第4話 いつもの日常と非日常
次の日の朝……
ピピピ……ピピピ……
デジタル時計の電子音が鳴り、和香里はベッドの上で目を覚ました。
今日は平日の登校日。いつも通りに起床した和香里は、ベッドの端に置かれている時計を確認し、その隣に立て掛けているゴコのアルカナカードを見つめた。
アルカナカードの中のゴコは、絵の景色の中を全力で駆け回っていた。
『あっ!ワカリ!』
カードを見つめる和香里に気付くと、両手をブンブンと振りながら和香里に近付いた。
「ゴコ、おはよう」
『おっはよー!!』
和香里はカードの中のゴコに挨拶をした。ゴコは嬉しそうに挨拶を返し、その場で元気よく飛び跳ねた。
『今日は何するんだ?』
「今日は学校行く日、だからゴコはカードの中で大人しくしててね」
『おう!』
和香里はゴコのアルカナカードと、昨日まとめておいた『使えそうなカード』を新しいタオルの中に包んで学生鞄の中に入れた。バラバラになるのを防ぎ、先生の突然の荷物チェックから逃れる為だ。
(タオルを2つ鞄に入れた所で不審がられない筈……アルカナカードを学校に持って行くのは気が引けるけど……いつ魔物に襲われるか分からないから、常に持っておかないと……!)
和香里は改めて気を引き締め、朝の支度を一通り済ませて学校に行く準備を済ませた。
(カードの効果をよく理解する為にも、後でまたネットでアルカナカードの基本を確認しないと……)
そんな事を考えながら自室から出て玄関に向かって歩いていると、起きたばかりで髪が爆発している弟の和方(わかた)が廊下にやって来るのが見えた。
「あっ!姉ちゃんおはよう!」
「おはよ〜」
弟の和方はいつものように元気な挨拶をする。和香里もいつものように挨拶を返した。
「あっそうだ。昨日のお土産渡さないと」
和香里は自室から昨日渡しそびれたアルカナカード1パックを持ってくると、弟に直接手渡した。
(昨日、弟のカードパック1つ勝手に開けちゃったからね……)
「はい、お土産」
「カードだ!姉ちゃんありがとう!」
「どういたしまして。じゃ、私はそろそろ学校行くね」
「行ってらっしゃーい!」
和香里は鞄を背負い直すと、ゴコと一緒に玄関に向かって歩き出した。
(あ、武器カード忘れてないかな……)
和香里は忘れたカードが無いか玄関先で確認した、その隙に学生鞄からカードが1枚滑り落ちてしまった。
「姉ちゃん、鞄から何か落ち……あれ?コレってアルカナカード?」
「あっ!?」
和香里は慌てて床に落ちたカードを拾い上げた。和方は慌てる姉を見て口をポカンと開けている。
「……さっき落ちたのってアルカナカードだよね?」
「いやちょっとね……えーっと、私もアルカナカードを始めてみようかなって思って……」
「マジ!?ホント!?」
弟の和方は姉の発言に目を輝かせて喜んだ。
「いや、ゆるーくやってみようかなってだけで、そんなガチでやるわけじゃ無くて……」
「絶対いいよ!姉ちゃんって追い詰められるとめちゃくちゃ頭良くなるから、すぐにアルカナカード強くなれるよ!」
「いやいや、買い被りすぎだって!」
和香里は頭を振って否定するが、和方は完全に乗り気のようだ。
「姉ちゃん!このパック、姉ちゃんにあげる!」
「えっ?それ和方へのお土産だよ?」
「いいんだ!すぐに戦いたいから、少しでも姉ちゃんのカードを増やさないと!そうだ、ちょっと待ってて!」
そう言うと和方は大急ぎで自分の部屋に戻り、カードを幾つか持って戻ってきた。
「これ余ってるカード!全部姉ちゃんにあげる!」
「ええっ!?こんなに!?流石に悪いって!」
「これも未来への投資って奴だよ!それに、カードも使ってくれる人の元に行った方が幸せだろうしさ!ねっ!」
「あ、ありがとう……」
(和方ってば相変わらずいい子過ぎる……この状況でカードが増えるのはありがたいけど、何だか申し訳ないなぁ……また今度、買い物に行った時に和方の分のカード買っとこ……)
和香里はとりあえず貰ったカードから武器カードを幾つか取って鞄に入れ、残りをを自室に置いた。そして改めて登校する為にアパートから出た。
少し歩いた先にある、誰もいないバス停の前で立ち止まる。ふとゴコの様子が気になったので、学生鞄を少し開けてゴコのアルカナカードを覗いた。
『うおおおおー!!』
ゴコはカードの中をひたすら走り回っていた。
(もしかして力を持て余してるのかな……?)
カードの中を縦横無尽に飛び回るゴコをじっと眺めている間に、目当てのバスが到着する。和香里は慌てて鞄を閉じ、急いでバスに乗車して空いている座席に座った。
(今のうちにカードの復習しとこ……)
和香里はスマホでネットを開き、アルカナカードのルールが記載されたホームページに飛んだ。そしてアルカナカードの『カードの基礎』の部分を真面目に読み始めた。
魔物カード、アルカナの見方……上中央の数字が体力、右下の数字が攻撃力、左下の数字が魔力。
攻撃は攻撃力、魔法攻撃は魔力の数字で相手にダメージを与える。攻撃は普通に行えるが、魔法攻撃をする際は魔法カードが必要になる。
因みにゴコのステータスは体力3000、攻撃力1000、魔力0である。
(魔法攻撃は魔法カードが必要。まあ、ゴコは魔法が苦手だから魔法カードの説明はあまり参考にならないかな……えーっと、武器カードの項目は……)
武器カード……魔物やアルカナに装備させて使用するカード。右下にある攻撃力を装備させた魔物の攻撃力に加算して攻撃が出来る。
(武器カードの攻撃力をプラスして攻撃……)
和香里は鞄を開け、先程弟から貰った武器カード『戦士の剣』を手に取った。戦士の剣のカードの攻撃力は200、ゴコが装備して攻撃すれば400の追加ダメージが入る。
(次は特殊魔法カードの項目を……)
和香里は更に鞄を漁って『停止』のカードに触れた。
「和香里ちゃんおはよっ」
「うわあっ!?」
熱心にスマホとカードを眺めていると、後から乗って来た和香里の友達『百々芽留(とどめる)』がバスに乗車して挨拶をして来た。和香里は驚いて危うくスマホを落としそうになった。
「あっ、芽留……おはよ、今日もいい天気だね」
和香里は隣に置いた学生鞄を膝の上に置いて一人分のスペースを開けた。が、芽留は空いた席に座ろうとはしなかった。
(あれ?いつもは隣に座ってくるのに……ん?)
芽留は挨拶した時の姿勢から全く動いていない。まるで時が止まってしまったかのように。
(ま、まさか……!?)
和香里はハッとして再び鞄を開け、先程見つめていた『停止』のカードを手に取った。
(カードが黒くなってる……!)
カードを使用すると黒くなるのは昨日のバトルで学習済みだ。つまりこれは、私が驚いた拍子に芽留に『停止』カードを使ってしまったという事だろう。
(停止カードは文字通り、相手の魔物カードを1ターン行動不能にする呪文カード……!まさかゴコ無しでも呪文が発動するなんて……!)
なんて考えている間にバスは発車した。芽留は揺れる車内でずっと瞬きせずに停止し続け、周りの人は芽留を怪訝そうな顔で見つめている。
(ヤバい!早く解除しないと!)
和香里は急いでカードを漁り、中からお目当ての『制限解除』のカードを発見した。
(このカードは味方の魔物1人の行動不能を取り除く呪文カード。これを使えば芽留も元に戻る筈!)
『制限解除』のカードを急いで手に取り、停止した芽留をじっと見つめながら全身に力を込めた。
「……うん、いい天気だね」
呪文カードが黒くなり、芽留は再び動き始めた。そして芽留はいつものように和香里の隣の席にそっと腰を下ろした。
(良かった……ちゃんと呪文使えたっぽい……)
和香里は胸を撫で下ろしながらそっと鞄を閉じた。
(次からは人気の無い所でカード触らないと、いつか大事故になりそう……)
「ねぇ和香里ちゃん、さっき熱心にスマホ見てたけど、何見てたの?」
「いや、ちょっと調べ物を……」
「ふぅん……あっそうそう、和香里ちゃん昨日橋の近くに居たよね?あれ何してたの?」
「えっ!?」
(まさか昨日、私がゴコにおぶられて移動してたのを、よりによって友達の芽留に見られてたなんて……!でも芽留は私の事だけを覚えてるみたい……)
「因みになんだけど……私がどんな風に移動してたか見てた?」
「えっ、移動の仕方?確か和香里ちゃんは…………あれ?どうだったっけ……確か物凄く速く移動してたのは覚えてるんだけど……たしか自転車だったかな?」
(良かった……ゴコにおぶられてた事は覚えてないんだ……!)
どうやら芽留はゴコの事まではよく覚えていない様子。その答えに和香里は一安心する。
「そうだ。芽留は部活動何処に入るか決めた?」
和香里はとりあえず話題を逸らす為に部活動の話を芽留に振った。
「部活動?私はとりあえず中学同様、卓球部に入るつもりだよ」
「そっか〜、確かに中学の時は熱心に卓球やってたもんね!」
「うん。和香里ちゃんは何処に入るの?」
「私はバイトしたいからあまり真面目な部活動には入りたくないんだよね〜。でも部活動は絶対に入らないといけないから、とりあえず適当は所に入ろっかなって思ってるよ」
魔物を倒す為にも、今はとにかくカードを買い集めないといけない。とりあえず短時間だけ入れるアルバイトを探して入り、そこで稼いだお金でカードを購入しようと考えていた。
「……和香里ちゃん」
「ん?芽留、どうしたの?」
「ウチの学校、バイト禁止らしいよ」
「……えっ?」
芽留の言葉に和香里は言葉を失った。
「……マジ?」
「うん。前に卓球部の先輩がこっそりバイトをして、そのバイトがバレて先生にこっぴどく叱られたって言ってたよ」
「マジか……」
「ドンマイ」
まさか自分が通う高校がアルバイト禁止だとは知らなかった。
(定期券だからバス代を浮かせる事は出来ないし、バス使わないからってお小遣いは増えないだろうし……仕方無い、今はお母さんのお手伝いを増やしたりお小遣いをやりくりしてカード買うしか無いか……)
和香里はガックリと肩を落とした。芽留は落ち込む和香里の肩をポンポン叩いて無言で慰めていた。
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