リバイアサンではない

 バシロディノスクス、全長100メートルもある巨大なワニだ。それが今、紅葉さんと俺の前にいる。


「あれがバシロディノスクスだ。改めてみるとすごい大きさだな」


「ええ。確かにあれは『伝説の龍、リバイアサンでは?』って思っちゃうわね」


 確かに何も知らない人からしたら、これがワニだとは思わないだろうな。それこそ龍や神話の生物と見間違えても不思議ではない。しかし、こいつはあくまで爬虫類型の魔物だ。倒しても神話シリーズはドロップしない。

 ところで、ジャイアントブラキオは細長い首、細長い尻尾を含めて75メートルなのだが、バシロディノスクスは顔はもちろん尻尾もそこそこ太い。だからだろうか、バシロディノスクスの方が大きいように感じる。


 こいつの弱点は腹と口腔内で、背側は無敵の強度を誇る。蒼穹のアーケロンの甲羅と違って、反射しないのが救いだな。

 さて、この性質上バシロディノスクスにダメージを与える方法は三つに絞られる。


・顔の前で待ち構え、噛みつき攻撃を避けつつ口腔内に魔法をぶち込む。

・ローリング攻撃の時に腹側に攻撃を当てる。

・土魔法などを使って腹側を攻撃する。


 以上の中から適したものを選ぶ必要がある。事前に紅葉さんと作戦会議をしているから、後はそれを実践するだけだ。



 まず俺が土魔法を使って腹側にダメージを与えた。かなりの量の魔力を消費し、硬いトゲを10メートル間隔で生やした。合計10本のトゲがバシロディノスクスに突き刺さる。


『グギャアアア!』


 おいおい、ワニが鳴き声を上げるなよ。というツッコミは口に出さず、バシロディノスクスの挙動を見る。背中が水色に輝くのを見て、次に来るのがアクアレーザーであると判断した俺は、氷魔法を使って自分たちの前に防壁を作った。


「え? 土魔法のほうが……」


 紅葉さんが俺を見る。そうだな、普通のレーザー攻撃なら土魔法で防ぐのが正解だ。土属性なら攻撃を受けた部分が発熱したとしても、貫通することがない。むしろ陶器のように固くなる。


「アクアレーザーは光属性のレーザーと水属性攻撃が合わさってるって言っただろ? だから硬化した土を割ることができるんだ」


 レーザーを受けて硬化した岩が高圧の水流で粉々に砕かれ、より深い層が焼かれてまた洗い流され……というのを繰り返すうちに土壁は貫通してしまう。


「なるほどね。しかも土じゃあ向こう側が見えないから、運が悪ければもろに食らうことになるのね」


「そういう事。それに対して氷魔法で作った壁は光をいろいろな方向に屈折させて減衰させることができる上に、水属性魔法をある程度防いでくれる」


 氷はウォータージェットで割れないの、と疑問に思うだろうが、これが割れないんだよなあ。物理的なウォータージェット v.s. 本物の氷ならともかく、魔法で出来たウォータージェット v.s. 魔法で出来た氷だと、属性が干渉し合って効果が弱まるらしい。

 研究科に進んだ学生はこのメカニズムを詳しく学習するらしいが、俺達は習っていない。


「とはいっても、いつかは貫通されるわよね?」


「ああ。だから貫通されるまでの時間を使って安全地帯を探して避難しないとな」


 なお、穴を掘って地面に潜るという選択肢もあるのだが、それをすると攻撃のチャンスを逃す可能性があるので今回は使わない。



 レーザーが収まった。次にバシロディノスクスは……こっちに向かって転がってきた!


「ローリングか! よし、腹に魔法を打ちまくるぞ!」


「分かったわ!」



 風魔法を使って高くジャンプし、上空から転がっているバシロディノスクスに攻撃を当てる。腹を焼かれバシロディノスクスの怒りはピークに達したようだ、奴は俺たちを正面に見据え、土煙を上げながら突進してきた! 嚙みつき攻撃だな。


「可能な限りどでかい火魔法を頼む! 俺は上空に逃げる準備をする!」


「了解よ!」


 紅葉さんが魔法を準備し始めた。濃厚な魔力が彼女の周りで踊り始め、一つの魔方陣カタチを取り始めた。

 なんだかここに来たばかりの時よりも威力が上がっている気がするなあ。なぜだろう、この世界にレベルの概念はないはずだが……。いや、俺が知らないだけで、それに近しいメカニズムがあったりするのだろうか?

 まあなんにせよ、強くなってるのはありがたいことだ。さあ、バシロディノスクスの顔が近づいてくる。集中して。


「3、2、1」


「「今!」」


 巨大な炎のもりがバシロディノスクスの口内に発射される。と同時に俺の風魔法が発動し、俺と紅葉さんは上空に吹き飛ばされた。

 下を見ると、バシロディノスクスが硬直していた。俺たちを食ったと思ったら熱い何かを口に放り込まれたのだから、驚いているのだろうか。それから程なくして、奴がバタバタと暴れ始める。


「勝ったな」


「それってフラグ発言じゃない?」


「心配しなくても大丈夫、ほら」



 バシロディノスクスは一つのネックレスを遺してこの世を去った。SRドロップ、『王の怒り』だ。

 まさかまさかの、いきなりSRがドロップ! これはラッキーだ!

 運が俺たちに味方しているのかもしれない。今、ジャイアントブラキオを倒せば、石筍地雷がドロップする気がする!






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