物欲センサーは確率の壁をぶち壊した

「さて、各種レアリティーのドロップの確率について改めて確認しよう」


 俺は紅葉さんにそう告げた。


「急に何?」


「いやな。俺、実はドロップ率を間違ってるんじゃないかって思い始めてさ。俺の記憶ではNが80%、Rが15%、SRが5%だったと思うんだ」


「それで正しいわよ。今着けている腕輪がSRドロップ率2倍のアクセサリーだから、75%、15%、10%になっているはずね」


「じゃあ、なんなんだ? この結果は?」


 ジャイアントブラキオの効率のいい倒し方が分かってきて、また紅葉さんが戦闘に慣れてきたおかげで、俺たちの周回速度はかなり上がったと思う。今ではジャイアントブラキオ一匹倒すのに10分もかからなくなっている。

 その結果、4時間で20体のジャイアントブラキオを倒したわけだが、今のドロップ状況がこれである。


ブラキオの剣[N] ×15

石筍地雷[R] ×1

ジャイアント魔石 ×4個


「あなたの報告が正しいなら、ジャイアント魔石の方がドロップしにくいはずよね。でも結果を見るかぎり、石筍地雷のほうが落ちてない」


「なんで?! 物欲センサーか? 物欲センサーに呪われているのか?!」


 俺は頭を抱える。はあ、どうしてこうなった。

 物欲センサーとは、欲しいと思ったアイテムに限ってドロップしない現象のことだ。他にもガチャでほしいキャラが全然でない時にも使える単語だ。

 しかも、ブラキオの剣がめっちゃドロップするなら「運が悪いなあ」で済むのに、なんでよりによってSRドロップの割合が増えてるんだよ! 物欲センサーが確率の壁を超えたのというのか?!


「物欲センサーねえ……。ただの迷信だろうけど、そう感じちゃう時ってあるわよね」


「紅葉さんもあるのか?」


「ええ。あったわよ。その時は無理やり『あんなの要らないし』って思う事で、無事ゲットできたわね」


 紅葉さんでも、そんな非科学的な事をするんだ。いや待てよ、そもそもこの世界には魔法なんてものがあるんだ、非科学的なものがあっても変じゃない。


「じゃあ、やってみるか。『いやあ、ジャイアント魔石が手に入ってラッキー♪』……なんて思えるか! こんちくしょー!! 魔石なんて要らねーんだよぉ……!」


「要らないって……。普通に考えれば、このジャイアント魔石の方が遥かに価値があるわよね?」


「まあそうかもだけど……」


「失礼を承知で言うけど、あなたはこの価値を本当に分かってる? 赤木君の中でこれってどのくらいの値段と思ってる?」


「1000万円くらい?」


 ゲームではこのくらいの価値だった気がする。けど、この世界だともっと高く売れるのかな? 二倍三倍の価値がついたり?


「そんな安いわけ無いわよ?! 今までに記録に残っている世界最大の魔石『イビルグリーンパンケーキの魔石』は直径1メートルで一兆円……あれ一兆ドルだったかしら、を超えたのよ? まあ、それは当時の価格で今はもう少し安くなってると思うけど……」


「マジで? ジャイアント魔石って直径5メートルはあるよな……。これ、幾らになるんだ?」


「想像もできないわね。ここから脱出できれば、世界一の大金持ちになるわよ、あなた」


「だな。まあ俺は自分で使いたいから取っておくけど。紅葉さんは?」


「え、私も貰っていいの?」


 紅葉さんは心底驚いたような表情をする。


「当たり前だろ? 紅葉さんのおかげで周回がスムーズになってるんだし。で、紅葉さんは売るのか?」


「ええと、ちょっと想像できないわ……。どうしよう。というか、こんなのは全部捕らぬ狸の皮算用よ。まずはここから脱出しないと」


「だな。さて、もう少しジャイアントブラキオを、と言いたいが、今は物欲センサーが怖い。だから、ちょっと狙いを変えたいと思うんだけど、どうかな?」


「いいと思うわ。一度別の事をして戻ってきたら簡単にドロップする、なんてこともあるし」



 ジャイアントブラキオの生息地を後にした俺たちは、次の階層へと向かう、がその途中で嫌な奴と鉢合わせてしまった。



『クワ!』

『クワワ』


 自分の上腕二頭筋にキスしている、変な生き物が俺たちの前に姿を現したのだ。しかも二体。彼(?)はボディービルダーのように己の筋肉を俺たちに見せびらかしてくる。


『クワワ!』

『クワワワ』


 どうだい?と言うかのように、俺たちを見てくる魔物筋肉の名前はボクサー筋肉プテラノ筋肉。筋肉を愛しすぎたせいで、空を飛ぶという自分の種族特性すら忘れてしまった哀れな存在である。


「シュールだな」


「同意だわ」


『クワ~クワワワ!!!』

『クワ!クワ!クワ!!!』


 そして、これだけ筋肉を主張しているくせに、こいつは魔法攻撃も使える。威力は全然だけどな。


「魔法は本命じゃない、こいつの狙いは魔法に気を取られている俺たちにタックルを決めることだから!」


「ええ。あ、ほんとだ、走ってきた!」


 物凄いスピードで走ってきた二体のボクサープテラノ。俺は地面に氷を張って、急停止できないようにした上で、土魔法を使って岩の壁を生成した。なお、壁には鋭いとげを何本も生やしている。


『『クワ?!』』


 ボクサープテラノはとげの壁を回避しようとするも、氷の床の上ではそんなことできない。


 ドスン!


 巨体が土壁にぶつかった。奴らの体にとげが刺さっているが……。


『クワ!』

『クワワ』


 その頑丈な筋肉を貫くことは出来なかったみたいだ。二人ともぴんぴんしている。


「思ったより強いわね?! どうするの?」


「うわあ、想像以上の強度に俺もビビってる。一応水魔法が弱点のはずだから、氷水をぶっかけるか」



 こいつらは変温動物だからな、体を冷やされることには弱い。5分ほどで決着がついた。

 なお、戦いの終盤で、二匹のボクサープテラノが互いに抱きしめ合って暖を取ろうとしていたのがとてつもなくシュールだった。




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