平和な夏休み

面倒事の予感

「お母様が食事会を開きたいって言ってるの」


「え、なんだか面倒ごとの予感」


 紅葉さんの言葉に、つい本音を漏らしてしまった。


「そんな事はない……はずよ。数人の関係者だけで開く小さな物だから」


「それなら……。いや、やっぱり不安だなあ。ってこんな言い方は失礼だよな」


 とそこに宮杜さんと七瀬さんもやってきた。


「おはよ~! なになに、何の話?」

「二人ともおはようございます」


 後からやってきた二人に説明する。


「そ、それってあれじゃあないですか? 『娘を欲しくば、私を倒してからにしなさい!』的な」

「その可能性は大いにありそうだよね。紅葉さん、お嬢様みたいだし」


 二人の指摘に俺は納得する。


「紅葉さんのお母さんと勝負するのか? 無属性と身体強化だけで勝てるか心配だなあ」


 紅葉さんは、俺が複数属性使えるという事をお母さん含め誰にも言っていないらしい。「お母さまは敵じゃあないけど、知っている人が少ないに越したことはないわ」とのこと。

 そんな訳で、仮に紅葉さんのお母さんと戦うことになったら、俺は無属性魔法と身体強化だけで戦う必要がある。勝てるかなあ。正直自信がない。


「流石にそれはないと思うわよ。お母さまも納得しているし。ただ純粋に話したいだけだと思うわ」


「でも、昨日までもさんざん話し合ってたじゃない?」

「そうですよ! あの決定には少し納得がいきませんでした! 仕方がないとはいえ、赤木君の手柄を横取りしたような物じゃないですか」


 ああ、それな。

 実は、551層への入り方やそこで登場する魔物の攻撃パターンやドロップに関する情報は、全て「国防省のフォルテ部隊が発見した」という体で発表されたのだ。

 理由はいくつかあって



1:目立たないようにする為

 俺の存在が敵に知られないようにしたい、と言うのが理由の一つ目だ。


 前のMVFAへのノミネートは「強さを評価して受賞」ではなく「勇気ある行動と冷静な判断能力を評価して受賞」だったから、そこまで問題視することはなかった。

 実際、あの時オオクチを討伐したのは宮杜さんと紅葉さんだ。俺の攻撃はほとんど通っていなかった。


 だが、今回の件を発表してしまったら、確実に俺の強さが外部に漏れてしまうだろう。それは避けたい。



2:無茶な行動を称賛するわけにはいかない

 俺の主観では「問題ない」と判断して551層に入った訳だが、周りから見たら「無謀な挑戦」と映る。そんな俺の行動を称賛しようものなら、学校や国は学生の無謀な挑戦を高く評価している、と思われてしまう。それは不味い。


 あくまで今回の発見や調査は綿密な準備の下、行われたという事にしておきたいのだ。



3:学生の挑戦心を煽らないようにするため

 ある意味一番大きな理由がこれだ。

 仮に今回の発見をしたのが俺や紅葉さんと公開したとしよう。そうしたら確実に「大儲けしようぜ」「一発逆転打だ」などと思う学生が出てくるに決まっている。

 当然そんなことをすればほぼ間違いなく死亡エンドであり、学園としてそれは困る。


 ちなみに公的発表によれば、「特殊部隊が10人がかりで突入して、3人が生きて帰ってきた」となっている。無論こんな事実はないのだが、こう言っておけば「狂龍の草原」が恐ろしい場所であると思わせることができるだろう。



「とまあちゃんと理由があるんだし、別に俺は気にしてないぞ。情報量と合わせてお金も貰ったし」


「それはそうだけど~」

「それって言ってしまえば、名誉をお金で買われたような物じゃないですか。まあ、赤木君まで光の巫女に狙われるよりはいいと思いますけど……。紅葉さんはどう考えているんですか?」


「正直私も『えー』とは思ってるわ。けど、こればっかりは諦めるしかないんじゃないかしら? もしかしたら、今回の食事会って言うのも、そのお詫びの一環かも?」


「なるほど。そういう事ならまあ参加してもいいかな? ちなみに参加するのは誰なんだ?」


「詳しくは聞いてないけど、宮杜さんと七瀬さんも一緒にって言われてるわ」


「「え、私達も(ですか)?」」



 そんな訳で、俺たちは食事会に参加することになった。




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