敵の情報
「敵から聞き出せた事は大きく分けて二つあるわ」
紅葉さんは指を二本立ててそう言った。
「まず一つ目は違法な魔道具について。情報をもとに、いくつかのアジトをつぶす事が出来たわ。まあこれについてはそんなに大きな問題じゃあないわ。私達が出来る事と言ったら、変な魔道具は買わないってことくらいかしら」
そうだな。今の俺たちに、逮捕権なんてあるはずもない。まあ、光の巫女関連って明らかに分かっている状況下なら紅葉さんのお母さんがいかようにも「処理」してくれそうだけど、違法な魔道具の販売とか、俺達にはどうしようもない事だ。
「二つ目が問題なのよ。それが彼らの方針と目的について。方針なのだけど、彼らの目標は『魔法のない世界を生み出し、本来の世界を取り戻す事』らしいわ。彼らの中でフォルテは魔物と同等の存在であり人権なんて存在しないモノと考えているみたい」
ゲーム版と同じような感じだな。
「え、でも自分たちもフォルテですよね?」
「ええ。だから最終的には自分自身の能力も消す必要があるって言ってたわ。ただ、それは最終段階で、まずは圧倒的な力を手に入れるんだって」
「ええ……」
「それって本末転倒ではないでしょうか……?」
確かにそう思うよな。ゲームでも主人公の友人キャラが同じようなコメントをしていた。それに対して、主人公はこうコメントしていた。
「なんだかあれだな。戦争を終わらせるために、戦争をするって感じだな……」
「「……」」
「そうね。彼らは『フォルテと魔物は喧嘩をする子供』とでも思ってるんじゃあないかしら。で、それを終わらせるべく『喧嘩を止める大人』になろうって事かしら? 犠牲無しにそれを実現できるなら歓迎するのにね」
「だが、ある意味良かったのかもな。彼らの方針が『地球のすべてを滅ぼしてやる』だったら本当に不味いけど、彼らはあくまで『フォルテは人間じゃない』って方針なんだろ? つまり、一般人への被害は少なくなるかもしれない」
「ええ。実際、彼らは『市民には一切手を出さない』って言ってたわ」
だから「宮杜さんや俺の家族が人質に」なんて事にはなっていないのだ。
「話がそれちゃったわ。ここまで彼らの方針と目的について話したけど、次は手段についてよ。こっちが厄介かもしれないわ」
「手段……」
「それって最強になる手段ってこと?」
「ええ。前にも言ったみたいに、彼らは巫女に関する研究をしているわ」
「だからこそ、紅葉さんや私を狙うんですよね?」
「ええ。巫女はただ『ちょっと強い』では済まされない程の何かがあるからね。例えば、巫女は魔法妨害のデバフの影響をほとんど受けない、とか」
「え?」
「そうなんですか?」
「それってすごくない?! 神名部さん涙目だよ」
「ええ。ただ、原理は一切解明されていないの。世界中の研究者の協力を仰げたらいいのだけど、残念ながら巫女の存在は世間には秘匿されてるから……。もしかしたら彼らの方が真実に近づいている可能性すらあるわね」
そう言って紅葉さんは溜息を吐いた。巫女の存在は既存の宗教と大きく対立する可能性があるとして秘匿されてるんだっけか。
俺は特別何かの宗教を信仰している訳じゃあないから何とも思わないが、幼少期から宗教に触れてきた人たちにとって、宗教はその人の根源となっている。それを壊す訳にはいかないって事だろう。
かつて宗教によって科学が抑圧された時期があったと聞くが、まさにそれと似たようなものが今も起きているという事か。そりゃあ、ため息もつきたくなるよなあ。
「それでね。巫女の研究の中で、彼らは複数属性を操れる存在を生み出して戦闘要員にしているらしいわ。光と土、土と風、みたいに。彼らはそれを『マルチ』って呼んでいるんだって」
七瀬さんと宮杜さんが俺の方を見る。
「違うぞ?」
「分かってるわよ、あなたの事は信頼してるし、疑っていないわ。ただ、これによって赤木君の事を今以上に厳重に秘匿する必要が出てきたとも言えるわ。今回捕まえた奴らは下っ端だから詳しいところは知らないみたいだけど、少なくとも全属性を使える存在は作れていないそうよ。だから、赤木君の事が敵にばれたら……」
「奴らは是が非にでも俺をとっ捕まえてサンプルにしようとするだろうな」
ゲームでもそうだったからなあ。怖い怖い。バッドエンドだけは勘弁だな。
「でしょうね。なんなら水の巫女たる宮杜さん以上に魅力的なサンプルになるでしょうね。そう言う意味でも、赤木君が今までそれを秘匿していたのは本当にいい判断だったと言えるわね」
「ひええ……」
「魔物よりも恐ろしいですね……」
「ええ。それと、彼らは人工の巫女を生み出そうとしているとも言ってたわ。そっちはまだ実現していない……らしいけど、仮に実現していたら巫女を捕まえる必要がなくなるからね」
「わーお、そんな研究までやってるのか」
「もしできたらすごいよね」
「私のアイデンティティーの危機ですね……」
その後、「そんな訳で、赤木君の事は絶対に口外しないように」と再度注意が入ってその場は解散となった。
◆
はあ、敢えて考えないようにしてたけど、そろそろ真剣に考えないとだよな。あの先輩の事を。
最初から怪しいとは思っていた。けど、まさか本当に……。
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