第14話 スペルドラゴン
楽しい夜遊びから数日後……
「鳴!」
『タイヘンだ!!』
放課後、カードゲーム部の部室である美術室に和香里とゴコが慌てて入って来た。鳴とリスタルは不思議そうに和香里達を見つめる。
「あっ、和香里さん……もしかして何かあったんですか?」
「そう!緊急事態だよ!鳴、今日は部活動やめた方がいいかも!」
『一体何があったんですか?』
「実は……」
数分前……
「和香里!部活動行こ!」
ホームルームが終わった瞬間、綺羅はいつものように元気に和香里に駆け寄った。
「うん!行こっか!」
和香里は笑顔で頷き、綺羅と一緒に教室から出た。
「え〜?それ困るよ〜」
すると、廊下でスマホで通話をしている芽留の姿が目に入った。表情や台詞からして、何やら困っている様子だ。
「どうしよう……」
芽留は通話が終わった後も、じっとスマホを見つめ続けていた。普段のおっとりした性格から一変して、目に見えて落ち込んでいる。明らかに様子がおかしい。
「芽留、どうしたの?何かあった?」
和香里は、スマホを見つめながら困る芽留に声を掛けた。
「あっ、和香里ちゃん……」
「何か凄く困ってるじゃん、あたし達で出来る事があったら手伝うよ!」
「いや、2人じゃ全然無理だと思う……あのね、家の近くの道路が土砂崩れで通れなくなったって……」
「ええっ!?」
「向こうで何かあったの?」
芽留からの想定外のトラブルに驚く和香里と綺羅。
「突然土砂が出来て、何故か木が沢山斬られて倒れて道が塞がって、それで通れそうにないって……」
「土砂と倒木……」
「原因は分かんないって。でも、何も無いのに突然道が荒れたって……」
「何それ……確か芽留の道って一本道だよね?」
「うん。だから今日は帰れないから、お父さんと一緒に町で住んでる親戚の家に泊めてもらう……だから大丈夫……」
「そうなんだ……」
大丈夫だと言うが、芽留は目に見えて落ち込んでいる。
「……あっ、卓球部に行かなくちゃ。2人とも、じゃあね」
芽留は気を取り直すと、2人に別れを告げて卓球部へと走っていった。
「……って感じで、芽留の家に続く道が塞がったみたいで……あっ、綺羅は今日用事あるから部活休むって」
「綺羅さんは休みですね、分かりました。成る程……土砂崩れに謎の切断された木……それは明らかにおかしいですね」
「だよね、これって明らかに魔物の仕業だよ!」
「私もそう思います!では今日は部活動を休止して直ぐに現場へ向かいましょう!移動は私に任せて下さい!」
「分かった!場所は私が案内するね!」
鳴は急いでリスタルに『飛翔』のカードを使用した。そしてリスタルから現れた魔法の絨毯に全員を乗せ、空を飛んで土砂が現れた現場近くまで移動した。
山奥に向かって空を飛び続ける事数分後、ようやく事件現場と思われる場所に到着した。ここのところ晴天続きだったにも関わらず、辺りが飛び散った土砂で少し荒れていた。
「あっ、あれだ!」
魔法の絨毯の上から封鎖された道路を発見した。
「酷いですね……」
『よく見ると大きな足跡のようなものがあります!』
眼下に見える現場には大きな足跡や何か焦げた跡など、明らかに何者かが暴れた形跡があった。
「この荒れ方や足跡の形からして、ドラゴンの仕業かもしれませんね……」
「ドラゴン?ドラゴンってあの?」
「はい。アルカナカードの世界のドラゴンは強くて、どのドラゴンも魔物カードを犠牲にして表に出すものばかりです」
「どれも犠牲が必要って、それ絶対強いやつじゃん!?」
「強いです。ですが……今回現れたと思われるドラゴンは普通のものより小さくて力もあまり無いタイプのようです」
『普通のドラゴンだったらもっと酷い被害が出てた可能性があります』
「コスト無しで出せるドラゴンだと良いのですが……」
「小さいドラゴン……今回の敵はそんなに強くない感じ?」
「油断は禁物です。力が無くても攻撃を一切受けない能力を持った者が居たり、行動する代わりに山札から魔法カードを取ったりと、変わった能力を持っているドラゴンも多数います」
「そんなに種類あるんだ……」
「あの綺麗に切断された木や焦げた跡……この多彩な技からして、恐らく相手は『スペルドラゴン』だと思われます」
『スペルドラゴンは臆病ですが自分より弱い生き物を見下す性格で、普段は人気の無い山奥に住んでいるそうです。山札から呪文を取り出す能力を持っていて、更にドラゴン自体にもそこそこの魔力があるので、こちらに向かって魔法を撃ってくる可能性が非常に高いです』
「辺りの状況を見て魔法を撃つ事が出来るんだ……凄いね」
「いえ、これはあくまで私の予想です……和香里さん、此処は手分けしてドラゴンを探しませんか?」
「うん、こうしている間にもドラゴンは更に被害を出してる可能性があるもんね。もし魔物を発見したら鳴にスマホで連絡するね!」
「はい、宜しくお願いします!そうだ、スペルドラゴンは『反射』や『クラッシュ』で攻撃を避けてくる可能性があります、気をつけてください!」
「分かった!ゴコ、行くよ!」
『おう!』
和香里は『飛翔』のカードでゴコに翼を追加し、ゴコの背中に乗って鳴と別方向に飛んでドラゴンを探し始めた。
『ドラゴン出てこい!』
ゴコは元気よく大声を出しながら山の上を飛んでいく。その間和香里は、スペルドラゴンとの戦闘で使えそうなカードを鞄の中で用意していた。
(よし、準備完了!これなら呪文で防御してくるスペルドラゴンに対応出来る!)
鳴との戦闘で『攻撃が通用しない』という状況を経験した和香里は、再び『攻撃無効』でピンチにならないよう色々と対策出来るカードを用意していた。
(相手は呪文をメインで使うなら、ゴコに『魔法使いの服』を着せる!)
和香里はゴコに『特殊魔法を無効化する』装備を着せた。ゴコの格好が魔法使いっぽい姿になった。
『……おっ!スペルドラゴンのお出ましだ!!』
「あっ!本当だ!」
ゴコが顔を向けた先に、車程の体格に大きな翼を持ったドラゴンのような魔物が、空を優雅に飛んでいるのを発見した。
「ちょっと待って、鳴に連絡入れるね」
和香里はスマホで鳴に電話をするが、鳴から返事が返って来ない。向こうは取り込み中だろうか。
「おかしいな……」
『ワカリ、あいつどんどん遠くに飛んでく!』
「これは討伐優先かもね。それにしてもあのドラゴン、確実に魔法使用してるよね……」
全体的に細いドラゴンは、明らかにバリアのような物で覆われていた。これは下手に攻撃したら反射されるかもしれない。
「よし、とりあえず私達だけであのドラゴンを倒すよ!」
『おう!』
「ゴコ、あのスペルドラゴンに『破邪の槍』を投げて!」
和香里はカードを取り出し、ゴコに大きくて強そうな槍を装備させた。
この『破邪の槍』は、相手の特殊効果や呪文カードの効果を無視して攻撃する事が出来る。そのおかげで、例え相手が『反射』持ちだろうがその効果を無効にする事が可能だ。
『食らえ!!』
ゴコは空を飛んだまま華麗に槍を投げ、スペルドラゴンをバリアごと貫いた。
『ギャーッ!?』
スペルドラゴンは悲鳴を上げながらその場で消滅し、ドラゴンの中からカードが飛び出してきた。
『ほい!』
「ありがとう!」
ゴコは綺麗に飛び、宙を舞っているカードを見事にキャッチし、背中にいる和香里に手渡した。その辺りで丁度、鳴から電話が掛かって来た。
「鳴!大丈夫!?」
[すいません!こっちで戦闘をしていたもので……和香里さん、何か分かりましたか?]
「うん!こっちでスペルドラゴン発見したから倒したよ!カードもゲット出来た!」
[本当ですか!?実は、こちらもたった今スペルドラゴンを3体倒した所だったんです!]
「……えっ?3体?」
『ワカリ!後ろ!』
鳴の発言に素っ頓狂な声を上げた所で、ゴコが何かを発見したのか突然大声を上げた。それと同時にゴコの身体に紫色の炎がぶつかり、装備していた魔法使いの服だけが何故か焼けてしまった。
「あれ!?元の服に戻ってんじゃん!」
『後ろの奴に攻撃された!』
「後ろに何が……あっ!?」
なんと和香里達の背後から、先程倒したスペルドラゴンが2体追尾して来ていた。
「ドラゴンがまだ2体来てる!?」
[しまった!スペルドラゴンは群れで生活する魔物だって事を才語さんに伝えるの忘れてました!彼らはカードの絵に描かれている通り、基本は3体で移動してるんです!]
「ええっ!?」
電話越しに聞こえるリスタルの解説に和香里は思わず声を上げ、先程倒したスペルドラゴンのカードを見た。
(3体いる……)
カードには、リスタルの解説通りに『3体』で空を飛ぶスペルドラゴンの姿が描かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます