死なばもろとも、テリステス
◆ Side 地上
「あれ、赤木くーん?」
朝、七瀬アヤは風兎が起きてこないことを不審に思って、彼の部屋の扉をノックした。
「おはようございます、七瀬さん。どうかしたんですか?」
そこにやってきたのは宮杜菜々美。フォルテになって村八分にあったことをきっかけに、フォルテメイア入学後は他者に対してびくびくしており、同級生相手でも敬語になっいる。ため口でいいよと言っても変えるのが難しいようで、結局彼女の特徴の一つとなっている。
「赤木君、起きてこないから……」
「……確かに。そろそろ時間なのに。なにかあったんでしょうか? まさか誘拐?!」
「不安だし、部屋の鍵を開けてもらおっか。ついでに昨晩何かなかったか聞いてみよう」
こうして二人は寮のロビーに移動したのだが、そこで紅葉陽菜の母親と遭遇した。
「! 二人とも、赤木君から何か聞いてない?」
「え、何かあったんですか?」
…
……
………
「なるほど……。赤木君が昨晩、迷宮に飛び込んでいったと」
「ええ。それも大慌てで、まるで陽菜が迷宮にいるって確信しているかのようにね。それで、彼から何も聞いてない?」
「すみません、特に何も」
「メールにも何も届いていません……」
「そう……」
紅葉陽菜の母親は部下と共に今後の調査計画を相談し始めた。迷宮をもう一度調査するべきか否か。未だ誰も発見していない迷宮の特殊階層があって、二人はそこに迷い込んだという線で調査する意義はあるか。
「ちなみに、二人はどう考える?」
部下の意見を一通り聞いた後、彼女は七瀬アヤ、宮杜菜々美の二人にも意見を求めた。二人は逡巡の末にこう答えた。
「もしも赤木君がそこに駆け付けたというのであれば、おそらくそこに紅葉さんがいるのだと思います」
「そう……」
「で、ですが! その、二人は無事戻ってくると思います! 絶対に!」
「どうして?」
「赤木君がいますから!」
二人は風兎が紅葉を連れて無事戻ってくると確信していた。風兎の恋人(?)になって以降、二人は彼の異常なまでの能力と迷宮に対する知識を実感してきた。だから二人は断言したのだ。
◆ Side 風兎
「へっくし!」
「あら、大丈夫?」
蒼穹のアーケロンのスープを堪能した後も、順調に攻略を進めていたのだが、不意にくしゃみが出た。
「大丈夫だと思うが……。なんだろ、誰かがうわさでもしてるのかな?」
「かもしれないわね。まあ、真面目に答えるなら汗のせいで体が冷えてるとか?」
「かもなあ。次のセーフティーエリアでシャワーでも浴びるか……」
「そんなことできるの?」
紅葉さんが首を傾ける。俺は火魔法と水魔法を組み合わせて、シャワーを作って見せた。
「こんな風に」
「ああ、なるほどね。ってなんかさもできて当然のようにやってるけど、普通はあり得ない事よ。複数属性を同時に使えるって、ほんとどうなってるのかしら?」
興味津々と言って表情で俺を見てくる紅葉さん。ちょっと怖い。
「解剖とかしないでくれよ?」
「しないわよ、
「ならよかった」
「それで? 今からタナトフィリア=テリステスと戦うのよね?」
「ああ、そうだ。特別な魔法は使わず、純粋な物理攻撃がメインの魔物だ。ただし、HPが半分くらいになると、『死なばもろとも!』とでも言うかのように自爆する。その時には全力で防御を張る必要があるぞ」
そんなことを話していると、早速タナトフィリア=テリステスとボクサープテラノが二匹同時に現れた。
「ボクサープテラノと一緒なのね。厄介ね。どうする、別のを狙う?」
「あーそうだなあ。いや、あいつらを狙おう。うまくいけばフレンドリーファイヤしてくれるかもしれない」
ボクサープテラノもタナトフィリア=テリステスもかなりのおバカキャラだからな。片方は脳筋で、もう片方は死ぬことが好きな爆発の化身だ。
「ひどい言い様ね……。でも、確かに言いえて妙ね」
「だろ?」
『クワワ!』
『ヒッヒッヒ……』
えーっと。「クワワ」ってのがボクサープテラノの鳴き声で、「ヒッヒッヒ……」ってのがタナトフィリア=テリステスの鳴き声だ。テリステスは全身が真っ黒な魔物で、いかにも死神って見た目をしている。
「『フラッシュボム』!」
先手必勝と考え、俺は閃光弾の魔法を放った。びっくりさせる意図ももちろんあるが、テリステスにダメージを与える意味もある。見た目通りというかなんというか、テリステスは光属性に弱いんだ。
『クワワ?!』
『ヒヒヒ?!』
おー二匹ともびっくりしてる。あ、テリステスちょっとパニックを起こしている。その場でぶんぶんと暴れて……暴れて……。
「「あ……」」
テリステスの尻尾についた鎌がボクサープテラノの足にぶつかった。で、起こったボクサープテラノがテリステスに殴りかかった!
「「……」」
ドッカーン!!
最終的にテリステスが大爆発を起こして二匹は天に召された。ちなみにドロップアイテムは「タナトフィリアの書」だった。レアドロップじゃん、ラッキー!
こうしてテリステスは「自爆も厭わない死神爆弾魔」から「オチ担当のおバカキャラ」へと降格したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます