攻はまだ止まらない。
和香里の手元には攻撃力400以上の武器がある。これでこの場のトロールは全て倒せるだろう。
「次!」
『おう!』
和香里がもう一度氷の剣を渡し、ゴコは近くにいたトロールを思い切り切り付けた。
「お待たせしました!」
その間に鳴が目当てのカードを見つけ出したようだ。
「リスタル!あのトロール全員に『ビリショック』!」
『それっ!』
リスタルの杖から電撃が飛び出し、トロール2体の動きを止めた。ボロボロになっていた2体は電撃によりその場に倒れた。
「ああっ!?」
だが、倒れた拍子にトロールの持つ武器がすっぽ抜け、真正面にいた別のトロールにぶつかってしまった。
「そ、そんな……!」
武器が運悪く眉間に命中したトロールは、黒い煙を出しながら姿を消してしまった。
「間に合って!」
和香里は最後の氷の剣をゴコに装備させた。
『うおおーっ!!』
ゴコは剣を最後のトロール目掛けて全力で投げたが、武器は何故かトロールにぶつかる寸前に消えてしまった。
その間も、倒れたトロールから出た煙が残ったトロールに吸収されていく。
「やば……ごめん!攻撃間に合わなかった!」
「いえ、あれはどう考えても私が……」
『いえ、あれはどう見ても不慮の事故です!』
お互いに謝り合っている間にトロールは煙を吸収し終え、先程よりも二回りも大きな魔物に成長していた。
「色が変わってる……」
そんな紫色になったトロールがその辺に斧を振るうと、何と空間に穴が空いてしまった。
「えっ!?何あれ!?」
「不味いです!結界を破られました!」
「ええっ!?」
和香里が驚いている間に、トロールは破れた結界から外に向かって走り去ってしまった。
「急いでパープルトロールを追いかけましょう!リスタル、『飛翔』!」
鳴は急いでリスタルに飛翔のカードを使用すると、魔法の絨毯で皆んなを回収して破れた結界から外に向かって飛び始めた。
「あいつ速っ!しかもさっきより頭良くなってるんじゃないの!?」
「あれはパープルトロールです!通常のトロールより頭が良く、ありとあらゆる魔法を無視して行動出来るようになった厄介な魔物です!まさかトロールを1匹倒しただけでパープルトロールになるとは……!」
『ゲームならもう1段階踏んでからパープルになる筈なんですけどね……因みにあのトロールには武器を使用した攻撃も通用しません!』
「相手の体力は2500……ゴコさんに攻撃力が上がる防具を付け、破邪の槍を装備させれば一撃で倒せますが……」
なんて話をしている間に、場所は学校から住宅街へ。パープルトロールは近くの塀を軽々と超えて民家に飛び乗った。
「うわっ!?アイツ屋根に登り始めた!」
『アイツこっち見て鼻で笑ってる!』
「恐らく民家に登れば私達は攻撃出来ないと踏んでるようですね……」
「実際やばいって!修復されるのって魔物のやらかしだけだよね?もし間違えて家壊しちゃったら大変だよ!」
なんて言ってる間にも、パープルトロールは和香里達をあざ笑うかのように屋根から屋根へと移動していく。
「あいつ絶対ワザとやってるよ!」
「こうなったら道具で止めます!『拘束装置』!」
鳴がそう宣言し、リスタルにバズーカのような道具を持たせた。
『止まれーっ!!』
『待て!』
リスタルはバズーカをパープルトロールに向けて撃とうとしたが、ゴコが手で制した。パープルトロールは何故か武器を持っていない左手で防御している。
『アイツ、手に誰か持ってる!』
「えっ……ああっ!?」
ゴコの指摘通り、パープルトロールの左手には主婦らしき一般人が握られていた。
「あいつ、いつの間に……!」
『あのトロール、人質握ってます!下手に攻撃したらボクらがあの人を傷つけてしまいます!』
和香里達がもたついている間に、パープルトロールはこの場から大きく飛んで離れようとしているのか、その場で身を屈めて力を溜めている。
「どうしましょう……」
和香里達が絨毯の上で次の手に悩んでいると……
「悩んでいるようだな」
「えっ……?」
悩む和香里達の背後から謎の青年の声が聞こえてきた。
声のした方を振り向くと、そこには長い黒髪に仮面をつけた和装の男と、長い黒髪を束ねた切れ長の目の男が屋根の上に立っていた。
「あれは……!」
一見すると謎の男だが、和香里だけはその男の正体に気が付いていた。
「新しいアルカナバトラー……!?」
「獲物を横取りするのは悪いと思っていたので傍観していたが……打つ手を尽くしたのであれば、俺達も助太刀する」
「……えっホントですか!?是非お願いします!」
猫の手も借りたい鳴は男の申し出を喜んで受け入れた。
「分かった。ツルギ、あの化け物に『大英雄の剣』で攻撃してくれ」
『承知した』
アルカナと思われる和装の男『ツルギ』は立派な剣を構え、人質を持ったトロール目掛けて飛び掛かった。
「あのアルカナ武器使ってるよ!?確かパープルトロールに武器は……!」
「奴の能力などツルギの前には通用しない」
ツルギはパープルトロールの攻撃をスレスレで避け、人質を持つ手を剣の柄頭で強打した。
『あっ!トロールが人質を離しました!』
ツルギは解放された人質を片手でそっと抱え、そのままパープルトロールの脇腹目掛けて鋭い一撃を叩き込んだ。
『グエエエエェ!!』
見事な一撃を喰らい真っ二つになったパープルトロールは濃い煙を吹き上げ、やがてその場から姿を消してしまった。それと同時にツルギの手元にいた一般人の姿も消えた。どうやら魔物が消えて全てが元通りになったようだ。
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