ジャイアントブラキオ

「……以上がここに現れる敵とそのドロップアイテムだ。ここまではOK?」


 目の前で頭を抱えている紅葉さんに、俺はそう尋ねた。紅葉さんはこめかみを押さえつつ、俺のほうを見て答えた。


「どうしてここにいる魔物とそのドロップアイテムを把握しているのかという最大の疑問には目を瞑るとして。ええ、ひとまず理解したわ」


「そりゃあ良かった。何かもっと詳しく聞いておきたい事とかある?」


「そうね、まずは『テリステスの鎌』についてもう少し詳しく教えてほしいわ。即死の確率は自分たちが優勢であればあるほど上がるって言ってたわよね? つまり、戦闘開始直後は即死効果は出ないのかしら?」


 いい質問だ。テリステスの鎌の即死は、戦闘開始直後には発動しないんだよな。


「正解だ。敵のHPが残り1/3くらいになってやっと発動するかしないかって所だな」


「結構渋いのね。それでも相当破格の性能だと思うけど。だって戦闘時間の1/3をカットできるって事よね?」


「ああ。ただ、1/3っていうのは戦闘が理想的に進んでいる場合だ。それこそ『一方的に相手がボロボロになっていて、こっちは元気』みたいな状態じゃないと、1/3では発動しない」


「なるほど。そう都合のいいアイテムは存在しないのね……」


「まあ、俺の魔力量はかなり多いから、回復魔法も魔力回復も連打できる。つまり、こっちが万全の状態で敵だけボロボロにすることは出来るはずだ」


「やっぱり都合のいいアイテムじゃない!」


「そうだな。欠点は即死が10回発動したタイミングで壊れてしまうってことくらいか」


「あ、そういう制限はあるのね。なるほど、それじゃあまずは『タナトフィリア=テリステス』を狙うのね?」


「いや、残念ながらこの階層にはタナトフィリア=テリステスはいないはず」


「あ、そうなんだ。それなら……ジャイアントブラキオを狙う?」


「そのつもり。石筍地雷を集めるぞ」


「分かったわ。……まだちょっと怖いけど、頑張るわね」


 そっか、紅葉さんはジャイアントブラキオに殺されかけたばっかりなんだよな。ただ「俺一人で行こうか?」と聞いても「私がいたら邪魔? そうじゃないなら着いて行きたい」と言った。強い子だなあ。



 ジャイアントブラキオに攻撃されないよう、隠密をつかって奴に近づいてから俺は言う。


「まずは俺が倒してみる。紅葉さんは自分の身を守ることに専念してくれ」


「分かったわ。さっきみたいな事にはならないようにする」


 そうは言いつつも、ちょっと緊張しているように見える。


「危険と判断したら俺がフォローするから、そう緊張しないで」


「……! ええ、ありがと」


「よし、じゃあ攻撃するぞ! 感電するかな『雷球』!」


 雷で出来た弾がジャイアントブラキオの顔面に当たった。結果は……ほぼ無傷。



 ロオオォォォーーーー!!



 怒ったブラキオは空に向かって咆哮する。空に魔力が流れ、無数の魔方陣を形作った。


「『ブラキオ弾』だ! 避けるか相殺するかしろよ!」


「了解よ! なかなか派手な魔法ね、でもこのくらいどうって事ないわ!」


 紅葉さんの生み出す炎は実態があると聞く。それを高速で発射し、飛んでくる岩にぶつけることで、岩が着弾する前に粉砕している。そういえば実体を持った炎って俺でも再現できるかな? ……出来そうだ。よし。


「『火の槍』、いけ!」


 ブラキオの首を狙って火の槍を発射する。貫く事を意識した攻撃だから少しはダメージを与えられるはず!



 ロオオォォ?!



 俺の炎攻撃を見て「このくらいの温度なら当たっても平気だな」と思っていたのだろう、まさかそれが物理的に突き刺さるとは思ってなかったブラキオは驚いたような挙動をした。

 直後、ブラキオは尻尾を振って俺たちを攻撃してきた! ブルンと振るわれる尻尾。


「任せて、防いでみせる! 『守護之烈火』」


 紅葉さんは尻尾の軌道を逸らすように炎の盾を設置。自分を、そして俺を守ろうとした。

 しかし彼女は気が付いていない。この尻尾攻撃がブラキオにとっては本命の攻撃ではないことに。ジャイアントブラキオは尻尾を振りつつ、自身の足から地面に魔力を流している。


 ガツン!


 紅葉さんの魔法がブラキオの尻尾を弾いた。紅葉さんがうれしそうな表情をする。あー駄目だ、多分気が付いていないな。


「油断大敵だぞ!」


 俺は紅葉さんに近づいて彼女の体を抱きかかえ、その場で大きくジャンプ。直後、俺たちがさっきまでいた場所に先が針のように鋭い石筍が生えていた。

 魔力で足場を作って空中を一歩、二歩、三歩。少し離れた場所にあった安全地帯に着地した。


「あ、ありがと。助かったわ」


「どういたしまして。さてと、今度は地団駄をするっぽいな! こけないように!」


「分かったわ。ってすごい揺れね」


「これが魔法じゃなくて物理攻撃って言うんだからすごいよな。『ダークスフィア』『百炎弓』『百氷弓』ついでに『氷華』!」


 65層にいる恐竜だったらここまでで体力の半分くらいは削れていると思うけど、狂龍相手だとまだまだ駄目そうだな。

 もっと決定打になる魔法はないか? あ、もしかして。


「紅葉さん、ちょいと失礼」


「? きゃ!」


 再び紅葉さんをお姫様抱っこした俺は、風魔法を使って自分を発射した。ジャイアントブラキオの背中に向かって。


 ロオオオ!?

「きゃあああ!」


 ははは。紅葉さんもジャイアントブラキオも驚いている。

 すたっとジャイアントブラキオの背中に着地を決めた。


「ここなら攻撃しにくいだろ?」



 ロオォ……!



 ジャイアントブラキオが「ぐぬぬ……」みたいな声を発する。


「ちょっと! すごいけど、びっくりしたじゃない?!」


 紅葉さんがほほを膨らませている。可愛いな、おい。紅葉さんって大人な雰囲気があって、美人ってイメージだったけど、今の彼女の表情は子供っぽさがあってすごくいい。


「まあまあ。さてと、ブラキオ君、これを食らえ!」


 地面、というかブラキオの背中に無数の岩を設置。それを火魔法で高温に熱する。


Q.岩を高温で熱しました。何になるでしょう?

A.溶岩



 ジュワアア!と肉が焼ける音がする。ジャイアントブラキオは必死に尻尾を振って俺たちを振り下ろそうとするが、紅葉さんがそれを防いでいる。


 ロオォォォォォ!!!!


 苦しそうに鳴いたジャイアントブラキオは、自滅覚悟で己の背中に向けて『ブラキオ弾』を発射する。ちょっとこれはまずいな、撤退するか。


「撤退するぞ」


「ええ」



 風魔法のクッションがあるから安心とはいえ、5階建てくらいの高さから飛び降りるのは怖かった。



 この後、追加で5分ほど戦った末、俺たちはジャイアントブラキオの討伐に成功したのだった。ドロップアイテムは……ブラキオの剣。要らん! 次!






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