お部屋見学、紅葉さんの部屋

 そういえば宮杜さんや七瀬さん、紅葉さんと集まるのって共有スペースか俺の部屋で、三人の部屋ってちゃんと見たことがないんだよな。


「夜は女子の階は男子禁制になりますからね」

「赤木君の部屋は門限を気にせず使えるからね」

「昼間なら女子の階にも入ってOKだけど……。昼間ならそもそも共有スペースで話すものね」


 という至極まっとうな理由があるのだが、みんながどんな部屋で生活しているのか気になる。


「俺の部屋は無機質極まりないだろ? だから、レイアウトを参考にしたいなって思ってさ」


「なるほど、ルームツアーをしてみたいって訳ね。確かにそれは面白そうね。私も赤木君ほどじゃないけど、かなり無機質な部屋だから二人の部屋って気になるかも」


 そう同意したのは紅葉さん。


「面白いと思います! あ、でも私の部屋、今ちょっと散らかってますから、片づける時間さえいただければ問題ないですよ」

「私も……ちょっと片づける時間が欲しいかも……」


「私は問題ないわよ。散らかってないし」


 宮杜さんと七瀬さんは片づける時間さえあるならOK、紅葉さんはいつでもオッケーとの事。


「じゃあ、昼ご飯の後にでもルームツアーにしようか」



 まずは紅葉さんのお部屋にお邪魔することになった。


「お邪魔します」

「わあ! なんかカッコいい物が!」

「綺麗ですね」


 まず目に入ったのは入ってすぐの所に置いてある額縁。中には精緻な刺繍作品が飾ってある。何やら複雑な幾何学模様が描かれており、魔方陣っぽいというか、中二心をくすぐられるデザインだ。


「これは何代も何代も火の巫女の家系に受け継がれている物なの。伝承によると、災いを避ける効果があるらしいけど……詳しくは分からないわ」


「へえ~! それはなんか凄そうだね!」

「いつの時代に作られた物なんでしょう?」


「それが全く不明らしいの。普通の品なら科学的な方法で年代測定をすればおおよその年代を推測できると思うのだけど、これに関してはほぼ全てが魔物からのドロップアイテムで出来ているから、それが出来ないのよね」


「ドロップアイテムから作られているという事は、何かの魔道具でしょうか?」


「かもしれないわね。ただ、現時点で明確な効果はないとされているわ。隠された機能とかあったら面白いと思うけど……。赤木君なら、何かわかったりする?」


 紅葉さんはそう言って俺の方を見てきた。


「魔道具なら、起動状態にできれば『アナライズ』で解析可能だけど、今は動いて無さそうだから……」


「そうよね……」


「その模様と同じように魔力を流せば魔法として再現できるかも? ちょっとやってみるか」


「そんなことできるの?」


「まあな。……あ、見えた!」


 魔力操作によってその魔道具に書かれた魔方陣を再現すると、それっぽい魔法が完成した……のだが。その効果が謎だった。


「火魔法に特化したデバフみたいだぞ? え、デバフ? なんで?」


「なるほどね、流石赤木君ね。長年の謎が解明されたわ」


 俺は混乱したが、紅葉さんは納得しているようだった。どういう事だろう?


「つまり、巫女の継承が幼時期に起こってしまった場合、力を暴走させかねないでしょ? そうならないようにって生み出された物なんじゃないかって思うの」


「はあー、なるほどなあ。そういう事だったのか。よく分かったなあ」


「今でも似たような物があるからね。それよりもコンパクトな道具が」


「……」


 あれだな、古い井戸を発見したはいいものの「水道引いてるしなあ……」ってなってしまった感じだな。



「じゃあ次はリビング兼勉強部屋ね、こっちよ」


 俺の場合は「勉強机、テーブル、椅子、以上」みたいな空間だが果たして。


「へー、地味って言ってた割には、すごいおしゃれじゃん!」

「なんだか落ち着く空間だね」

「凄くいいと思います!」


「そ、そう? ありがと」


 一言で言うと「和モダン」とでもいえばいいのだろうか、和風な内装ではあるのだが、古風という訳ではなく若々しさも感じる。そんな内装になっていた。

 例えば床に敷いてあるカーペットは畳調。部屋の隅に置かれているランプは、竹細工で出来ている。なんかいいな、こういう雰囲気。


「お、もしかしてあそこに置いてある陶器ってすっごい高い奴だったり?」


 ふと目についた茶碗らしきもの、いかにも高級そうな見た目だ。きっと何千万円もするものなのだろう……。


「ああ、あれ? あれは私が小学生の時に体験実習みたいなので作った奴よ。我ながらいい出来だったから今でも飾ってるのよ」


 え、まさかの回答に俺と隣にいた宮杜さんは驚く。


「マジで? 小学生であのクオリティーはすごいな……」

「いや、小学生じゃなくてもこのクオリティーはすごいですよ……」


「そうかしら? 私、こういうの得意だったから。工作とかそういうの」



「ねーねー、紅葉さん! これってなあに?」


 今度は七瀬さんが何かを発見したようだ。岩のオブジェ?


「ああ、これはここのスイッチを入れると、ほら、こんな風に水が流れるの」


「わあ、可愛いね! 部屋に居ながらにして、せせらぎの音を楽しめるって訳だね!」


「ええ、そういう事。心癒されるわよ。作った甲斐があったわ」


「これも作ったの?!」


「ええ」



 紅葉さんにこんな趣味があるなんて知らなかった。なんだか知らない一面を知ったようで、少し嬉しくなった。





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