第16話 ビッグラットの群れ
スペルドラゴン退治から数十日後……
(最近平和でいいな〜)
和香里は学校へと向かうバスに揺られながら、魔物の居ない平和な日々を過ごしていた。
『うおおおおー!!』
ゴコはいつも通り、和香里が乗るバスと楽しそうに並走している。
あっという間に目的のバス停に到着した。和香里は停車したバスから降り、ゴコも一緒になって学校に続く道を歩く。
「和香里!ゴコ!おっはよー!!」
2人で通学路を歩いていると、後ろから綺羅が走って来た。
『おっはよー!!』
「綺羅おはよう、今日も元気そうで何よりだよ」
「えっへへー!2人も相変わらず元気そうで安心したよ!あれ?芽留は?」
「芽留は朝練で私達より早く学校行ったよ」
「そっか!芽留は相変わらず卓球部で頑張ってるんだ……和香里、ごめんね!最近用事ばかりで、あまり部活動に出れなくて……」
「大丈夫だよ。綺羅にも事情があるんだし、そんな気に病む必要はないよ。また暇が出来たら一緒に部活動に出ようね!」
「和香里……!うん、また一緒にゲームしようね!」
そんな感じで綺羅と部活動の話をしつつ学校へ。
「ゴコ、周りを見張っててね」
『おう!』
そしていつも通りにゴコに周りの監視を頼み、いつも通りに学校の授業を受けに行った。
「えーと、この文の意味は……」
今は国語の時間、和香里は先生が黒板に書いていく文をノートに書き留めていく。
「……と言う事からして、彼は……」
先生が真面目に授業をしている中、周りの同級生の1人が外に何かを発見し、それにつられて他の生徒も外を見て驚き、やがて室内がざわざわつき始めた。和香里は廊下側なので外の様子が何一つ分からない。
「おい、今は授業中だぞ」
「先生、あれ……」
と、1人の生徒が外にある何かを報告しようとしたその時、外から謎の物体が学校に飛んで来た。
「うわっ!?」
全開の窓から室内に飛び込んで来たのは巨大なネズミだった。ネズミは物凄い勢いで着席している生徒達の頭上スレスレを飛び、反対側の壁に激突した。
「きゃーっ!?」
一部の女子生徒が悲鳴を上げ、生徒達は全員ネズミがぶつかった壁から離れた。その間にネズミは体が煙のように溶け出し、やがてカードを残して消えてしまった。
「な、何だよこれ……」
「おいそんな得体の知れないモノに触るなよ!」
「それ、アルカナカードじゃね?」
男子生徒の1人がカードをつまみ上げてカードを見つめる。
(これは多分『ビッグラット』だ!まさか授業中に魔物が現れるなんて……!)
和香里は急いでしゃがんで自分の鞄を持つと、鞄の中から『分身』のカードを出して使用した。
「(分身、私の代わりに生活してて)」
命令を聞いた和香里の分身は、周りの皆んなに合わせて動揺し始めた。その隙に和香里は音を立てずに教室から廊下に出た。
「うわっ!?」
だが、廊下にも先程現れたビッグラットが数体入り込んでいた。そしてビッグラットは廊下に現れた和香里を発見すると、キーキーと鳴き声を上げながら和香里に突撃してきた。
「やばっ!?」
『ワカリーッ!』
だが、途中で窓から飛び込んで来たゴコが和香里に突撃して来たビッグラットを両手で掴むと、残りのビッグラット目掛けて全力で投げた。
『ヂュッ!?』
仲間同士で激しくぶつかり合ったビッグラットはそのまま消えてしまった。ゴコは急いでカードを拾い上げ、和香里に手渡した。
「ゴコ、助けてくれてありがと!」
『ワカリ!大変だ!学校がデカいネズミの群れに囲まれた!!」
「ええっ!?」
『外にネズミが沢山居た!』
魔物1体はそんなに強くないが相手は大群、よりによって人の多い校内に現れてしまった。
(魔物を倒せば被害は全て無かった事になる……でも、流石に人がいる状態で戦うのは……!いや、今はとりあえず魔物退治!)
「ゴコ、行くよ!」
『おう!』
「和香里さん!」
とりあえず和香里達が魔物退治に繰り出そうとしたその時、別の教室から鳴とリスタルが飛び出して和香里を呼び止めた。
「鳴!無事だったんだ!」
「はい、突然窓からビッグラットが入って来て……あの、とりあえず1年2組に『魔法陣』を設置したので、そこに避難して作戦会議しましょう!」
「わっ、分かった!」
とりあえず和香里達は、先程まで鳴がいた教室に入った。
「あれ?人が消えてる……?」
1年2組でも授業はしていた筈なのに、何故かそこに同級生の姿は無かった。あるのは机と、中央にある魔法陣だけだ。
「もしかして全員避難させたの?」
「いえ、呪文カードの『結界』を校内に張ったんです!これで一般人は魔物の被害を受けません!」
『このカードはアルカナカードの関係者を結界に閉じ込めるもので、一般人はこの結界の中に入る事が出来ません!』
「此処は学校に似せて作られた別次元だと考えて下さい。今頃皆さんは本物の学校の中で授業を終え、昼休みに入っている所かと……」
「良かった……」
『なので僕達は心置きなくビッグラットの駆除が出来ます!次はどうやって集団のビッグラットを倒すか考えましょう!』
「ビッグラットかぁ……」
和香里は先程倒して手に入れたビッグラットのカードを見つめた。
「この魔物自体は全然強くないから、1体相手なら余裕だけど、こんなに沢山の敵を相手にするのは骨が折れそうだね……」
もし集団で襲われても対処出来るように『攻撃してきた相手に200の攻撃を与える』効果を持つ防具『針の鎧』を所持していた。
『しかもこんなに居たら取りこぼしとかありそう……何とかして全部駆除できないかな……」
「和香里さん、私にいい考えがあります!あのですね……」
和香里達は輪になって鳴の作戦を聞いた。
「……そんな道具があるの?」
「はい、そのカードは私の手元にあります。後はゴコさんがこの作戦をやってくれるかどうかですが……」
『やる!』
「即決じゃん。ゴコ、ありがと」
『お安い御用だ!」
「ゴコさん、ありがとうございます。では、作戦開始です!」
「よし!ゴコ、いっておいで!」
『おう!」
作戦開始の合図と共に、ゴコが窓から飛び出して外にあるグラウンドに着地した。辺りに居たビッグラットが一斉にゴコを見つめる。
「そしてさっき鳴から借りた防具カード『派手な鎧』をゴコに装備させるよ!」
派手な鎧は防御力が高く、しかもこの鎧を装備した魔物は最優先で攻撃されるという効果がある。
つまりこの鎧を装備した途端、学校中に散らばっていたビッグラット達が全てゴコに集まってくるというわけだ。
『いっぱい来た!』
ビッグラットは、あちこちから現れてはゴコに向かって走っていく。
「ここで私達の出番です!リスタル、『サンダーシャワー』!」
『それーっ!』
リスタルがグラウンドに向けて天上の杖を振るうと、ゴコの周囲に居たビッグラット達が次々と雷に打たれては消えていく。
「集団戦は得意です!」
「凄い!これなら全部倒せるよ!流石鳴さん!」
「いえ、この作戦は囮となってくれる方が居なければ成り立ちませんでした。むしろお礼を言うのはこちらの方です、ありがとうございます」
ゴコに集まるビッグラットに次々と電撃が浴びせられ、次々と消えていくビッグラット。
「今回は余裕そうだね」
「突然何かあっても大丈夫なように、念の為に戦闘準備はしておいてください」
「うん、分かった」
和香里が呑気に鞄からカードを出して構えた。だが突然、ゴコの周りにいたビッグラットが一斉に怯え出した。
「あれ?どうしたんだろ」
『ん?何だ?』
ゴコ達が不思議そうにしていると、ビッグラットがその場で飛び上がったかと思うと、その場で一斉に姿を消してしまった。魔法の影響か、辺りには黒い霧が立ち込めている。
「凄っ!ビッグラットがいっぺんに消えた!今の何て魔法?」
「あれ私じゃありません!」
「えっ?」
じゃああれは何かと尋ねようとしたその時。グラウンドに充満する黒い霧が魔法陣のような模様を描いたかと思うと、その魔法陣の中からズルズルと深緑の巨人が姿を現した。
「うわっ!また出て来た!」
「あれはトロール……!」
和香里は驚き、鳴は顔を白くしながら謎の巨人を見つめている。
「トロール?」
「体力と力が高い厄介な魔物です!」
「そんな……!まさかビッグラットの他にも魔物が現れるなんて……」
「……違います。これは現れたのではなく、この場にトロールを召喚してしまった可能性があります」
「……召喚、してしまった?どういう事?」
「蘭お兄さんから聞いた事があるんです。外に現れるやたら強い魔物は、他の魔物を生贄にして召喚された可能性がある、と……」
「……弱い魔物が集まると、ああやって強い魔物が生まれるって事?」
『さっきの様子からして、多分その認識で合ってると思います。どうやらあのトロールは、グラウンドに集めたビッグラットを生贄に召喚されてしまった可能性が高いです……』
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