第13話 カードのコストと、おまけの夜遊び
夜空を自由に飛び、あっという間に広居公園に到着した。
「鳴〜!」
『さっきぶりだ!』
ゴコから降りた和香里は遠くのベンチに座っている鳴とリスタルを発見し、片手を振りながら2人に近付いた。
「和香里さん、こんばんは」
『こんばんは!』
鳴とリスタルはベンチから立ち上がって和香里を出迎えた。リスタルをよく見ると、体内にキラキラしたものが回っているのが見える。
「無事に脱出できたよ〜!でも、少し眠いかも……」
「大丈夫です!リスタル、2人に回復!」
「はい!」
リスタルは和香里とゴコにキラキラ光る魔法を掛けた。すると、和香里に先程まであった筈の眠気がすっかり消えてしまった。
「眠くない……!しかもさっきより元気になった気がする!」
『元気満タンだ!』
「回復魔法を浴びると、眠らなくても1日中活動する事が出来るんです」
『浴びすぎは危険ですので注意してください!』
「浴びすぎるとどうなるの?」
『健康になり過ぎてお医者さんに怪しまれます!』
「前に大回復魔法を浴びた蘭お兄さんが健康診断を受けたら、体内が余りにも若過ぎてお医者様から質問攻めにあったそうで……」
「そんな事あるんだ……」
魔法は物凄く便利だが、注意しなければいつか大変な事になりそうだ。
「そうだ、カードは全て開けてきましたか?」
「うん。1つは弟にあげて、後の29パックをゴコと一緒に全部開けたよ。そしたらレアな物が結構出てさ、その中にかなり強力なカードがあったんだよ!」
和香里は鞄から1枚の武器カードを取り出して鳴に見せた。
「これ!『力の剣』!」
「それです!それが私のオススメ武器です!」
『自引きできたんですね!才語さんおめでとうございます!』
「ありがとう!でも、説明文に気になる所があって……」
「気になる所?」
「この武器で攻撃する際に、味方の魔物を好きなだけ処分し、その処分した魔物の力の合計分の攻撃力を与える……って、味方の魔物を犠牲にするって書いてあるけど……」
「それは自身の消費した魔力を攻撃力に換えて攻撃すると考えればいいと思います」
「魔力……ゴコの魔力じゃなくて私の魔力?」
確かに呪文カードを使用出来る時点で、自身にも魔力があるのは確かだろう。
「そうです。基本、魔物やマナを犠牲にするものは自分の魔力を消費するものだと思って下さい」
「成る程……そう言えば、昨日の鳴と綺羅のアルカナカードバトルでも魔物がよく場から消えてたような……」
「アルカナカードは魔物を犠牲にして成り立つゲームです。その為に毎回魔物カードを表に出したり、魔物カードを進化させて強化したり、魔物を集めて一つのマナに変換したり……とにかく強いカードを使う為に、魔物を使うのが大事なんです」
「マナ?」
「魔物の進化カードの一つです。マナ自体は何も出来ませんが、強力なカードを使用する際に使用します。アルカナを召喚する際にも消費したりと、非常に大切なカードなのでよく覚えておいて下さい」
「すごく大切だって事はよく分かったよ」
「因みに、大英雄の剣もマナを使用して初めて装備出来るカードなんです」
「そうだったの!?じゃああの時大英雄の剣を出せたのは……」
「あの時は武器カードの他に和香里さんの魔力を多く消費して場に出してた、という事ですね」
「そうだったんだ……」
「アルカナの召喚もマナを生贄にして呼び出しているので、和香里さんがゴコさんを呼び出す度に結構魔力を持ってかれている可能性があります」
「そうだったの!?気付かなかっ……いや、そういえば最近寝つきが良いなと思ってたけど……まさか……」
「それです。魔力は使い過ぎると気絶するので気をつけて下さい。私も前に気絶してしまった事があったので……近くに家族が居たので何とかなりましたが……」
「分かった、気をつけるね」
鳴の経験談を聞いた和香里は、犠牲を多く払うカードを使用する際は、とにかく注意が必要だと再認識した。
「力の剣も、自身の魔力を多く消費して初めて装備出来る武器……むやみやたらに使用したら大変な事になります。本当に必要かどうか考えてから使用する事です」
「つまりこの武器は最終兵器って事だね……分かった、気をつけるよ。そうだ、この後どうする?カード交換でもする?」
「カード交換も良いですが……あの、その前に1つだけどうしてもやりたい事があって……」
「やりたい事?」
「アルカナバトラーの友達が出来たらやろうと思っていた事があって……あの、高速道路を走ってサービスエリアまで行きませんか?」
「えっ?車無しで行けるの?」
「私のアルカナに戦車のカードを追加して、リスタルに高速道路を走ってもらうんです」
「それ大丈夫なの!?」
「大丈夫です。戦車が追加されたリスタルは周りからは車として見られてますし、本気を出したらスポーツカー並みに速いので、余裕で高速道路も走れます。それに、今は真夜中ですから道路を走る車も少ないと思います」
「そうなんだ……」
鳴の口ぶりからして恐らく、何度か高速道路を走った事があるのだろう。以外とアグレッシブだ。
「……でも、何だか楽しそう!それやろうよ!」
「ありがとうございます!リスタル、こっちに来て下さい」
『はい!』
カードの説明中、ゴコと遊んでいたリスタルは遊びを中断して鳴の近くまで寄って来た。
「リスタルに『戦車』を追加します!」
鳴がリスタルにカードを重ねると、リスタルの身体から2頭の透明な馬と透明で立派な馬車が現れた。
『よいしょ!』
リスタルは馬車の操縦席に座ると、手綱で馬を操ってその辺を走り始めた。馬は力強い動きで車輪の無い馬車を引っ張っている。
『よし、大丈夫です!皆さん、ボクの馬車に乗って下さい!』
「和香里さん、ゴコさん、乗ってください」
「うん!」
『すごく綺麗だ!』
和香里とゴコは透明な馬車に乗り、最後に鳴が転倒しそうになりながらも何とか馬車に乗り込んだ。
『フカフカだ!』
「物凄く快適……あっ、確か高速道路ってお金支払うんだよね?後で私も……」
「大丈夫です、そもそも私が誘ったものですし、前から魔物を討伐して稼いだお金があるので、それで全て負担します!」
「いいの?」
「はい!あとこれは部長命令です!お金は私に全て払わせて下さい!」
(そんな事で部長命令使う事あるんだ……)
「分かった、全部鳴部長に任せるよ」
「ありがとうございます!では……リスタル、出発してください!」
『はーい!』
鳴の合図で透明な馬車が走り出した。馬は蹄を鳴らして公園の出入り口まで走り、周りの車を確認して再び走り始めた。
「すごく速い!」
『すごい!』
リスタルは慣れた手つきで馬車を走らせ、ついに高速道路を走り始めた。
「何か夢見てるみたい……」
和香里達を乗せた透明な馬車が高速道路の上を走っている。リスタルは時折合図を出して右側の車線に移動したり、また合図を出して左側の車線に戻ったりと、高速道路にもかなり手慣れている様子だ。
『キラキラだ!』
「夜景だね。真夜中でもまだ光ってる所はあるんだ……」
時折高速道路から見える夜景を眺めているうちに、あっという間にサービスエリアに到着した。今は時間が時間なのでお店は閉じていたが、コンビニだけは運営していた。
「折角だから何か買ってこ!」
「私も行きます!」
4人はワクワクしながらコンビニに入り、そこで悩みに悩んだ末にジュースだけ購入してコンビニを出た。
和香里はオレンジジュース、ゴコは水が入ったペットボトルを開けて中身を飲む。
「はぁ〜染みる……」
『うまい!』
「何か物凄く美味しい気がする……」
「分かります、何だか普段よりもジュースが美味しい気がします」
『おいしいし楽しいです!』
鳴とリスタルはリンゴジュースを開けて飲んでいる。
「何か……凄くいいね……!」
「はい……!とても楽しいです……!」
真夜中に家を抜け出し、高速道路を駆け抜けた先にあるサービスエリアで飲むジュースは、普段より美味しく感じるのだった。
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