第5話 カードゲーム部
いつも通りに授業が終わり、放課後……
「和香里!部活動見学しに行こっ!」
帰りのホームルームが終わった瞬間、友達の『闘志綺羅(とうしきら)』が和香里に元気な声で話しかけてきた。
「いいよ〜、綺羅は何処に入るか決めた?」
「ぜーんぜん!だからこそ部活動見学しに行くんだよ!」
綺羅は相変わらずのハイテンションで和香里と会話をする。
「だよね〜、じゃあ行こっか」
「うん!あっ、そうだ!芽留も部活動見学に誘いたいんだけど、和香里は芽留が何処いったか知ってる?」
「芽留はもう卓球部入ったってさ。ホームルームが終わったらすぐに卓球部行ったみたい」
「そっか〜!やっぱ芽留は中学と同じ部活動にするんだね!じゃ、とりあえず2人だけで部活動見学しに行こっか!」
「うん!」
こうして2人は、部活動見学の為に1年1組の教室から出て廊下を歩き始めた。
「……あれ?上で誰か揉めてない?」
「上?和香里、何か聞こえた?」
「うん、さっき上から怒鳴り声がしたような……」
「マジ!?あたしちょっと上見に行ってくる!!」
「私も行く!」
綺羅が急いで階段を駆け上がり、和香里も鞄を開けながら綺羅の後に続いた。
「あっ、居た!」
美術室の前で数人の生徒が揉めているのを発見した。
「お前が
「そうじゃなきゃアイツが柔道部ほったらかしてわざわざカードゲーム部なんかに入らねぇんだよ!!」
「違います!私は誰も部活動に勧誘してません!」
ガラの悪い男子生徒2名が、丸メガネの可愛らしい女子生徒を怒鳴っていた。どうやら龍十と呼ばれる生徒に関してトラブルが発生したらしい。
「嘘つけ!俺は知ってるんだよ、お前が所属しようとしているカードゲーム部の部員が今年で4人未満になったから、これ以上部員が入らないと廃部になるって事をよぉ!!」
「だから違います!勧誘するにしても、カードゲームが好きな人しか誘いません!」
「うるせぇ!これで柔道の全国大会逃したら全部テメェのせいだ!例え1年生だろうが容赦しねぇぞ!」
「やっちまえ!」
「危ない!!」
男子生徒2名が1人の女子生徒に襲い掛かり、綺羅は慌てて女子生徒を庇いに走った。
(呪文、間に合って!)
一方和香里は鞄の中から『瞬間移動』のカードを掴み、メガネ女子に意識を集中させた。
「うおっ!?」
男子生徒の前からメガネの女子生徒が一瞬で消えた。男子生徒が振りかぶった拳は空を切って壁に激突した。
「きゃっ!?……あ、あれ……?」
メガネの女子生徒は私の隣に姿を現した。辺りをキョロキョロと見回し、何が起こったのか理解しようとしているようだ。
(よし!上手くいった!)
「ってぇ〜!なんなん……あ?何だお前ら?」
「先輩!喧嘩はやめて下さい!」
その間に綺羅が美術室の前に飛び出し、そこにいる男子生徒2名を落ち着かせようとしている。
「何だと……?」
「テメェ、あのメガネ何処にやりやがった!?」
だが、相手は未だに怒りが冷めやらない様子だ。
「お前もあのメガネを庇うなら容赦しねぇぞ……」
男子生徒の1人は拳を鳴らして綺羅に近付く。
(1人だけなら止められる……!)
和香里は鞄から残り1枚しかない『停止』カードを掴んだ。
「おい待て!」
だが、そこで男子生徒の1人が戦闘体制の男子生徒を呼び止めた。
「なんだよ急に……」
「あのよぉ、コイツってまさか……闘志の妹じゃね?」
「闘志……柔道部のキャプテンの?まさかそんな……」
「あれ?もしかして2人とも
「「!?」」
男子生徒2名は綺羅の兄の名を聞いた途端、肩を跳ね上がらせて驚いた。
「ま、まずいぞ!妹に暴力振るおうとしたのがバレたらキャプテンに殺される!!」
「逃げろ!!」
男子生徒達は大急ぎでその場から逃走し、その場に和香里と綺羅と女子生徒の3名が残った。
「あ、ありがとうございます……!急に怒鳴られて気が動転して何も出来なくて……」
「あんな先輩に詰め寄られたら誰だって動けなくなるって!えーっと、君は……」
「私は1年2組の『翡翠鳴(ひすいなる)』です。先程は危ない所を助けて下さりありがとうございます」
翡翠は2人に向かって丁寧に礼を述べて深々と頭を下げた。
「翡翠さんが無事で良かった!あっ、あたしの名前は闘志綺羅!宜しく!」
「私は才語和香里、宜しくね」
「闘志さんと才語さんですね」
「そうそう!所で……翡翠さんってカードゲーム部に所属してるの?」
「はい。私はカードゲーム、特にアルカナカードに興味があったので、思い切ってこの部に入ったのですが……どうやら今年で3年生が部活動を辞めて、私以外に誰も部活動に参加する人が居なくなったようで……」
「そっか……さっきの話からして、今カードゲーム部の部員足りてない感じ?」
「はい……このまま1年生が入らなかったら廃部になるとの事です……なので、とにかく今は誰かがカードゲーム部に入るのを待っている状況で……」
「成る程……」
先程の話からして、後2人が部活に入ればカードゲーム部は継続して活動出来るのだろう。
(私も現在進行形でアルカナカードを学ぼうとしてたし、丁度いいかもしれない……)
「翡翠さん」
「はい、どうしましたか?」
「あの、もし良かったら私もカードゲーム部に入部したいんだけど……最近弟の影響でアルカナカードに興味を持って……」
「えっ本当ですか!?カードゲーム好きなら大歓迎です!」
カードゲーム部に入ると宣言した和香里を大喜びで迎える翡翠。
(翡翠さん物凄く嬉しそう……ん?)
和香里が喜ぶ翡翠を眺めていると、翡翠の足元に謎の物体を発見した。
(えっ……何あれ……)
謎の物体は丸い手足につぶらな瞳が付いた透明なスライムのような姿をしていて、大きな三角帽子とマント、そして魔法使いが持っているような大きな杖を所持していた。
『わわっ!?気付かれた!?』
謎のスライムは私の視線に気が付くと、翡翠さんの足元にサッと隠れてしまった。
(アレは一体……?)
和香里は思わず翡翠の足元を凝視する。
一方、綺羅は明後日の方角を向きながら何やら考え事をしていた。
「へぇ〜和香里はカードゲーム部にねぇ……」
「……あっ、うん。カードゲームって頭使うって聞くし、脳のいい運動にもなるかな〜なんて思ってさ」
「そっか〜……いい運動ねぇ〜……」
「?」
先程から綺羅の様子がおかしい。妙にそわそわしながら翡翠の方をチラチラ見つめている。
「いや、深い意味は無いんだけど、折角だしあたしもカードゲーム部に入ってみよっかな〜なんて思ったりして……いや、深い意味とかは特に無いんだけどね!?アルカナカードってやつがちょっと気になったって言うか〜!!」
どうやら彼女はカードゲーム部に興味があるらしい。妙な態度だが、それでもカードゲーム部に入るつもりらしい。
「えっ!?闘志さんも入ってくれるんですか!?ありがとうございます!……あっ、闘志さんは柔道部とかは……」
「あっ!あたしは特に他の部活に入る予定は無かったから!大丈夫!」
「良かった……!これで部活動を継続できます!では、改めてお2人とも宜しくお願いします!」
「うん、宜しく!」
「宜しくお願いしまーす!!」
「本格的な活動は明日から始めます!明日の放課後、所持しているカードゲームを持って美術室に集まって下さい」
「分かった!じゃあね!」
「さよなら〜、明日カード持って来るね〜」
とりあえず今日は一旦解散し、次の日にカードゲーム部の活動を始める事になった。和香里と綺羅は翡翠に別れの挨拶を述べて学校から立ち去った。
「……」
1人残った翡翠は、美術室に入ると所持していたカードケースを開けてアルカナカードを机の上に広げた。
『ナル〜!』
そこに先程翡翠の足元にいたスライムが現れ、ピョンと机の上に飛び乗った。
『部活動に新しく2人来たから、これでカードゲーム部の活動が出来るね!』
「はい、先輩方に襲われた時はどうなるかと思いましたが……何とかなって本当に良かったです」
『ボクの魔法をぶつければあんな2人、一撃で倒せたのに!』
「リスタル、一般人相手に魔法を使ったら駄目ですよ」
翡翠はスライムの『リスタル』の頭を撫で、優しくなだめる。
『そうだ!あの才語って人、アルカナカードの呪文使った上にボクをはっきり視認してたよ!きっとあの人もアルカナバトラーだよ!』
「才語さんは私を助ける為に、相手を傷つけない魔法で私を助けてくれましたね。あの人はきっといいアルカナバトラーだと思います。アルカナバトラー同士で友達になれたらいいのですが……」
『きっとなれるよ!時が来たら、先人にならって友情の儀式をすればきっと友達になれる!だから大丈夫だよ!』
「……そうですね。さて、今日のところは私達も帰りましょうか」
翡翠は机の上に並べたカードの中から目当てのカードを数枚取り出し、残りのカードをカードケースの中にしまった。
「リスタル、宜しくお願いします」
『空飛ぶやつだね!勿論いいよ!』
翡翠はリスタルのアルカナカードに『飛翔』のカードを重ねた。
『いよいしょ!』
リスタルはマントを大きく広げてその上に乗り、魔法の絨毯のように浮遊して空を飛び始めた。リスタルは浮遊して美術室の窓から外へと移動した。
「『施錠』!」
翡翠が美術室の内側の扉に向かって『施錠』カードを使用すると、ガチャリと音が鳴って美術室の扉に鍵が掛かった。更に美術室の電気を消して全ての窓も閉めて手動で鍵を掛けた。
「『瞬間移動』!」
そして外で浮かんでいるリスタル目掛けて『瞬間移動』のカードを使用した。翡翠は一瞬でリスタルの大きな絨毯の上に移動した。
『では、出発進行!』
翡翠が絨毯の上に座るのを確認したリスタルは、絨毯を操作して家に向かって飛び始めた。
『ナル!家帰ったらアルカナバトラーのお話見たい!』
「いいですよ、ですがその前にいつもの喫茶店に……あっ!私上履き履いたままでした!リスタル、靴を取りに行きたいので学校の玄関に戻って下さい!」
『分かった!』
リスタルは慌てる翡翠の指示に従って一旦学校に戻ったのだった。
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