第6話 新たなアルカナバトラー
和香里がカードゲーム部に入った日の夜……
「うーん……」
今日一日のやる事を全て済ませ、後は寝るだけとなった和香里は、ベッドの上にカードを並べながら難しい顔をしていた。
『むむむ……』
外に出たゴコは和香里と向かい合って座りながら、和香里の真似をして考えるフリをしている。
(私は初心者だし、とりあえずカードを持ってくだけでいいとは思うけど……『デッキ』ってやつも一応作っといた方がいいのかな……弟のお陰で一応ギリギリ1つ作れるくらいのカードはあるけど……でも、現実で使うカードを取ったらデッキに使用する山札が足りなくなるし……ただでさえ足りないのに、今日も幾つかカード使って使用出来なくなったし……)
和香里は頭を悩ませながら使用不可になったカードを持って立ち上がり、机の引き出しを開けて『使用不能になったカード』の中に……
「あれ?色が戻ってる……?」
引き出しの中に入っているカードが全て綺麗に戻っていた。昨日使用した『重厚な鉤爪』を手に取り、じっくり見つめる。
「使用したカードは次の日には復活する……って事かな……」
何はともあれ、これで使用分とデッキ分のカードを確保出来て一安心だ。和香里はカードを片付けてからゴコをカードに戻し、そのまま眠りについた。
次の日の放課後……
「失礼しまーす」
「翡翠さん!カード持ってきたよ!」
和香里と綺羅はカード片手に、カードゲーム部の部室である美術室に入った。
「いらっしゃいませ。お2人ともアルカナカードを持ってきたみたいですね」
「うん。まあ私はデッキの組み方も碌に知らない感じだから、あるカードを適当に入れてきた感じだけどね……あっ、ちゃんと同じカードは3枚以内にはしてあるからね」
「いえ!デッキを作ってきてくれただけでも物凄くありがたいです!ルールはこれからゆっくり学べばいいので、そう強く身構えなくても大丈夫ですよ」
「翡翠さんありがとう……」
翡翠はとても優しい心の持ち主のようだ。
「……あれ?翡翠さん上履き逆じゃない?」
「えっ!?あっ!本当だ……朝から足元に違和感があると思ったら……」
そしてうっかりやでもあるようだ。
「えっと……お2人はどれくらいアルカナカードのルールを知ってますか?」
「私はとりあえずルールは一通りネットで調べた感じかな……」
「あたしは何回か戦った事はあるよ」
「闘志さんはバトル経験があるんですね?闘志さん、とりあえず才語さんのチュートリアルも兼ねて、一回私と勝負してみませんか?」
「えっ!?いや、あたしはそんな……!?」
「あっ、私も綺羅と翡翠さんが戦う所見てみたいかも」
「ええっ!?和香里まで……!?」
和香里の期待にたじろぐ綺羅。
「……よし、分かった!翡翠さん、あたしとアルカナカードで勝負して!」
だが、覚悟を決めると改めて気合を入れ直し、綺羅から翡翠にカードバトルを申し込んだ。
「はい!では早速準備を始めましょう」
そして2人は机越しに向かい合い、カードのセッティングを始めた。
「まずは通常の山札、そしてアルカナカードの山札を分けて隣同士に並べます。そして通常の山札から5枚カードを取り出して準備完了です」
「次はジャンケンで先行後行を決めるよ!ジャーンケーン……ポン!」
綺羅はグー、翡翠はチョキ。ジャンケンは綺羅が勝利したようだ。
「よし勝った!あたしは先行で!」
「分かりました。私は後行、これでついにバトルが始まります」
「おぉ〜ついにアルカナカードバトルが……」
「初心者の和香里さんの為にも、分かりやすいバトルを心掛けますね」
「そうだね!あたしも気をつけるよ!じゃあ早速山札から1枚引いて、あたしは護衛側にアイスゴーレムを設置するよ!」
綺羅は手札から真っ白なゴーレムが描かれたカードを場に出した。
「簡単に説明すると、前衛が攻撃、護衛は自分を守る魔物、という感じです。なので、護衛側には体力多めの魔物を置くのがお勧めです」
「成る程……」
こうして、説明を交えた優しいカードバトルが幕を開けた。
数分後……
「闘志さん、貴方……素人ではありませんね……?」
「へへっ……翡翠さん、強いじゃん……思わずガチになっちゃったよ……」
「闘志さんのデッキ構成はアニメの主人公と同じ……闘志さんは少なくとも無印アニメ視聴済みのガチ勢……!これは気を抜けません!」
「凄い……!よく分からないけど物凄い戦いだ……!」
何故か綺羅と翡翠の2人は説明そっちのけで盛り上がり、それにつられて和香里も思わず白熱してしまった。
結局、あまりルールを解説されないまま今日の部活動は終わってしまった。
「和香里ごめん!思わず2人だけで熱くなっちゃって……!」
「よく分からなかったけど、凄いバトルだって事は分かったよ。私も何だか楽しかったし」
綺羅と和香里はバス停前で、別々のバスを待ちながら今日の部活動の話をする。綺羅は先程からずっと和香里に謝罪している。
「それにしても、まさか綺羅もあんなにアルカナカードに強いとは……」
(後半は何が起こってるのかは分からなかったけど……)
「いや、今日の勝負は翡翠さんが勝ったから。あたしはまだまだだよ……あっ、あたしのバス来た!和香里じゃあね!また明日!」
「うん、じゃあね〜」
綺羅は別れの挨拶をしながら停車したバスに乗り込んでいった。バス停には和香里1人だけが残った。
「もっとカード増やさないとなぁ……」
現在、弟のおかげでそれなりの量のカードを所持している和香里。
(でも、改めてカード買いに行くとなると少し恥ずかしいかも……前にコンビニ行った時は緊急事態だったから買えたけども……いや、魔物が外で暴れてる事を考えたら恥ずかしがってる場合じゃ無いって感じだけど……)
などと、もやもやしながら考え事をしてると遠くから何かの鳴き声が聞こえてきた。声の主は、このバス停から少し離れた先にある大きな公園にいるようだ。
(動物が公園に迷い込んだかな……?)
なんて呑気に考えながら、和香里は公園の方をぼーっと見つめた。
「……えっ!?何あれ!?」
大きな公園の中を走り回っていたのは明らかに動物では無かった。ギャーギャーとわめきながら広場を走り回る謎の軍団。人の背丈の半分くらいの大きさだが、1匹1匹は手に棍棒のようなものを所持していた。
「あれってどう考えても怪物じゃん!」
和香里はゴコのアルカナカードを取り出しながら大慌てで公園に駆け込む。
「ゴコ!出てきて!」
『おう!どした!?』
「あれ!公園に何かいる!」
『あのうじゃうじゃしてるやつか!』
「そうそれ!あれ、魔物カードの『ゴブリン』っぽいけど……」
奴らは相変わらずギャーギャーわめきながら走り回っている。だが、その群れの1匹が近くを散歩していた一般人のお姉さんを発見すると、大きな奇声を発して一般人に集団で襲い始めた。
「うわーっ!?何!?何なの!?」
「ヤバい!あれ人襲ってる!ゴコ!」
『任せろ!!』
ゴコはフルスピードで一般人の元まで駆け寄ると、飛んできた魔物を1匹、また1匹と潰し始めた。
「キャーーー!!」
お姉さんは悲鳴を上げながら公園から離れた。その間にもゴコは、周りのゴブリンを次々と潰していく。
『多すぎる!!』
魔物達はゴコの攻撃を受けて次々と消えていくが、ゴコが潰した数の倍の魔物が次々とゴコに襲い掛かっていく。
(このままじゃゴコが危ない!えーっと、何か良いカードは……)
和香里はゴコを助けられそうなカードを必死に探していると……
『ギャーーーー!!』
ゴコの前に一際大きなゴブリンが姿を現した。恐らく、このゴブリン達のリーダーなのだろう。
(もしかしたらあのリーダー格のゴブリンを倒せば、周りのゴブリン達の攻撃が少しは止むかも!)
「ゴコ!まずはあの大きなゴブリン倒して!」
和香里は武器カードを構えながらゴコに指示を飛ばした。
『おう!』
ゴコは周りのゴブリンを蹴散らすと、リーダー格のゴブリン目掛けて一直線に駆け抜けた。周りを跳ね回るゴブリンを殴ったりかわしたりして、あっという間にリーダーゴブリンの前に辿り着いた。
「『ビリショック』!」
ゴコがリーダーゴブリンに攻撃する寸前、急に上から女性の叫ぶ声が降ってきた。
『ギャッ!?』
『グエッ!?』
それと同時に、破裂音と共に周りのゴブリン達に次々と電流が走り、次々と地面に倒れ込んでいく。
(これってもしかして魔法!?まさか私の他にもアルカナバトラーが……!?)
『ワカリ!上だ!』
「上……って、ええっ!?」
ゴコが指差した建物の上には……
「翡翠さん!?」
しかも、その翡翠の隣には透明スライムの姿もあった。スライムの透明な体の中に電気の塊のようなものが漂っている。
「才語さん!ゴブリン達はリーダーを失うとバラバラに行動し始めます!取り残しを無くす為にも、まず先に子分のゴブリンを最優先で倒して下さい!」
「分かった!ゴコ、今の聞いた!?」
『でっかいのよりちっさいゴブリンから片付ければいいって事か!』
「そう!」
『ゴコに任せろ!!』
ゴコは大きく頷くと、周りの子分ゴブリン目掛けて走っては次々と殴り倒し始めた。ゴコに殴られたゴブリンは次々とカードに戻っていく。
止まったゴブリンはもはやゴコの敵ではなかった。あっという間に子分ゴブリンを蹴散らし、ついにリーダーゴブリンと対峙する。
「これで最後!ゴコ!」
『おう!』
和香里はゴコのアルカナカードの上に『重厚な鉤爪』を乗せた。
『これで終わりだ!!』
ゴコは両手に現れた鉤爪を使ってリーダー格のゴブリンを思い切り切りつけた。
『ギャァアアアアア!!』
リーダーゴブリンはおぞましい悲鳴を上げながらその場で消滅した。
いつの間にか暗くなった公園内、辺りに散らばる沢山のカードを見つめながら、和香里は1人でホッと安堵した。
「翡翠さん!さっきは助けてくれてありがとう!」
そして建物の上にいる翡翠に顔を向け、お礼の言葉を述べた。
「……」
だが、翡翠は何も返事をしなかった。何やら考え事をしているようだが、やがて決心したのか真剣な顔で和香里に向き直った。
「才語さん、貴方がアルカナバトラーに相応しいかどうか見定める為に、アルカナバトルで勝負して下さい!!」
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