火を噴く馬、名前はキリン

 麒麟とは伝説上の生き物で、龍のような顔を持つ四足歩行の生き物だ。性格は心優しく、無駄な殺生はしない生き物とされている。

 一方で騏驎は一日で千里走る程の名馬と言う意味で使われることがある。ちなみに千里とは3900kmなので、3900km/day=162km/hである。高速道路で走っている車よりも早い計算だ。

 最後にキリンは動物園で見かける首の長い動物を指す言葉としても用いられる。見た目が伝説上の麒麟に似ていたからそう名付けたのだろうか?


 さて。上記三つの性質を持った謎生物がサバンナに現れる。「麒驎」という動物で、色合いはキリンのように黄色の下地に茶色の斑点が付いている。ただし見た目は完全に馬であり、鳴き声もヒヒーンである。また、頭からは小さく龍の角が生えており、火を噴く能力を持っている。ほら、三つのキリンを無理やりくっつけた感じだろ?


 今日は特にこいつのRドロップ「麒驎刺し」を狙おうと考えている。理由は単純に食べてみたいからだ。……いや本当にそれだけなんだ。


「でも、確かに馬刺しって食べたことないから、どんな味なのか気になるかも!」

「私も食べたことないですね。というか、生のお肉を食べたことがないです」


「俺もないんだよな。というか市販品の肉を生で食べるのは危険だからな、食べたことがある人の方が少ないと思う。麒驎刺しに関してはダンジョンからのドロップだからな、生で食べても安全だ」


 ドロップアイテムはドロップした瞬間は無菌なんだ。だから、その日の内に食べる分には安全である。無論、幾らドロップアイテムでも、常温で放置していたら腐るから、すぐに食べるべきだな。


「そういう訳で、サバンナ探索へゴー!」

「「ゴー!」」



 運が良かったようで、サバンナ探索を始めてから最初に出会った魔物が麒驎だった。草原の中を悠々と歩いている姿はなかなかカッコイイ。


「物理攻撃に対して耐性があるから、七瀬さんも銃を使おうか」


「はーい!」


 こういう時に、やはり銃を取っておいて正解だったなと思う。


 初手は七瀬さんがヘイトを稼ぐべく、麒驎に接近して攻撃を開始した。俺もそこに加わって、近接攻撃を何度も繰り出す。

 そろそろ大丈夫となれば、宮杜さんも攻撃に参加し、ヘイトが移らないよう気を付けながら三人でフルボッコにする。


「あ、火噴くぞ!」


「おっけ!」


 攻撃モーションが見えたから七瀬さんに注意を促す。それを聞いた七瀬さんは射程外へと移動し……。


 ゴオオオオ!


 直後、麒驎がブラスを噴いた。火炎放射器顔負けの威力が出ているが、なぜか地面の草木に燃え移らないのは迷宮特有の「ご都合主義」として見なかったことにしよう。

 ブレスを吐いている間はほとんど移動しないので、この間は隙と言える。宮杜さんは大きめの魔法を用意し、ブレスが終わると同時に発動した。


「行きます、『氷華』!」


 水が彼女から放たれ、麒驎の足元に着弾。瞬間、それがトゲへと形状変化して、麒驎の足や腹に突き刺さった。


 グオオオォォォ……。


 ヘイトが宮杜さんに移ってしまったが、奴は今動きが封じられている。今の間にとどめを刺して……!


「討伐成功っと」


「やったー!」

「ドロップはなんでした?」


「ドロップは、えっと、残念ながら麒麟の角だな」


「そっかー、じゃあ次行こう!」



 次の魔物はインパラスだった。角から衝撃波を放ってくる謎仕様が備わっているから、接近戦をする際は特に注意しないといけない。

 ドロップアイテムは毛皮だった。特に使い道がないので売るしかないな。


 次は麒驎。また角がドロップした。うーん、残念。


 サーベルタイガーからはタイガーズアイがドロップした。くっそ、ここで運を使ってしまったら、麒驎のドロップが悪くなるじゃないか!

※悪くなりません。確率は常に一定です。


「へえ、これがタイガーズアイ……やっぱり綺麗だね!」

「面白い模様ですね~! なんだか可愛いです」


 二人が気に入ったようなので、良しとしよう。



 インパラス、サーベルタイガーと続き、やっとのことで麒驎と再戦。しかも二体同時に出現した。ドロップはそれぞれ角と角。ふー、落ち着け。まだ慌てる時じゃあない。けど、不安になってきたから念のために言っておこう、「べ、別に麒驎刺しが欲しい訳じゃないんだからね!」。

 心の中でこう呟いたら、次は麒驎刺しがドロップする。そう俺は信じている。


「物欲センサーに引っ掛からないようにしないと」

「無心に、そう無心にならないとね」


「そんな風に考えている時点で、今日はもうドロップしないんじゃあないですか?」


「「宮杜さん、辛辣!」」



 なんて事があったものの、最終的に俺たちは麒驎刺しを二つ手に入れる事ができた。三人で食べるには十分の量である。


「よし、今日の晩飯も集まったし、そろそろここを出るか。暑いし……」


「だね。にしても、麒驎刺しって思ったよりも『肉!』って感じだね……。ちょっと怖い……」


 七瀬さんは肉を見ながらそうつぶやいた。


「そうですか? でもマグロだってこんな感じの見た目じゃないですか~」


 宮杜さんは平気らしい。後で聞くと、ドラゴン肉(※ビッグサンドトカゲの肉)と比べたら、全然怖くないとの事。なるほど、納得である。


「そうかもだけど……」


 一方、七瀬さんは嫌悪感をぬぐえていない模様。

 まあ今目の前にあるのはまんま「生肉」だからな。ちゃんとスライスしてお皿に盛り付けたら、印象も変わるはず。そこらへんは俺の腕の見せ所だな。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る