なんでこうなった?

◆ Side 七瀬さんのお父さん


 俺の名前は七瀬拳斗だ。アヤの彼氏(俺は認めていない。むしろ誰が認めるか)の実力を知ろうと思い、一戦交えようとしたら大変なことになった。


「なになに、どうしたの~」

「赤木君が七瀬ちゃんのお父さんと勝負するんだって!」

「娘を欲しくばって奴ね! すごい、今時ほんとにあるんだ!」

「ドラマみたいであこがれるよねー!」

「「「ねー! 頑張れ赤木君!」」」


「赤木をボコるために七瀬さんの父親が来たみたいだぞ」

「なんかすげえ展開だな。どっちを応援しよう?」

「赤木……いややっぱりお父さんの方を応援するわ」

「「「だな。頑張れー!」」」


 アヤの先輩と思われる男女が集まってきて、はやし始めた。なんか大事になったぞ。


「赤木君、お父さんに勝って婚約を勝ち取ってね」


「お、おう。(え、これってガチのやつ? ただ力比べしたいとかじゃなく?)」


「(違うと思う!)」

「(私も本気だと思います! 頑張ってください!)」


 ひそひそ話をしているようだが、聴覚強化を使っていたので全部その内容が聞こえた。うん、今回に関しては赤木君が正しい。俺はそんな運命を決める大勝負をしに来たつもりじゃあない。


「(そっか……。でも、七瀬さんのお父さんに魔法攻撃するのは気が引けるというか……)」


「(そんなことないよ! これは手加減なしの大勝負だよ!)」

「(そうです、今から行われるのは七瀬さんとのお付き合いを許してもらう為の決闘ですよ!)」


「(そういうもんか……? いや、でも先輩と対人戦とか普通にしてるし今更といえば今更か?)」


 おかしい。向こうもなんかその気でいるようだ。


 という事は、ここで俺が負けたら、アヤとあのいけ好かないボウズの結婚が無条件で確定してしまうのか? そんなことあっていいのだろうか、いやそれは困る。

 これを阻止するには……俺が勝つしかない。なんとしてでも勝って、交渉で優位に立たなければ。



 はあ、なんでこうなった?




 ギャラリーが見守る中、俺と奴の試合が始まった。

 奴は始め、こちらの出方を伺っていたが俺が動かないのを見ると、無属性魔法を数発放ってきた。無属性魔法は攻撃力こそ他の属性に劣っているが、不可視の攻撃であるが故に厄介な魔法と言えよう。しかし、第六感を完全にモノにしている俺にとってはそんなの関係ない。

 それほど力が籠っていない物は殴って相殺し、強力そうな物は避ける。ふむ、確かにこれだけの魔法を連射できるのはなかなか凄いが、所詮はそれだけだな。このまま行けば俺が勝てるだろう。



 ……なんて油断するほど俺は馬鹿ではない。

 奴は551~600層と言う未踏の地をたった二日でクリアした人間だ。今代の火の巫女と一緒だったとはいえ、二日はあり得ないスピードだ。

 例えば無限迷宮201~230層が初攻略されるのにかかった日数は27日だ。しかも準備に準備を重ねてである。また、当時の記録を読むと「20層でボス戦があると思っていた。しかし、220層は通常のフィールドだった。この時の絶望は想像を絶するものだった」と書かれている。

 それに比べて、奴らの攻略した階層は551~600層の50層。それを途中で心折られることなく、飄々と「やっと出られた~。あー疲れた」くらいのノリで攻略しきる。よっぽど強くない限り、あり得ない。


 取り合えず、このままだと試合が進まない。仕掛けてみよう。俺は体中に魔力を流して彼に急接近する。

 魔法が飛んでくるが問題ない。思考を加速させている俺にとって、この程度の攻撃は赤子のパンチのようなものだ。


 大きく振りかぶり、奴の顔面を殴ろうとした。それに対し、奴はシールドを張って防御する。


 ……かかったな。


 人間には「反射」と言うものがある。反射とは自分の意思とは関係なく体が動く事を意味する。反射にはいくつか種類があるが、その中でも今の奴に働いたのは「眼瞼閉鎖反射」と言うもの。簡単に言うと目に物が入りそうになった時に、思わず瞼を閉じる反射だ。

 俺に殴られると思った奴は、シールドで防げると分かっていても反射で目を閉じてしまった。そしてこれが命取りとなる。


 そう、顔面を殴ったのは本命の攻撃ではないのだ。

 俺は足に込めていた魔力を以って全力の蹴りを入れる。確実に奴の防御は間に合わない。やったか?


「!」


 防がれた。あり得ない、どうなってるんだ。


 目を瞑っているのに蹴りを防いだことにも驚きだが、これに関しては第六感が働いたのだろうと思って納得する。だが、あり得ないことがもう一つあった。


(こいつの魔法、タイムラグがなかった……)



 訓練の一環として対人戦を何度もこなしているうちに気が付いたのだが、全ての魔法は発動までに時間を要するんだ。反射神経とか魔力量に関係なく、魔法を発動するのには一定の時間を要する。これを俺は「タイムラグ」と呼んでいる。


 流れとしてはこうだ。


1:魔法を発動したいと思う

2:魔力を放出

3:発動に必要な量の魔力を放出し終える

4:タイムラグ

5:魔法が発動


 どんなに魔力量が多く、1~3の時間をほぼ0にできる人間だとしても、タイムラグが発生する。故に俺は「確実に奴の防御は間に合わない」と思ったんだ。なのにこいつは平然と防御した。


 強い。

 分かってはいたがやはり強い。


 ほら。今だって俺が驚いて出来た一瞬の隙を逃さず、俺に攻撃を入れようとしている。防御が間に合わない……!



 攻撃を受けて俺は吹き飛ばされてしまった。うまく受け身を取れたからよかったが、あと少し反応が遅れていたら俺は退場していただろう。



「やるなあ、ボウズ。いや、風兎君。だが、俺だって負けるわけにはいかないんだ。ここからは本気で行かせてもらう」


「望むところです」


 あまり使いたくはなかったが、奥義を使わせてもらおう。俺は再度奴に攻撃を仕掛けた。必殺の攻撃。初見殺しの攻撃。これで俺は勝てるか? それともこれすら奴は対処してみせるのか?




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