第15話 2体のスペルドラゴン

「やばい!これ凄くやばいよ!」


(特殊魔法を防ぐ防具を焼かれたのは痛い……!こんな事ならもっと持ってくれば良かった!)


 空を飛ぶゴコの背後からスペルドラゴンが2体追いかけて来る。


「これだと背後から魔法撃たれ放題じゃん!?やば!隠密のカード……」


[無理です!そのカードは魔物相手に既に発見された状態だとあまり効果はありません!]


「ええっ!?駄目なの!?」


[今から和香里さん達のいる方向に向かいます!今は無理に攻撃しようとせず、とにかく逃げに徹して下さい!]


 最後にそう指示を出され、鳴からの通話が切れた。


「ゴコ!今は鳴の指示通りにとにかく逃げて!」


『おう!』


 ゴコはとにかく素早く飛んでスペルドラゴン2体を巻こうと奮闘したが、相手はゴコ以上に飛行が得意なプロフェッショナル。しかも2体のコンビネーションにより中々追跡を撒くことが出来ない。


『しつこい!!』


「大丈夫、今はとにかく飛び続けて!」


 和香里は逃げている間に使えそうなカードを幾つか見繕い、いつでも発動出来るように構えた。


『キェーッ!!』


 そしてついに、スペルドラゴンの1体が和香里が乗ったゴコに向かって風の球を吐き出して攻撃してきた。


『うおっ!魔法だ!?』


 風の球は物凄く速く、かつ的確にゴコを捉えた。


「『瞬間移動』!」


 だが、魔法がぶつかる寸前に和香里が呪文カードを発動した。一瞬で和香里達の姿が消え、ターゲットを失った風の球はそのまま真っ直ぐ遠くへ飛んでいった。


(よし、上手くいった!)


 そして和香里達はスペルドラゴン2体の背後に現れた。敵を見失ったスペルドラゴン達はキョロキョロと辺りを見回している。


(攻撃するなら今がチャンス!ゴコに最後の1枚の『破邪の槍』を装備させる!)


『むんっ!』


 ゴコは破邪の槍を装備した瞬間に投げ、正確なコントロールで1体のスペルドラゴンの体を貫いた。ドラゴンは悲鳴を上げて姿を消した。


(よし、あと1体!この間にゴコに『隠密』と『スペルカウンター』を付ける!)


 今は相手に見つかっていないので『隠密』のカードの効果は出るだろう。


 そして『スペルカウンター』は文字通り、味方1体に暫くの間呪文を反射してくれるバリアを展開する魔法だ。これで相手からの魔法を1回だけ反射する事が出来るので、こちらにも少し余裕が生まれる。


 最後の1体は『正直グローブ』という、攻撃力は皆無だが相手の効果や呪文を全て無視して攻撃出来る武器でトドメを刺す。


 この武器は『破邪の槍』の劣化版だが、それでも防衛呪文が掛かった相手に攻撃を当てる事は出来る。


(カードの情報によるとスペルドラゴンの体力は700、これなら余裕で攻撃が通る!)


 これならもう大丈夫だと安堵していると、先程倒したスペルドラゴンのカードが、奇跡的にこちらに向かって飛んで来た。


(回収する手間が省けた!)



 だが、それが逆に仇となった。



 強風に煽られたカードは器用に旋回し、何とゴコの顔に張り付いてしまった。


『ふぎゃっ!?』


「うわっ!?」


 ゴコは思わずバランスを崩し、和香里は咄嗟にゴコにしがみついた。


 更に、目の前のスペルドラゴンが放った光が周囲を照らしたかと思ったら、ゴコに生えていた羽が消えてしまった。


「ええっ!?」


 どうやらゴコに掛かっていた魔法が全て消えてしまったらしい。


『おわーっ!?』



「うわーっ!?」



 羽を失ったゴコはそのまま垂直に落下していく。



「『飛翔』!」



 だが、和香里は最後まで気を抜いていなかった。念の為に手元に置いていた『飛翔』のカードをゴコに重ね、ゴコに再び羽を生やした。


『うおおーっ!!』


 ゴコは木々すれすれの所を必死に飛ぶ。真下にある針葉樹のてっぺんは風に揺られてガサガサと音を立てている。時折高い木の先端が和香里の足にガサガサと触れた。


「うわーっ!近い近い!」


『飛べーっ!!』


 ゴコは体を揺らしたりしながら何とかバランスを取り戻し、上空へと飛び上がってスペルドラゴンの追尾を再開した。


(危なかった……!念の為『飛翔』を手元に置いといて正解だった……!)


「ゴコ!『正直グローブ』であいつを殴って!」


『任せろ!』


 両手にコミカルなグローブを装備したゴコは、真っ直ぐ飛んでスペルドラゴンへと迫る。


『キェーッ!!』


 和香里達に気付いたスペルドラゴンが、背後に向かって緑色の火の玉を飛ばしてきた。


(『瞬間移動』!)


 だが、攻撃を撃って来たのと同時に和香里はカードを使用してその場から姿を消し、スペルドラゴンの真上に移動した。


『終わりだ!!』


 ゴコは両手を握りしめ、急降下して真下にいるスペルドラゴンを思い切り殴りつけた。


『ギェーッ!?』


 突然現れた相手に何も出来なかったスペルドラゴンは、垂直に落下しながら姿を消してしまった。


(スペルドラゴンが最後に撃って来た魔法は多分、魔法攻撃と同時に攻撃力が200以下の武器を処分する『グリーンファイア』……だよね?)


 相手の魔法を考察している間に、ゴコはゆっくり降下して地面に着地した。


『ほい』


 そこでゴコから最後のスペルドラゴンのカードを受け取った。これにて、ようやく全てのドラゴン退治が終わったのだった。


「和香里さーん!」


 それと同時に、鳴を乗せたリスタルが物凄い速さで和香里達の元へと飛んで来た。恐らく鳴は『瞬間移動』や『高速化』を駆使してやって来たのだろう。


「鳴!こっちこっち!何とか全部倒せたよ!」


『ゴコ達の勝利だ!!』


「良かった……!」


『2人が無事で何よりです!』


 リスタルの魔法の絨毯が和香里達の元に降りて来た。絨毯の上に乗っていた鳴とリスタルは安堵の表情を浮かべていた。


「あっ、そうだ。道は直ってるかな?」


「見に行きましょう!」


 和香里達はリスタルの魔法の絨毯に乗り、空を飛んで通行止めになっていた道へと戻った。


『綺麗になってます!』


「ホントだ……良かった……!」


 荒れていた道路は綺麗になっていた。土砂や切られた木は無くなっていた。


「これで芽留も家に帰れる……」


「この後はどうしますか?もうそろそろ5時になりますが……」


「スペルドラゴンを換金したいから喫茶店寄ろっかな?」


「そうですね、無くす前にお金に換えておきましょう」


『では、喫茶店クラッシュに向けて出発!』


『おーっ!』


 和香里達を乗せた魔法の絨毯は、喫茶店クラッシュに向かって真っ直ぐ飛んでいった。




「……」



 そんな和香里達を、遠くの空から見つめる人物がいた。


 仮面を付けた和装の大きな鳥。空を飛ぶ鳥の背の上には、長い黒髪を束ね、切れ長の目の顔が整った学ランの男の姿が。


(才語和香里……最後まで気を抜かず、見事に討伐をやり遂げたようだな。知り合いから明らかに魔物絡みの報告を聞いたから此処まで来たが、どうやら俺達の出番は無くなったようだ)


「ツルギ、帰ろう」


『承知した』


 謎の鳥と男は和香里達から視線を逸らすと、そのまま何処かに向かって飛び去っていった。

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