ボス戦の前に

 目を覚ますとそこは真っ暗闇だった。まるで地下に埋められたかの如く、真っ暗で何も見えない。昨日何かあったっけ?

 ……あ。思い出した、狂龍の草原で一泊したんだったな。うむ、自分の置かれている状況を忘れてしまう程にぐっすり眠っていたようだ。


 光球ライトの魔法を発動する。……何やら視線を感じてそちらに顔を向けると、隣で寝転んでいる紅葉さんと目が合った。

 これが朝チュンという奴か。……ここまで物騒な場所で朝チュンをした人間は人類史上初かもしれない、なんて馬鹿な事を思った。


「おはよう」


「ええ、おはよ赤木君。よく眠れた?」


「ああ、なんとか。そっちは?」


「おかげさまでぐっすり眠れたわ。とりあえずこの狭い地下空間から出よっか」


「だな。ここじゃあ伸びもできない」


 土魔法で天井をどける。眩しい! 眠った時と変わらずほぼ真上で光っている太陽が、俺の目を焼く。


「さて。そんじゃあ昨日の残りのスープを朝ごはん代わりにして、それを食べ終えたらまた魔物狩りだな」


「ええ」



 それからおおよそ半日経って、現在おおよそ15時。とうとう俺たちは599層にたどり着いた。


「さて。ボス戦に挑む前に、まずここまでの成果を確認しようか」


「分かったわ」


【ボクサープテラノ】

・N:プテラノのマッスル ×12

・R:プテラノプロテイン ×2

・SR:プテラノの眼球 ×1


【ジャイアントブラキオ】

・N:ブラキオの剣 ×34

・R:石筍地雷 ×5

・SR:ジャイアント魔石 ×5


【バシロディノスクス】

・N:高級ワニ肉 ×19

・R:バシロディノスクスの王冠 ×4

・SR:王の怒り ×2


【蒼穹のアーケロン】

・N:アーケロンスープ ×10

・R:アーケロンのかんざし ×1

・SR:蒼穹の盾 ×1


【タナトフィリア=テリステス】

・N:タナトフィリアボム ×26

・R:タナトフィリアの書 ×5

・SR:テリステスの鎌 ×3


【世紀末のラプトル】×9



「これ、石筍地雷とタナトフィリアボム、タナトフィリアの書、テリステスの鎌は使うとして、他のものは持って帰るのよね?」


「だな。あ、先に分配とか決めておくか? 『王の怒り』は欲しい、宮杜さん用と俺用で」


 王の怒りは水属性攻撃の威力が9倍になるアイテムだ。オオクチを倒してゲットした『オオクチを屠った者に捧ぐ指輪』の効果3倍と比較すれば、その凄さが分かるというもの。


「もちろん、赤木君に任せるわよ。って、分配なんて別に後でもいいのよ。いやね、これ全部売ったら幾らになるのかなって考えて、何とも言えない気分になってただけよ」


「あー。確かに俺達からしたら『いらねー』とか言ってたブラキオの剣だって、欲しい人からしたら喉から手が出るほど欲しいアイテムだよな?」


「でしょうね」


 ブラキオの剣はいくつかの魔法が付与された剣で、ある程度自由に剣の長さを操ったり、重さを操ったりできるらしい。何それファンタジー。

 あと、使われている金属が未知の物らしく、紅葉さん曰く「この金属だけで相当の価値があるわよ」とのことだ。曰くジャイアントブラキオの魔力が込められた魔法銀とかなんとか? 詳しいことは不明だ。


「確定申告が面倒なことになりそう……。紅葉さんの伝手で税理士紹介してくれー」


「ええ、もちろん。元よりそのつもりよ」


「それは助かる!」



「それで、ボスってどんなのなの?」


「ああ、ボスの名前は『ヘルステゴドラゴン』だ。地獄のステゴサウルスって意味だな」


「龍なの?」


「いいや、爬虫類に過ぎない。龍はもうちょい先じゃないと出てこない」


「600層より先があるのね……。ねえ、この迷宮って無限に続くの?」


「さあ? 俺の知る限り、まだまだ先はあるけど、無限かどうかは知らないな」


 ゲームでは有限だったけど、この世界では違うかもしれない……と最近は思い始めてる。


「ふーん。えっと、それでどんな敵なの?」


「ああ。ステゴサウルスってのは分かるか? 背中に板が生えているやつだ」


「こんなのかなーってのは分かるわよ」


「ならよかった。それを20倍に拡大したような敵だ。全長200メートルの四本足の化け物だな」


「うわあ……」


「背中の板は燃えていて、そこから火魔法と闇魔法が混ざった攻撃が絶え間なく撃ち出されている。また口からは火魔法と光魔法のレーザーをく」


「化け物ね……。弱点ってあるの?」


「水魔法や凍結の異常状態が弱点だ。それ以外はどれもあまり効かない」


「そうなんだ? それなら私は今回防御に徹したらいいのね?」


「ああ、任せる。あと、これは弱点ではないかもしれないが……」


「?」


 俺は一呼吸おいてから、ヘルステゴドラゴンの残念なところを言った。それが。


「ヘルステゴドラゴンはとてつもなくおバカさんなんだ。敵に狙いを定めて攻撃する、という知性すらない。ランダムな方向に魔法を飛ばすだけのマシーンなんだ」


 ステゴサウルスの脳は梅干しサイズというのは、恐竜好きの間では有名な雑学だ。そしてその性質はヘルステゴドラゴンにも受け継がれている。


「えー。それはなんというかラッキーなのかな? 無規則な攻撃って逆に避け辛いことない?」


「まあなあ。ただ、執拗に追い詰めてくるようなタイプじゃないだけましだろ? あ、それと知性の低さゆえに、罠に引っ掛かりやすい。石筍地雷を全く警戒せずに踏み抜いてくれる」


「それは確かにありがたいわね」


 そして、もう少し詳しく挙動を説明した後、俺たちはヘルステゴドラゴンを倒すべくボス部屋へと入った。





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