第10話 喫茶店クラッシュ
魔物カードを買い取ってくれる喫茶店があるとの事で、和香里とゴコは鳴に連れられて学校を出て一緒に歩き、レトロな雰囲気の喫茶店へとやって来た。
「おぉ〜、外観からして中々にオシャレだね。まさか学校からそれなりに離れた場所にこんなお店があったとは……此処が鳴の親戚がやってる喫茶店なの?」
『綺麗な場所だ!』
ゴコは建物をじっくり見つめ、和香里は外に設置されている『喫茶店クラッシュ』の看板を眺める。
「はい、アルカナカードが好きな親戚のお兄さんが運営している喫茶店で、私もよくカードを購入しに此処に来るんです」
「此処でカード買えるの?」
「はい、同級生にカード購入する所を見られるのは少し抵抗があるので……此処ならこっそり購入出来るので、とても助かってるんです」
『レジで普通に購入する事も出来ます!』
「へぇ〜!凄くいいね!」
(私も外で買うのは少し抵抗あったし、凄く助かる……!)
「では入りますね」
鳴は慣れた手つきで喫茶店の扉を開け、丁寧に2人を招き入れた。
「いらっしゃい。鳴、リスタル、また此処に来てくれたんだね」
店内に入ると、カウンターの向こうからお洒落なメガネに黒いエプロンを付けた優しそうな男性が出迎えた。男性の話ぶりからして彼が鳴の親戚だろう。
「その後ろにいる子は?」
「こちらはカードゲーム部の新入部員の才語和香里さんで、隣の方は和香里さんのアルカナのゴコさんです」
『ゴコだ!!』
「翡翠鳴さんの友達の才語和香里です」
ゴコはいつも通りに元気に自分の名前を発し、和香里は初対面の親戚相手に丁寧に自己紹介をした。
「えへへ……はい、和香里さんはアルカナカードを通して知り合った友達です!」
鳴は和香里の友達発言に顔を緩ませ、改めて友達だと宣言した。
「へぇ……才語さんもアルカナバトラーなんだ。ゴコさんは随分と可愛らしいアルカナなんだね」
『ゴコは強い!最強のアルカナだ!』
「それは頼もしいね。そうか、鳴は学校にもアルカナカードを語り合える友達が出来たんだね。良かった良かった」
親戚は和香里とゴコを見つめ、優しい笑顔で頷いた。
「あっ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は『石英蘭(せきえいらん)』、僕もアルカナバトラーだよ」
「蘭お兄さんもアルカナカードが得意で、更に私達と同じで生きたアルカナも持ってるんですよ」
「えっ!?ホント!?」
まさかこんな数日で同じ能力者を2人も発見出来るとは思わなかった和香里は、思わず声を上げて驚いた。
「ホントだよ。フラさん、こっちおいで」
『は〜い!』
石英が足元に声を掛けると、下から小さくも元気な声が聞こえてきた。
『あら〜!こんなにアルカナバトラーが来るなんて夢みたいね〜!』
カウンターの下から、綺麗な金色の輪に乗った小さな女性がふわふわと浮かんで私達の前に現れた。まるでファンタジーの女神のような美しい衣装を身に纏っていた。
「この子は『運命の輪』のアルカナの『フラ』だよ」
『宜しくね〜!』
フラは手をひらひらさせながらカウンターに降り立った。
『そうだ、お客様ならお水出さないと!待っててね〜今皆んなにお水出すから!んしょ!』
フラは自身の身の丈ほどある透明なコップを小さな両手で抱えて持ち上げ、丸いトレーの上に置いていく。今にも滑って落としてしまいそうで、見ていて物凄く不安になる。
「あっ、フラさんは4人を奥のテーブル席に案内して。水は僕が出すから」
『そう?じゃあお水はランちゃんに任せるわね〜』
フラはトレーから離れて輪の中に座り、再び宙に浮かんでふわふわと漂い始めた。
『お客様4名ご案内〜』
フラは楽しそうに飛んで和香里達を席に案内した。
『これメニュー表ね〜』
「ありがとうございます」
和香里はフラが持って来たメニュー表を両手で丁寧に受け取った。
ガシャーン!!
和香里がメニュー表を開いた所で、カウンターから何かが割れる音が聞こえて来た。
「うわっ!?何!?」
「大丈夫だよごめんね、僕が手を滑らせてコップ落としただけだから……」
(ランさんじゃなくて石英さんがコップ落としたんだ……)
『ええっ!?ランちゃんまた落としたの〜!?』
「蘭お兄さん、落としても大丈夫なように全部プラスチックのコップにしたと言ってませんでしたか?今ガラスが割れる音がしたような気がするのですが……」
(しょっちゅう落としてるんだ……)
『大丈夫か!?』
『ボクの『修復』の魔法で全部直しますよ!』
「大丈夫、何も割れてなかったよ。無事なコップにお水入れてくるからちょっと待ってね」
(あんな大きな音立てておいて何も割れてなかったんだ……)
数分後、無傷の石英が水が注がれたグラスが乗ったトレーを持って和香里達の前に現れた。
「蘭お兄さん、今日は魔物の買い取りをして欲しくて来たんです」
「本当かい?それはありがたいね」
蘭はトレーをテーブルの上に置き、皆んなの前に水入りコップを丁寧に置いていく。
「僕はね、表で魔物が自然発生するメカニズムを独自で研究してるんだ。もし原因が分かれば、事前に魔物の発生を防げるかもしれないからね」
「魔物の発生する原因を!?凄いですね……!えっと、確か表で暴れていた魔物を買い取ってくれるんですよね?」
和香里は鞄を開け、別で分けてあった魔物のカードをテーブルの上に出した。
「これで全部です」
最初に出会った魔物のブラックドッグ、河川敷で出会ったレッドホットボア、公園で出会ったゴブリンを石英の前に出した。
「うん、このカードから伝わる感覚からして、確かに表で暴れていた魔物だね。しかも進化系の魔物カードが2枚もある、これはいいね」
石英は魔物カードを全て回収し、エプロンのポケットに入れた。
「ちょっと待っててね」
石英はそのままカウンターの奥にある部屋に入り、茶封筒を持って再び現れた。
「これ、魔物の代金ね」
「ありがとうございます」
和香里は茶封筒を受け取り、封筒の中をそっと覗いた。
「えっ!?こんなに!?」
『ワカリ、どうした!?』
「いや、これ……1万円入ってますよ!?」
「うん、レッドホットボアの状態が中々に良かったからね。全部合わせて3万程入れたよ」
「3万!?」
『何だ!?それは強いのか!?』
「凄いよ!これでご飯山ほど買えるよ!?」
『うおおー!凄い!!』
和香里が驚き、それに合わせてゴコもテンションが上がった。
「これからは討伐した魔物は此処に持って来るといいよ」
「ありがとうございます!ですが、こんなに貰っていいんですか……?」
「大丈夫だよ。僕は他にも色々やってるから、お金には困ってないんだ」
『喫茶店は趣味みたいなものなのよ〜、だから例え喫茶店の売り上げが赤字でも此処が潰れる事は無いから安心してね〜!』
(それは安心して大丈夫なの……?)
何はともあれ、カード代を稼げる方法が見つかり一安心だ。
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