夢物語?いえ、実現できます

「君が赤木君か。いつも娘が世話になってる」


 そう言って七瀬さんのお父さんは握手を求めてきた。


「とんでもないです。わたしの方こそ、七瀬さんにはお世話になりっぱなしで」


 そう言って握手に応じた。そういえば、社会人なら公的な場での一人称は「私」だろうけど、高校生って普通どうするべきなんだろ?


「いやあ、娘から色々と聞いてるよ。『赤木君がね、赤木君がね』って楽しそうに話してるんだ。君と一緒にいるのがすごく楽しいようだ」

「ちょっとお父さん?! 言わないでよ、恥ずかしいじゃん!」


 七瀬さんのお父さんは俺の手を握りつぶさんとばかりに強く握った。痛い痛い! けど、このくらいの痛みは我慢しないと。これは俺が受けてしかるべき罰だ、甘んじて受け入れるべきだろう。


「そうなんですね。わたしも七瀬さんからはいつも元気をもらっていて」


「そうかそうか。今後とも仲良くしてやってくれると嬉しい」


 そう言った瞬間、彼の魔力が腕に向かって流れた。特に浅指屈筋と深指屈筋を強化しているようだ。……おいおい、身体強化までするか?!

 流石に手を骨折するわけにはいかないので、俺も能力を発動。身体強化とリジェネ、体の硬化などを行って怪我しないようにする。


「こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします」


 俺は全力で自分の手を守りながら、全力で頭を下げた。

 ……ところでここで「今後ともよろしくお願いします、お義父さん」と言ったら漫画とかでよく見る「お前にお義父さんと言われる筋合いはない!」ってセリフを聞けるのだろうか。なんて思ったけれども、それを実行するほど俺は馬鹿ではなかった。



 そんな事件が最初にあったが、それ以降は平和に事が運んだ。美味しい料理に舌鼓をうち、その後は今後の目標ついての話をした。


「今後の目標とかってあるの?」


「そうですね、学生中に達成したいことで言えば、無限迷宮の最深層を目指したいと考えています。そしてそこで手に入れたアイテムを使って、世界中の人が安全に魔物を倒せるような環境作りをしたいと考えています」


「いい夢じゃない。応援しているわ」

「でかい夢を持つのは良いが、具体的なプランはあるのか? フォルテの労災を防ぐ取り組みは、既に色々な研究機関が行っているが、それでも殉職者は減っていない。むしろ、増加している。君はこの状況をどう改善するんだい?」


 紅葉さんのお母さんは俺の事を純粋に応援してくれたのに対して、七瀬さんのお父さんはツッコミを入れてきた。う、社畜時代の社内プレゼンを思い出す……。なんでだ、時間の経過と共に前世の記憶はかなり曖昧になっているはずなのに?!

 嫌な記憶をポイっと捨てた後、俺は冷静に質問の答えを返す。


 そこはどのようなアイテムが見つかるかにもよります。が、わたしの見立てでは900層より向こうへ行けば、蘇生アイテムを作ることができると考えています。


 また、狂龍の草原を攻略している時に思ったのですが、迷宮内で一泊するのは快適とは言えない状態でした。

 そこで、泊りがけで魔物の巣を攻略する場合、どのようなアイテムが使われているのか調べたのですが、そこまで画期的なアイテムがある訳ではないと分かりました。ここにも改善の余地があると考えていて、現在魔法高分子研究所の先生方とも相談しつつ、研究に取り組んでいます。


 前半、蘇生アイテムの件は半分嘘である。ゲーム通りなら、蘇生アイテムは存在しない。が、代わりとなるものがドロップするはずだ。

 後半は事実だ。マロンマロンの眼を加工して以降、何度かお世話になっている先生と相談しつつ、便利なアイテムを作れないか検討中である。進捗は芳しくないが、とあるアイテムを手に入れる事ができたらこの計画はすぐに実現できるはずだ。


「夢物語だな」


「いえ、実現できます」


「……」


「……」


 無言で見つめ合う俺達。最後には向こうが折れて「まあ、頑張ってくれ。応援する」と言ってくれた。





 二日後の月曜日。アリーナで部活動に勤しんでいた俺の前に、とある人物が現れた。


「よう、ボウズ! 俺と勝負だ」


 なぜか七瀬さんのお父さんがそこにいた。


「お父さん? なんでここに?!」


「赤木君と拳で語り合う為だ」


「あ、もしかして『娘を欲しくばまず私を倒せ』的な?」


「……まあそんな感じだ」


「おおー! だってさ、赤木君! 頑張って勝ってね!!」



 なんでこうなった?



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