今明かされる衝撃の事実
ここ、狂龍の草原に来てから約17時間が過ぎた。例の夢を見て目を覚ましたのが2時だったから、ここに来たのはおおよそ3時だ。つまり今はおおよそ20時、そろそろ夕飯を食べてから寝る時間だ。
この17時間で俺たちは35層進んだ。今は586層の入り口のセーフティーエリアにいる。明日中にボス戦をクリアして地上に戻れるだろう。
「今日はここまでにして、一休みしようと思うのだがどうだろう?」
「ええ、そうね。本当にお疲れ様」
「紅葉さんもな」
腰を下ろし、適当に夕食を食べる。プテラノのマッスル、プテラノプロテイン、高級ワニ肉アーケロンスープを食べる。うむ、マッスルとプロテインに関してはあんまり美味しくないが、それ以外はやっぱり美味い。流石は秘境の魔物のドロップアイテムだ。
「それにしても赤木君の魔力量って本当に凄いわね。本当、どうなってるの?」
紅葉さんが俺にジト目を向けてくる。そんな紅葉さんに俺はジト目で見返して「紅葉さんだって、魔力が全然減ってないじゃないか」という。
「そりゃあ、私は巫女だし」
「そう言われても。なあ、巫女って言うのは全員これくらい魔力を持っているものなのか? 紅葉さんしかり宮杜さんしかり、無尽蔵に近い魔力を持っているよな?」
「ええ、そうね。……実は赤木君も巫女だったり?」
「巫女って男子でもなれるのか?」
「あはは、無理よ。巫女は女性しか選ばれないわ。だから言ってみただけ。……待って、もしかして。ねえ、赤木君。実はあなたって生物学的には女の子だったりする?」
紅葉さんは何かに納得したようにそう尋ねてきた。
「いやいや、俺は生物学的にも男だぞ? 確認するか?」
「かく?! は、はあ?! ちょっと、何を言って!!」
「? ほら、喉仏が出てるだろ? そういえば知ってる? 喉仏って解剖学的には甲状軟骨なんだが、火葬場で『これが仏さんです』って渡される骨は第二頸椎、別名軸椎らしいぜ」
と俺はこの前テレビでやっていた雑学を披露する。こうやって知識をひけらかすのってなんか気持ちいいよな。え、子供っぽい? 俺もそう思う。
「へ? あ、ああ。ほんとだ、のどぼとけがあるわね。うん、そうね。ごめんね、変な事聞いちゃって」
「いや別に。それで、寝る場所なんだが……。このセーフティーエリア内に竪穴式住居っぽいものを作ろうと思う……のだが二軒立てるには狭すぎるんだよな。どうする? 当然何もしないと誓う。が、どうしても同じ屋根の下で寝たくないなら、棺桶みたいなのを二つ作るけど」
セーフティーエリアはおおよそ2メートル四方しかない。551層のように新エリアの始まりの場所なら比較的広いスペースが用意されているのだが、それ以外の場所、つまり転移魔方陣の前後にあるセーフティーエリアはかなり狭いのだ。
あ、ちなみに竪穴式住居っぽくする理由は、暗さを確保するためだな。迷宮内は常に昼だから、こうしないとゆっくり休めない。
「……本当に変なことしない?」
「しない。絶対に」
「はあ……。どうしようかしら……」
紅葉さんは未だかつて無いほど物凄く真剣に悩んでらっしゃる。あれ、そこまで俺って信用無いかな? 紅葉さんと知り合って約1か月、これまでに彼女の信用を失うような事をしただろうか?
そして俺はこれまでの事を振り返る。紅葉さんはこれまで何度も、俺が宮杜さん、七瀬さん、暁先輩と仲良くしていることに苦言を呈してきた。その結果、彼女と俺達の間にはそこそこ大きな溝があった。
うん。改めて思う。信用される要素ゼロだな。むしろ、ここから信頼を勝ち取る方法があるなら教えてほしい。
「あーその。紅葉さんは俺の事信用できないだろうし、別々にしよう。その方がいいよな」
「え? あ、待って。その、あなたを信頼してない訳じゃないわ。実際、あの三人にもまだ手を出してないみたいだし。そうじゃなくってね、その……」
「?」
「あなた達には言ってなかったのだけど。巫女って異性との恋愛が禁止されているの。異性と深い関係を持とうものなら、その時点で巫女の資格をはく奪されるわ」
へ?
「何それ? えっと、そういう家庭方針?」
自由恋愛禁止だなんて、未だにそんな家庭が残っているんだなあ。いやいや、そうじゃない。ここは日本のようで日本じゃあないんだ。前世で培った先入観は捨てないと。実際、この世界ではフォルテは一夫多妻(一応一妻多夫も)認められているくらいだしな。結婚事情だって大きく異なるのだろう。
「家庭方針とかじゃなくって、本当に消えるの。属性神から見放されるの」
「……マジで?」
「本当よ。だから、私の母親だって結婚してないわ。私は養子よ」
今明かされる衝撃の事実。紅葉さんの母親と紅葉さんには血縁関係がなかった。おい、誰がこんな展開想像できただろうか?
「ってちょっと待て。だったらなんで宮杜さんは今も巫女でいられるんだ?」
「そこが疑問だったのよ。だから、実は赤木君は女性なんじゃないかって思ったの」
「なるほどなあ」
「でも、うん。一緒の場所でいいわよ。何もしなかったら許してもらえると思うし、仮にはく奪されたとしてもそれを受け入れるわ」
◆
土魔法を使って眠る場所を作り、俺たちはそこで横になった。
横で眠っている紅葉さんがぽつりとつぶやく。
「ねえ、赤木君」
「なんだ?」
「さっき言ったような理由もあって、あなたに伝えていなかったのだけど……」
「?」
「私ね、赤木君がここに来る前に、あなたの夢を見たの。夢の中で私は赤木君に助けを求めてたわ。そして……それに応えるようにあなたは来てくれた」
「……」
「それでね。あなたの顔を見た時、私すっごく……安心したの。嬉しかった……。だから、ありがとう、本当に」
紅葉さんの声には涙が混じっていた。俺が来るまでは「このまま誰にも見つけてもらえず餓死していくのだろうか」など考えてしまっていたのだろう、そこから助かる希望が見え、その安心や喜びの感情が今になって一気にあふれたらしい。
そんな彼女になんと声をかけたらいいか分からなかった俺は。
「……そっか。それなら助けに来た甲斐があるよ」
とだけ言った。
「……うん。それだけ、お休み」
「ああ、お休み」
その後は特に何もなく、俺の意識は夢の世界へ落ちていった。
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