ここ最近で最大の窮地

 紅葉さんに言われて、食事会に参加することになってしまった俺たち一向。場所は逢魔湖付近にある高級レストランらしい。

 移動は紅葉家が用意した防弾・防魔車だ。さすが紅葉家すごいものを持っている。あ、防弾は言うまでもなく拳銃やライフルの弾を防ぐという意味で、防魔ってのはフォルテによる魔法攻撃を防ぐって意味だ。


「高級レストランに行くのに、こんなラフな格好でよかったの?」

「ドレスコードとかないんですか?」


 確かに。俺たちが今着ているのは普通の私服であり、少なくとも高級レストランに入るのに適しているとは言えない格好である。俺たちは学生だし、流石にスーツ&ドレスを強要されることはないだろうが、せめて制服の方が良かったのではなかろうか?


「問題ないわ、向こうに着替えがあるから」


「え? そうなの?」


「ってお母さまが言ってたわ。赤木君にはスーツ、私達にはワンピースが用意されてるんだって」



 俺の方は普通のスーツが用意されていた。前世で何度も着た物だし、特に困らず着ることができた。護衛(?)の人に「ネクタイの締め方、知っているんですね」と少し驚かれた。


 そうして着替え終わってから三人の事を待つこと数分、ようやく三人が俺の前に現れた。


「おお……」



 宮杜さんは空色のワンピースを着ていた。派手な装飾はなく、シンプルなデザインが、清楚っぽさを引き出している。男の子は清楚が好きだからな、ぐっと魅力的に感じたぜ。さて、宮杜さんのワンピースは一見無地のように見えたが、しっかり見ると薄っすら雫マークがあしらわれているのが分かる。


「あの。どうでしょうか?」


「すっごく魅力的だよ。凄くドキッとする」


「そ、そうですか、ありがとうございます!」


 七瀬さんは白色のワンピース。こちらは宮杜さんの物よりフリフリが多くついていた。ただ、決して派手という訳ではなく、どちらかと言うと無邪気さを感じさせられ、小柄な七瀬さんにとても良く似合っている。なんというか撫でてあげたくなる。


「どうかな、赤木君?」


「七瀬さんの可愛いらしさをぐっと引き立てて、とっても良く似合ってる」


「ありがと!」


 紅葉さんは赤色のワンピース。宮杜さんが着ているものと近いデザインで、シンプルなデザインである。ただ、赤色と言うのはそこそこ目立つな。俺の第一印象は「インターナショナルに活躍するモデルさん」と言う感じ。とても綺麗だ。


「どうかしら?」


「綺麗でカッコイイ! 美人な紅葉さんにぴったりだと思う」


「あら、ありがと。さあ、会場はこっちよ。一緒に行きましょ」


 そう言って紅葉さんは俺の腕を取って歩き始めた。制服ではない紅葉さんに近づかれて、俺の心臓は鼓動を速めた。


「ちょっと、抜け駆け禁止だよ!」


 七瀬さんがそう言って反対の手を取った。


「わわわ、二人とも大胆です……」


 宮杜さんはと言うと、一歩離れたところから俺たちの様子を眺めていた。



 そうやってキャッキャ言いながらレストランに向かっている途中、それは起こった。俺の魔力感知が、かつてないレベルの殺気を察知したのだ。


「!」


 後ろを振り向く。そこには紅葉さんの母親を先頭に数名の男女がいた。


「あら。みんなよく似合ってるじゃない。サイズもぴったりなようでよかったわ」


 紅葉さんのお母さんがそう言った。

 殺気の主はこの人ではない、後ろにいる一人の男性から放たれている。彼を一言で言うならマッチョなイケオジって感じ。ただし彼の所作は、彼が趣味で筋肉を鍛えているのではなく、何かしら体を使う仕事をしているという事を示していた。

 国防省フォルテ部隊の一人だろうか? ただ、それならどうして俺に殺気を放っているんだ? 俺は警戒レベルを上げる。




 そして次の瞬間。この場に爆弾が放り込まれた。




「あれ、お父さん?! なんでここにいるの?」


 七瀬さんによって、爆弾発言が放り込まれたのだ。


 え、お父さん? それってまさか……。

 俺は殺気を放っている男性に目を向ける。


「そりゃあ、俺もフォルテ部隊に所属しているからな」


 殺気を放っていた男性の正体は七瀬さんのお父さんだったようだ。そっか、フォルテって遺伝するからな、この人の能力も身体強化なのだろう。ただし、七瀬さんと違って、純粋な近接アタッカーとして活躍している人なのだろう。


「え?! お父さんが? フォルテ部隊? 初耳なんだけど……」


「そりゃあ言ってなかったからな」


「そ、そうなんだ……。で、それでなんで食事会に?」


「娘に会いたかったってのが一つ。それからもう一つは、魔法杯と狂龍の草原の件で大活躍したボウズと色々・・話したかったからな」


 物凄い殺気が俺に向けて放たれる。


「なるほどね! だって、赤木君!」


 七瀬さんは俺をぎゅっと掴みながらそう言った。


 えーここで一度、七瀬さんのお父さん視点で俺の事を見てみよう。

 娘と仲良くしている男子との初めて会う事になった。すると、その男子は娘と右腕を組みながら、左腕では別の女の子と手を組んでいるではないか。


 そりゃあ、殺気を送るよね?!

 むしろ送らない理由がないよね!




 俺は今、ここ最近で最大の窮地に立たされているのかもしれない。




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